IT記者会Report

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受託系ITサービス業の4~6月期DI値は▲46.2ポイント

景況見通し、過去最大88ポイントの下落

情報サービス産業協会(JISA、正会員497社)が4月30日に公表した「JISAーDI調査(令和2年3月期)」の数値は衝撃的だった。4~6月の売上高見通しDI値が▲46.2P(▲はマイナス、Pはポイント)だったのだ。

1~3月が△41.4P(△はプラス)だったので、88P近く下落したことになる。マイナスになったのは2011年4~6月期の▲35.0P以来9年ぶり、下落幅は過去最大だった。

同調査はJISAの主要な会員企業を対象に、四半期ごと、年4回実施されているもので、大別すると業務別、取引先業種別の売上高見通しDI値(増加%から減少%を引いたもの)が公表されている。

回答企業の数や規模が明らかになっていないため、数値の信頼性に若干の不安があるものの、受託系ITサービス業における取引ポジション上位企業の景況見通し参考値と位置付けていい。

アドホックかルーチンの差が端的に

まず公表値を紹介すると、主要業務のうち「受注ソフトウェア」は▲43.8P、「ソフトウェアプロダクト」は▲33.3P、「計算事務等情報処理」は▲4.8P、「システム等管理運営受託」は▲2.8P、「データベースサービス」は0.0(増減なし)だった。

アドホックな「ソフトウェア受託開発」と「ソフトウェアプロダクト」は景況変化の影響を受けやすく、ルーチンワークストックビジネス型の「計算事務等情報処理」と「システム等管理運営受託」は安定的という特徴が端的に出た。

「受注ソフトウェア」は「増加」見通しが1~3月期の45.3%から0.0%に落ち、「減少」の見通しが0.0%から43.8%に急増という極端な変動を見せている。

「ソフトウェアプロダクト」も同様に「減少」の見通しが増加しているものの、「増加」の見通しが3%、「横ばい」見通しが60.6%となっている。ユーザー企業が購入を様子見している状況が示されている。

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4〜6月の売上高見通し(業務別)

取引先業種では製造業が最大の落込み

取引先業種別では、「製造業」の▲48.8Pを筆頭に、「建設・不動産業」▲37.0P、「卸売・小売業」▲34.3P、「サービス業」▲33.3P、「金融・保険業」▲29.7P、「電気・ガス業」24.1P、「情報通信業」▲23.7P、「官公庁・団体」▲10.8Pと、全業種がマイナスとなった。

このうち1~3月期と比べ「減少」の見通しの落ち込みが大きいのは、「製造」が49.0Pでトップだった。以下、「卸売・小売業」40.0P、「建設・不動産業」37.0P、「サービス業」34.1Pの順。「電気・ガス業」は「横ばい」が4.5P増加、「官公庁・団体」は同じく「横ばい」が19.3P増加した。公共サービスは不況に強いということだ。

「金融・保険業」はメガバンクのシステム統合がひと段落したこともあって、「増加」の見通しが8.1%あるなど極端な落ち込みはなかった。平均して売りげ高の3割を占める同業者間取引きの変動は確認できない。

また本調査はエンタープライズ系業務アプリケーションの開発・運用に軸足を置いている受託系ITサービス業が対象なので、エンベデッド系アプリケーション開発や通信サービス系の状況は反映されていない。

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4〜6月の売上高見通し(取引先業種別)

依然として強い人手不足感

これに対して雇用(採用)判断では、「人手不足」感が依然として強いことが明らかになった。要員について「不足」%から「過剰」%を引いた雇用判断DIがそれ。「不足」は1~3月期の77.7%から59.6%に減少したものの、「過剰」は引き続き0.0%のためDI値は59.6Pとなった。

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4〜6月の雇用判断

4~6月の売上高見通しに黄色信号(▲46.2Pの大幅減速)が点滅しているにもかかわらず、なぜ雇用判断は「人手不足」なのだろうか。会社の組織ないし指揮命令系統を考えると、どうやらそれは、回答の情報源が異なるためではないか、ということに気がつく。

売上高見通しは営業部門から経営陣に情報が上げられ、雇用判断は現業部門から人事部門に要求が集約される。現業部門は契約に基づいて稼動しているため、向こう3〜6か月先の受注状況が勘案されない。その結果、「人手不足」感と売上高見通しには3~6か月のズレが生じるのだ。

4~6月期の売上高見通しに黄色信号が点滅したということは、主力のソフトウェア受託開発業務の新規プロジェクトが先延ばしになっていることを示している。つまり7~9月期に回復(ないし上昇)に転じるかどうかは予断を許さない。

だけでなく、4月新卒採用が重なっていることだ。本調査に回答した企業は業界大手ないし地域での取引ポジション上位に位置する企業が多いので、7~9月期に元請け(ないし2次請けクラス)で人員余剰の第1波、10月以後に3次、4次下請けに第2波が押し寄せると予想される。