IT記者会Report

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情報処理・振興の終焉 軸足はIT利用促進へ

 やっとーー。「経済産業省が情報処理振興課(情振課)を廃止」のニュースに対する反応だ。情報処理を振興する時代ではないのだから当然、という声もある。しかし当の受託型ITサービス業界(例えば情報サービス産業協会)から特段の反応はないようだ。時代遅れといわれようと、受託系ITサービス業の振興を担う政策所管課がなくなるとなれば、業界はもっと大騒ぎしていい。むろん情振課が廃止されても、同課が所管しているソフトウェア業は新設される「情報産業課」に、IT利活用とIT人材育成は同じく新設の「情報技術利用促進課」に、それぞれ引き継がれる。施策の継続性は維持されるだろうが、ソフトウェア業を中心にして展開してきたIT人材育成やソフトウェア/システムの品質・安心・安全、IT受発注における契約のあり方などは、IT利活用に軸足を移す。

無担保融資などが業界発展の基礎

 情振課が設置されたのは1970年5月に成立・施行された「情報処理振興事業協会等に関する法律」で情報処理振興事業協会IPA)が法的根拠を持ち、同協会を通じて受託型ITサービス業の振興が図られた。同年6月にソフトウェア産業振興協会(ソフト協)、日本情報センター協会(センター協)が設立されたのはそのためだ(1984年に両協会が合併して情報サービス産業協会)。
 以後、情振課はシンクタンク、ソフトウェアモジュール技術研究(1970年代)、ソフトウェア生産工業化システム(Σシステム)、システム・インテグレーション税制((1980年代))、ソフトウェア・ライフサイクル・プロセス(1990年代)、ITスキル標準(2000年代)といった施策を講じてきた。通底するのは、初代課長・平松守彦氏(2016年8月22日逝去)が提唱した「脱・工業化社会」の概念だった。
 すべてが期待した成果をあげたわけではなかったにしても、ソフト会社市中銀行が無担保融資を行うための信用保証制度、特定プログラム委託開発事業、情報処理技術者試験制度、業界団体の統合などが、受託型ITサービス業の業容拡大に貢献したことは間違いない。まさに「情報処理振興」施策の面目躍如だが、受託型ITサービス産業の売上高が10兆円を超えたあと、2001年の1月の中央省庁再編の時点で、「情報処理の振興」は終わっていたといっていい。

受託サービス業は生体反応ナシ

 実際、21世紀に入って、しばしば「情振課は漂流している」という言い方を耳にするようになった。目標を失っている、という意味だ。ソフトウェアの品質・安心・安全性の確保や情報セキュリティ対策に力を入れるようになったのを見て、「情報処理の振興とは名ばかりで、受託型ITサービス業は視野に入っていない」と皮肉られることもあった。
 しかし情振課は何度か、受託系ITサービス業の多重取引構造や、中央・地域の格差問題の是正を試みた。クラウド時代に対応したビジネスモデル転換を図ろうとしたこともある。ところが、当の受託型ITサービス業が反応しなかった。
 同類・同質の企業が連鎖する多重取引構造が、産業の魅力を曇らせ、未来志向の知的産業であることを否定している。当の産業がぬるま湯に心地よく浸かっている方を選んだのだ。そうこうしているうち、気がつけばIoT(Internet of Things)、ビッグデータ、AI(Artificial Intelligence)による「第4次産業革命」が喫緊の課題となっている。

情報産業課の役割は軽くない

 来年6月に新設予定の情報技術利用促進課は「第4次産業革命」をコンセプトに置くことでいいとして、情報産業課は何をするのか。「緩慢な死」に向かっている受託型ITサービス業の幕引きを演出するだけではないか、という声が聞こえてくる。となれば、受託型ITサービス業に内在する宿痾のごとき課題をえぐり出し、不合理な値下げ要求の規制や技能に応じた単価の目安など準強制力を備えた施策、あるいは思い切った経営統合を仕掛けるか。
 情報利用技術促進の施策は分かりやすいし、産業界から受け入れられるだろう。対してエンタープライズ系ITシステムや受託型ITサービス業の将来像をどう描くか等は内向きで地味。だとしても、情報産業課の役割は決して軽くない。