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製品系と受託系のアンマッチ 業界アンブレラ構想の危うさ

製品系と受託系のアンマッチ
加えてJISAはのけ者

 10月9日、「日本IT団体連盟」の結成が明らかになった。筆者がその動きを察知したのは昨年11月だが、「日本を代表する最大にして唯一のITサービス業団体」を自称する情報サービス産業協会(JISA)は4月まで把握しておらず、現時点でも同連盟からのけ者にされている。「連合、統合ありきではない」(JISAの横塚裕志会長)は当然として、同連盟が掲げる「サイバー・ディフェンス・リーグ構想」と「IT人材需給ギャップの解消」は目くらまし感満載。まさか政治献金と集票がねらいじゃないだろうな。

f:id:itkisyakai:20171212210104j:plainアジャイルのアンブレラ

 「日本IT団体連盟」の動きが伝わってきたのは昨年の11月。「アジャイルのアンブレラ」に喩えて、個々の団体はこれまで通り個々に活動しつつ、その上位に連合会を作り、政策提言を強化していこう、という。主旨はいいとして、何をミッションにするのか、どのような団体が参加するのか、もちろんその時点では分からなかった。
 分かっていたのは、中心的に活動しているのがコンピュータ・ソフトウェア協会(CSAJ)ということだ。なるほど今年の年明け、複数の業界団体の賀詞交歓会の挨拶でCSAJの荻原紀男会長がそれに近いことを口にしていた、と思い当たる向きも少なくあるまい。
 2月に入手した"声かけリスト"に載っていたのはどれも聞き覚えのある受託系の業界団体。「日本を代表する最大にして唯一のITサービス業団体」を自称するJISAはリストに入っていなかった。
 ーーさては中堅・中小IT事業者の視点から独自の政策要求を掲げていくのか……?
 とは思ったものの、
 ーーしかし製品系・販売系が主体のCSAJが連携するなら、ASPICやMIJSだよな。
 と考えた。
 ASPICは「ASPSaaSクラウド普及促進協議会」(河合輝欣会長)、MIJSは「Made In Japan Software Consortium」(平野洋一郎理事長)のこと。前者はパッケージ型ソフトウェアの販売形態の一つであるネットを介したアプリケーション・サービス・ベンダーの集まり。後者は国産のソフト製品を輸出して行こうというグループだ。なのに受託系、しかも下請け孫請け曽孫請けの中小・零細IT企業団体、というのはどうも解せない。
 この"腑に落ちない"感は、10月9日のCEATECシンポジウムでアンブレラ構想が明らかになった現在も続いている。ZDNetの記事《5年間で4万人のエンジニアが必要ーーIT分野の新業界団体「日本IT団体連盟」発足》が、荻原紀男CSAJ会長の「ボランティアで対応できるエンジニア」発言をそのまま記載して炎上したのはともかく、受託系ITサービス業は"緩やかな死"に向かっているいま、この連盟にどのような意味があるのか。

1988年にも同様の構想

 関連で思い出したのは、1988年にも似たような構想があった、ということだ。JISAと神奈川県情報サービス協会(KIA)の代表者が東京・虎ノ門、今は無き小料理屋「とらふぐ」の一室で会合し、相互に連携を強化することで合意したのだ。なぜそのように言えるかというと、筆者は会合の設定者としてその場に立ち会っていたからだ。
 1984年の6月、紆余曲折の末にソフトウェア産業振興協会と日本情報センター協会が合併して、初の統一団体としてJISAが誕生した。それから数年を経たばかりなのに、もう一つ全国組織ができたのでは業界が混乱する。そこで
 ①JISAは地域団体の協議会(現在の全国地域情報産業団体連合会:ANIA)の運営に口をはさまない
 ②代わりに地域団体はJISAに会員として加入する
 ーーという合意が成立した。
 当時、KIAはANIAの方向性を左右する立場にあって、この会合のあと、北海道と岡山・広島県を説得した。地域団体がJISAに会員として加入することで、「JISAが我が国を代表する唯一の情報サービス業団体」の体面を保ったわけだった。
 この合意にはもう一つの構想が含まれていて、それはJISA、ANIAのほか、日本電子工業振興協会電子情報技術産業協会の前進)のソフト部会、日本パーソナル・コンピュータ・ソフトウエア協会(コンピュータ・ソフトウェア協会の前進)、日本システムハウス協会(組込みシステム技術協会の前進)などをカバーする大連合を形成する、というものだった。背景には、通産省の大型プロジェクト「ソフトウェア生産工業化システム(シグマシステム)」があった。

真の狙いは政治力の獲得?

 しかし今回のアンブレラ構想はちょっと違う。以下は筆者の想像だが、「サイバー・ディフェンス・リーグ構想」は2020年の東京オリンピックにからめた予算確保、「IT人材需給ギャップの解消」はより多くの受託系IT団体を集めるための目くらましではあるまいか。これも全くの推測だが、多くの企業を集めることによって政治力を獲得しようとしているのだろうか。具体的には数の理論および、政策立案のための資金と集票だ。それを察知したのか、ANIA加盟の某地域団体は「ちょっと距離を置きたい」という。
 この10年、業界の政策提言力が弱くなっていることは否めない。1970年代から一貫して、政治サイドで情報化社会を推進した情報産業振興議員連盟は、発足から40年を過ぎてかつての存在感を薄くしている。政策中枢にパイプを持つ業界側の人物が引退もしくは鬼籍に入り、一方、小泉劇場、民主政権、自民復権の3回の揺り戻しで、ITサービス業を理解している国会議員が見当たらなくなった。
 ばかりでなく、バブル崩壊(1992年秋)以後、業界各社が目先の利益を優先して「発注者の言う通りに仕事をするのが自分たちの立場」と宣言するに及んで、中央官庁や経済界に業界の意思・要望、中長期的な展望を伝える努力をしなくなった。政治献金などもってのほか、である。
 結果、ITサービス業界は政策提言どころか、ITで利便を得ている人々(広範囲な一般ユーザー)やITシステムの発注者(行政機関や企業・団体など)に、自分たちの役割や重みを発信することもできなくなっている。JISAをのけ者にしてアンブレラを作ろうという動きは、まさにそのような現状への不満を反映したものといっていい。
 
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族議員輩出の生臭さ

 ふと足元を見れば、ITサービス業は従業員100万人、家族を含めればざっくり350万人だ。その7割が有権者とすれば245万人なので、最低でも5~6人、うまくいけば10人以上、国会議員を送り出せるではないか―という発想が、連合会構想の背景にあるのではあるまいか。実際、今年の賀詞交換会に荻原氏と親しげにしていた自由民主党の某議員が、壇上に立って、
 ー就業者が100万人もいるのに族議員が1人もいないのは、まことに不可思議な状況と言わなければなりません。
 と語っている。
 ここで留意したいのは、「過日、CSAJの方が東京オリンピックのセキュリティ人材の受け皿団体を作りたいと言って帰った。いきなりだったのでびっくりした」という情報だ。
 マイナンバー制度のスタートもあり、情報セキュリティ、なかでもサイバー・セキュリティには関心が高い。来年の春には情報セキュリティマネジメント試験がスタートする。また10月7日、業界団体のアンブレラ構想が公表された同じCEATEC JAPAN2015で、情報処理推進機構IPA)のソフトウェア高信頼化センター(SEC)がIoT(Internet of Things)に対応した「つながる世界のセースティ&セキュリティ設計入門」を発表したばかり。
 経産省の幹部は「セキュリティと謳いさえすれば予算が取れる」と明言する。「言い方は悪いが、セキュリティ関連の施策はこれまで、何か事件が起こるのを待っていた感がある。その意味でマイナンバーと東京オリンピックは恰好のネタ」という声もある。
 妄想を逞しくすると、「サイバー・セキュリティ対策議員連盟」のような政策研究組織を想定しているのか、とも思えてくる。だが特定産業を資金源とする族議員ないし、積極的に政治と癒着していこうという動きは、いかにも旧守的かつ利益誘導の生臭さがつきまとう。

木っ端微塵のWGや研究会

 横塚JISA会長は「関連団体とはテーマごとに連携・協力していく。連合ありきではない」という考えを示している。また同事務局は、「JISAは所管省の経産省ばかりでなく、総務省内閣府などに政策提言、意見書、要望書などを提出している」と反論する。
 さらに突っ込んでいくと、「自由競争の原則がある一方、業法の裏付けがないので協会に規制や指導の力が与えられていない」という言い訳が出てきた。ならば業法制定に動けばいいわけだし、「書面や口頭で申し入れるだけでは実効性が疑わしい」「結局は批判に対するアリバイ作り」という指摘があるのは事実だし、「多重下請け構造にメスをいれないまま、グローバル化やデザインシンキングを謳うのは冗談としか思えない」との批判は避けて通れない。
 「JISAはソフトウェア工学の研究会やセミナーを開いている。また横塚新会長の下でJUAS(日本情報システム・ユーザー協会)との連携が進み、11月にデジタルビジネスデザインをテーマにしたシンポジウムが開かれる。しかし会員企業の仕事に、その知識や手法が役立っているのか」
 この問いに対する答えが、
 「発注者の意向が優先するので、受託する側からこうしましょう、ああしましょうとは言えない」
 では、政策提言の資格が疑われる。むろん、だからといってビジョンなき野合に近い新団体を可とするわけではない。受託系ITサービスの業界団体をドンガラして再編したところで所詮は泥舟。乱立といわれようが、テーマごとに木っ端微塵にして、ワークグループや研究会にしたほうがいい。あ、それならもうできている。