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JISAはもう終わり 「JISA Spirit」のピンボケ ソフトウェアで革命は起こせるか


 情報サービス産業協会(JISA)が「価値創造産業へ向けての業界宣言 JISA Spirit」を発表した。「ソフトウェアで革命を」以下、分かりにくいのだが、「一人ひとりにおどろきを」「お客様にきらめきを」「私たちにワクワクを」と読むらしい。素人っぽくていいじゃないか、と許容する向きもあるだろうが、《ソフトウェアで革命を》はピンボケそのもの。ここまでくると「JISAはもう終わり」の声も聞こえて来る。

4つのキャッチと4つの解説

 まずは「JISA Spirit」の中身を見ていただきたい。
 キャッチコピーは4つ。
  ソフトウェアで「!(革命)」を
  一人ひとりに「!(おどろき)」を
  お客様に「!(きらめき)」を
  私たちに「!(ワクワク)」を
 !マークが特段に大きく表記されているのは、感動・感激の意味を込めているのに違いない。ただ「!」に革命、おどろき、きらめき、ワクワクという意味ないし読み方を付すのは無理がある。
 この解説は次の4つ。

?「ソフトウェアはすべての産業の基盤(Software Defined Everything)」であり、情報サービス産業にはすべての産業が世界で戦えるようにリードしていく使命がある。
?あらゆる産業がソフトウェアを駆使して、新たなイノベーションを起こしていくデジタルビジネス時代。情報サービス産業には、その先頭を走り、大きな革命を起こしていく使命がある。
?情報サービス産業の未来は大きく輝いており、これからの若者にふさわしい産業である。私たちには、情報サービス産業をより魅力ある産業に変革する使命がある。
?新しい技術が続々と現れ、進化する時代。規模の大小や地域性にかかわらず、独創的なソフトウェアをいち早く創造することで、大きな価値を生み出し、飛躍することができる。

 第1番目のキャッチコピー《ソフトウェアで「!(革命)」を》は宣言の顔のようなものだが、まずこれがいけない。ソフトウェアで革命は起こらない。このコピーを考え出した人は、「革命」(Revolution)の意味を知らなかったのかもしれない。たぶん「改善」(Improvement)とか「改革」(Reformation)、「革新」(Innovation)と言いたかったのだろうけれど、そうだとしてもソフトウェアは「改善」も「改革」も「革新」も生み出さない。常日頃、「何を目的にITを利用するのか、それを明確にしないとシステムを作ることはできない」と強調しているのは、当のJISAではなかったか。
 キャッチコピーの2番目「一人ひとりにおどろきを」と4番目「私たちにワクワクを」は許すとして、3番目の「お客様にきらめきを」とは何か。ここで「お客様」という言葉を使ってしまうこと自体が、下請け根性の露呈というものだ。

発表文の内容は……

 「宣言」とともにJISAのホームページに掲示された発表文は次のようである(原文ママ)。
 今、あらゆるモノがインターネットでつながるIoT(Internet of Things)が、経済社会の在り方を根底から変えつつあります。様々な現場の膨大なデバイスから大量のデータが収集・解析され、新たなビジネスが次々と創り出されるデジタルビジネス革命の時代に入ってきています。
 2020年を挟むこの10年は、かつて経験したことのないダイナミックな変化が予想されます。その変化の主役は、ソフトウェアにほかなりません。経済社会のあらゆる営みがソフトウェアに大きく依存し、ソフトウェアによって形成される時代になるに違いありません。まさに情報サービス産業の前途に新たな活躍の時代の幕が切って落とされようとしています。
 この新たな時代の担い手となるためには、従来型の受託開発からグローバルに通用する新しいビジネス創造へと事業領域を拡大していく必要があります。また、それを支えるエンジニアには、新しい技術や開発手法を習得し、それを武器にビジネスを創造し提案していくなど、変革の主役として先導することが期待されています。
 そこで、JISAは、情報サービス産業そのものをより高いレベルに引き上げ、若者に情報サービス産業の魅力を伝えるため、“ソフトウェアで「!(革命)」を”と題する業界宣言「JISA Spirit」を発表いたしました。
 これは、JISA会員はもとより、情報サービス産業全体が「システム受託産業」から「価値創造産業」へ大きく生まれ変わることを宣言するものです。
 なお、平成27年11月27日に開催予定の「JISA Digital Masters Forum 2015」にて、横塚会長及び情報サービス産業の将来を担う若者が「JISA Spirit」についてプレゼンテーションを行う予定です。

 
 最後まで読むと、なんだイベントの宣伝か、と思ってしまう。それにしても恐縮だが、文章が下手。例えば第1フレーズにある「経済社会の在り方」「膨大なデバイス」「ビジネスが次々と」といった表現がそれで、もし筆者がチェックしていたら「全部書き直し」と指示することになる。ただし、ここでその一々に触れるのは、越権行為になるので止めておく。
 なんといっても「宣言」なのだ。格調ということを考えなかったのか。協会が大好きな某雑誌社の記者にチェックしてもらえば、もうちょっとマシな文章が出来上がったのではなかろうか。いかにも素人らしくていいじゃないか、と好意的に受け取る向きもあるだろうし、ざっくり眺めればまず文句はないところかもしれない。
 とはいえ、ここに記されているのは学生の感想文のレベル。IoT、ビッグデータ、グローバル、ビジネス創出と最近の流行り言葉を並べたステレオモードではないか。実務で受託型のITサービス/ソフトウェア受託開発にかかわっている人たちが、本当にこのようなことを考えているのか、と首を傾げたくなってくる。
 なるほどキャッチコピーの3番目に「情報サービス産業の未来は大きく輝いており、これからの若者にふさわしい産業」とあるように、このメッセージは新卒者の就職/採用を意識している。1960年代から業界の内外で指摘されている「ソフト技術者35歳限界説」に加え、この10年、受託型ITサービス/ソフトウェア受託開発業は3Kだ、4Kだと揶揄されている。それで「そんなことはありません」と言いたいのだろうが、未来志向型を訴えるのは空手形(ないし騙し)に等しい。
 横塚裕志氏が会長に選出されたのは今年6月。ほぼ半年が経って、そろそろ横塚色が出ていいのだが、その最初が実態とかけ離れた「価値創造産業へ向けての業界宣言 JISA Spirit」、「JISA Digital Masters Forum 2015」では先が思いやられる。これ以上、机上の空論を振り回すのなら、JISAはもう解体したほうがいい。