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改善止まりで崖に落ちる前に──DXの要諦はサイバー/フィジカルのCPS指向で臨むこと

2018年9月に経済産業省が公表して“2025年の崖”の警鐘を鳴らしたDXレポートから3年。デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉はテレビCMでも喧伝されるまでに浸透した。だが実際の取り組みはというと、本格的なデータ活用も業務のデジタル化も一向に進まないところが大半。「DXは正真正銘のバズワードになった」という声も上がっている。DXの取り組みがなぜうまく進まないかを考えると、ITの高度活用の巧拙というより、日本企業の現場に根づくフィジカルな問題に突き当たる。そこで必要になるのがCPS(Cyber Physical System)の指向・視点である。

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デジタルツインの概念(出典:ゲッティ イメージズ

 

オッサン世代が実現したVAN/EDIにも学び、言葉だけではないリアルなDXの取り組みを

 

 情報処理推進機構IPA)が刊行した『DX白書2021』に、DXにおける日米比較調査の結果が載っていて、以下の数字が判明している(関連記事:IPA『DX白書2021』に見る、日本企業の古色蒼然)。

●「全社戦略に基づき、全社的にDXに取り組んでいる」「一部の部門においてDXに取り組んでいる」の回答割合:日本45.3%、米国71.6%

●「経営者・IT部門・業務部門の協調ができている(「まあまあできている」を含む)」:日本39.9%、米国86.2%

●「デジタイゼーション(アナログデータ、物理データのデジタル化)で成果が十分に出ている」:日本17.0%、米国56.7%

●「KPI(重要業績評価指標)に対する毎月の評価・見直しを行っている」:日本6.3%、米国47.0%

 これらの数字を見るに、日本企業/経営者は、DXをIT部門のミッションととらえ、短いサイクルで経営戦略を見直し・修正することに概して消極的である。アジャイル型のKPI評価が馴染まないのは、事業年度ごとに中・長期事業計画を策定する企業文化が色濃く影響しているし、その奥には根強い年功序列型の階層構造が潜んでいる。

 それはそれとして、最も大きな問題は、多くの日本企業がDXを旧来のIT活用の延長線上に位置づけていて、経営者が「わがこと」と捉えていないことではあるまいか。

図1:KPIの評価サイクルと評価ポイント(出典:IPA『DX白書2021』)

ゴールはダイバーシティSDGs

 1980年代のOA(オフィスオートメーション)、1990年代のクライアントサーバーシステムやオープンシステム、2000年代のイントラネットやWebアプリケーションなど、歴史を通じて企業におけるコンピュータの活用は「業務効率化」「コスト削減」が錦の御旗だった。それらは、DXという言葉が浸透した今も、「生産性向上」「業務改革(という名の業務改善)」と呼び方が少し変わっただけである。

 認識を共有するために、DXが本来目指すところを確認しておくと、バズワードのオンパレードとなってしまうが、ダイバーシティ(Diversity:多様性)とSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)に帰着する。ダイバーシティは、自己都合優先(自己中心)の上から目線から他者と共存するための水平目線への転換を指し、SDGsはサービス指向による価値の創出とエンドレスな業態変容につながっていく。

 ダイバーシティアイデンティティ(個の自律性・独自性・連続性)の再認識から始まるように、DXも自らの現状把握が欠かせない。現状分析(As-Is)から導かれる問題点や課題を埋めるのがこれまでのIT設計手法だった。その先に「あるべき姿」(To-Be)がある。各所で何度も説明されてきたことだ。

 しかし、それは大きな錯覚だということに我々は薄々ながら気づいていた。真の「あるべき姿」を追求すると、場合によっては現状を否定することになりかねない。たかがIT部門ごときがちゃぶ台返しするなんて許されるか。そうした大人の事情もあって、何となく現状の改善策を「To-Be」と呼ぶことにしてきたのではなかろうか。

 ところが、DXはAs-IsでもTo-Beでもない。現状の把握と分析からスタートするのは一緒でも、対象は業務プロセスではない。その前にある「業種」「業容」に焦点を合わせて、デジタル技術の影響(プラス効果とマイナス効果)を客観的に分析し、認めるべきことは認め、プラス効果を最大化する方策を検討する。そうすることによって、初めて真の「To-Be」が見えてくる。関連記事As-Is/To-Beはもはや限界、“DXの見取り図”からデジタル基盤を築けるかで、「ドン・キホーテになってデジタルを妄想せよ」と論じたのはそれゆえだった。

 

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