マンパワー型 増員にブレーキかからず
確認のために、これまでの"おさらい"をしておこう。重複する部分が多いので、今回は直近のピークだった2008年(リーマン・ショック発生年)と比較してみる。受託系(特にマンパワー型)ソフト/サービス業の2015年業況は「利益なき繁忙」、つまり低付加価値構造から脱していないことを数字で示すとともに、その構造を分析するためだ。最大の要因は見かけの売上増と過去の成功体験が、現実を直視させていないことにある。(文中△はプラス、▲はマイナス)
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■ 言いたくなる気持ちは分かる ■
ICT関連株式公開企業の2015年通期業況は次のようだった(カッコ内は2008年比。p:ポイント)。
まずは単純比較から。
【全体】
〈集計企業数〉525社(△10社)
〈就業者総数〉 301万9,253人(△6.5%)
正規雇用 267万2,378人(△3.8%)
非正規雇用 34万6,875人(△33.2%)
非正規雇用率 11.5%(△2.3p)
平均年齢 40.0歳(△1.9歳)
勤続年数 14.9年(△1.1年)
平均年収 712.2万円(▲4.63万円)
〈業績〉
売上高 97兆6,008億74百万円(▲0.3%)
営業利益 7兆2,369億92百万円(△4.8%)
経常利益 7兆3,423億93百万円(△9.3%)
純利益 4兆1,042億93百万円(△22.5%)
〈経営指標〉
営業利益率 7.4%(△0.4p)
経常利益率 7.5%(△0.7p)
純利益率 4.2%(△0.8p)
売上高は2007年実績にわずか0.3%届かなかったーーということはリーマン・ショック直前の水準にほぼ回復したわけだ。営業利益率・純利益率ともに上昇なのだから、「さすがアベノミクスの効果」と言いたくなる気持ちは分からないでもない。
■ ところが1社当りに直すと ■
ところが、アベノミクスの効果、というのは大きな間違いなのだ。それというのは比較する数字の元になった集計企業数が違う。2015年は525社、2008年の集計企業は515社だった。そこで「1社当り」で比較する。2015年における就業者の平均年齢・勤続年数・平均年収、業績経営指標は全体と変わらない。
【1社当り】
〈就業者総数〉 5,751人(△4.5%)
正規雇用 5,090人(△1.8%)
非正規雇用 661人(△4.5%)
〈業績〉
売上高 1,859億06百万円(▲2.2%)
営業利益 137億85百万円(△2.9%)
経常利益 139億86百万円(△7.2%)
純利益 78億18百万円(△20.1%)
2008年の就業者総数は283万4,424人(非正規雇用率9.2%)だったので、就業者1人当りで業績を比較する。
【1人当り】
売上高 3,232.6万円(▲6.4%)
営業利益 239.7万円(▲1.6%)
経常利益 243.2万円(△2.6%)
純利益 135.9万円(△15.0%)
売上高の1社当りが1,859億円、1人当りが3,232万円と言うと、多くの受託系ソフト/サービス業関係者は内心で「え~ッ」と言うに違いない。それはその通りで、この数字にはハードウェア関連2業種(機器製造業、機器卸・販売業)とモバイル通信サービス業が含まれている。その3業務を除いた「ノンハード=ソフト/サービス」はどうだろうか。
■ ノンハード 売上高は▲20% ■
【ノンハード】
〈集計企業数〉446社(△12社)
〈就業者総数〉 70万2,773人(△63.3%)
正規雇用 53万2,843人(△48.2%)
非正規雇用 16万9,930人(△140.0%)
非正規雇用率 24.2%(△3.3p)
平均年齢 37.5歳(△2.3歳)
勤続年数 10.6年(△1.4年)
平均年収 623.9万円(▲3.0万円)
〈業績〉
売上高 15兆9,560億18百万円(▲4.4%)
営業利益 1兆6,342億71百万円(△4.2%)
経常利益 1兆7,293億24百万円(△13.5%)
純利益 9,844億23百万円(△57.5%)
〈経営指標〉
営業利益率 10.24%(△0.8p)
経常利益率 10.8%(△1.7p)
純利益率 6.2%(△2.4p)
【1社当り】
〈就業者〉
就業者総数 1,575.7人(△16.6%)
正規雇用 1,194.9人(△11.8%)
非正規雇用 381.0人(△34.9%)
〈業績〉
売上高 357億76百万円(▲7.0%)
営業利益 36億64百万円(△1.4%)
経常利益 38億77百万円(△10.4%)
純利益 22億07百万円(△53.3%)
【1人当り】
売上高 2,270.4万円(▲20.2%)
営業利益 232.5万円(▲13.0%)
経常利益 246.1万円(△5.3%)
純利益 140.1万円(△31.5%)
ちょっと待て、お前は「就業者総数が1.5倍に増えた。1人当り売上高は3割減った」と書いたではないか、と言いたくなる向きがあるかもしれない。いや、それは受託系ソフト/サービス業の2005年比、つまり11年前と比べてのことである。2008年比は以下のようだった。
【受託系】
〈集計企業数〉220社(▲12社)
〈就業者総数〉 47万9,007人(△57.2%)
正規雇用 35万6,313人(△35.8%)
非正規雇用 12万2,691人(△194.8%)
非正規雇用率 26.5%(△7.3p)
平均年齢 37.8歳(△2.6歳)
勤続年数 11.3年(△1.8年)
平均年収 609.3万円(▲9.8万円)
〈業績〉
売上高 7兆7,592億45百万円(▲7.5%)
営業利益 5,603億26百万円(△2.0%)
経常利益 5,652億95百万円(△1.4%)
純利益 3,085億43百万円(△101.7%)
〈経営指標〉
営業利益率 7.2%(△0.7p)
経常利益率 7.3%(△0.6p)
純利益率 4.0%(△2.2p)
【1社当り】
〈就業者〉
就業者総数 2,177.3人(△29.4%)
正規雇用 1,619.6人(△17.8%)
非正規雇用 557.7人(△81.5%)
〈業績〉
売上高 352億69百万円(▲2.4%)
営業利益 25億47百万円(△7.5%)
経常利益 25億70百万円(△6.9%)
純利益 14億02百万円(△112.7%)
【1人当り】
売上高 1,619.9万円(▲24.6%)
営業利益 117.0万円(▲16.9%)
経常利益 118.0万円(▲17.4%)
純利益 64.4万円(△64.3%)
業績の08年比は、例えば売上高は全体▲7.5%→1社当り▲2.4%→1人当り▲24.6%、営業利益は全体△2.0%→1社当り△7.5%→1人当り▲16.9%と変化している。売上高の07年比はマイナス幅が広がるかたちだが、営業利益は1社当りまでプラスだったものが1人当りで見ると実はマイナスだった、というこことになる。
受託系のマンパワー型を細かく読み解くと、2005年から1人当り売上高は減少していたのだが、就業者を増やせば売上高が増えるという成功体験から、06年以後、要員を増やし始めた。09~10年、12~13年に減少したものの、総じて増員の勢いは止まらず、ことに13~15年の増員のペースは高水準にある。見かけ上の売上高増が増員に拍車をかけているのだが、現実を直視しない危険な兆候と言っていい。
ついでながら、受託系ソフト/サービス業と対置的に論評されるネット系はどうかというと、次のようになっている。
【ネット系】〈集計企業数〉130社(△33社)
〈就業者総数〉 8万1,002人(△82.1%)
正規雇用 6万7,155人(△77.6%)
非正規雇用 1万3,847人(△107.7%)
非正規雇用率 17.1%(▲2.1p)
平均年齢 33.5歳(△2.6歳)
勤続年数 4.6年(△1.8年)
平均年収 599.8万円(△51.7万円)
〈業績〉
売上高 3兆4,838億84百万円(△93.0%)
営業利益 7,050億53百万円(△233.5%)
経常利益 7,277億92百万円(△268.4%)
純利益 4,337億80百万円(△437.5%)
〈経営指標〉
営業利益率 20.2%(△8.5p)
経常利益率 20.9%(△9.9p)
純利益率 12.5%(△8.0p)
【1社当り】
〈就業者〉
就業者総数 623.1人(△35.9%)
正規雇用 516.6人(△32.6%)
非正規雇用 106.5人(△54.9%)
〈業績〉
売上高 267億99百万円(△44.0%)
営業利益 54億23百万円(△148.8%)
経常利益 55億98百万円(△174.9%)
純利益 33億37百万円(△301.0%)
【1人当り】
売上高 4,301.0万円(△6.0%)
営業利益 870.4万円(△83.1%)
経常利益 898.5万円(△102.3%)
純利益 535.5万円(△195.1%)
ネット系も就業者を大幅に増やしているが、売上高は2008年比△6.0%、営業利益は△83.1%だ。業容そのものが拡大していることが浮き彫りになった。