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2015年夏の東吾妻(3) 箱島湧水に行って・見た 城跡もありホタルもいる

 
 中之条町東吾妻町は高崎・渋川から長野県に抜ける途中、八ッ場ダムの手前に位置している。中之条町四万温泉の入り口だが、東吾妻町吾妻川沿いは草津温泉嬬恋村に向かう「通過点」に過ぎない。無理やり創作したご当地グルメで観光客を呼んだところでいっときのこと、それなら今のままでいい、というのは健全な考え方だ。ただ「スルー+スポイト=スポイル」を避けるにはどうすればいいか。住み暮らしている人たちには「当たり前」の景色が、時としてトンデモない資源になることがある。

映画やTVドラマのロケ地

 政府の「地方創生」施策で各地の自治体が一斉に取り組んでいるのは、域内で商品やサービスを購入した場合に一定割合で助成する「プレミアム商品券」だ。1万円で1万2千円分の買い物ができたり、施設の利用料金が半額になる。1999年4月1日から9月30日まで日本国内で流通した「ふるさとクーポン」と同じだが、され地域を潤すかどうか。
 放っておいても購入する商品やサービスに使えるのであれば、地域経済活動の一部を税金が補填するに過ぎない。チケットがネットオークションで転売されれば、転売した個人の懐に税金が入ることになる。さらにいえば、個人消費を税金で助成しても企業の収益が改善しないのは、エコポイントが証明している。
 人口減と高齢化へのカンフル剤として、最近の流行はいわゆるご当地グルメだ。著名なのは福岡の辛子明太子や熊本の辛子レンコン、この20年では長野県伊那・駒ヶ根ソースカツ丼、喜多方の焼豚麺、八戸のせんべい汁、静岡のおでんなどが知られる。地域の歴史と食文化を踏まえた食品ばかりでなく、無理やり創作した料理もある。
 もう一つ、映画やTVドラマのロケ地をPRするという手がある。有名なのは尾道で、ロケ地巡りと空き家再生プロジェクトが結びついた。ただしそのようなケースは稀で、多くは一過性の観光客誘致にとどまっている。東吾妻町にも岩櫃山岩櫃城址:ドラマ)や旧・岩島第二小学校(映画)などでロケが行われているが、話題になるかならないかは、その映画やドラマの人気に左右される。
 お祭りはどうだろうか。佐渡(もう1つの「GO!農」プロジェクト)には毎年8月の岩首竹灯りがあり、9月の佐渡レガッタがある。東吾妻にも祇園祭(原町、岩下)、百八灯といったお祭りがある。さらに水仙の花がたくさん咲くことから「水仙祭り」とイメージキャラクター「水仙ちゃん」、岩櫃城が真田氏の城だったことにちなんだ「岩櫃城 忍びの乱」という創作のイベントが行われている。最近の創作だからイケナイということはない。祭りが生まれた背景があり、台を重ねて続いていけば、やがて「伝統」になる。

なぜここに祇園祭

 今回の八ッ場・岩島ツアーでは、初日(7月24日)の夕刻に原町の祇園祭に遭遇した。長い街路に笹と注連縄が張られ、そろそろ迫る暗がりの中で灯りが入った山車が目を惹いた。翌日のは飾り立てた山車が行列と一緒に街を練り歩き、八坂神社に勢揃いするのだろう(と想像した)。
 原町の祇園祭を諦めて筆者たちが向かったのは、箱島湧水だった。原町・槻木(つくのき)交差点を右折して約10km、山懐に入ったところにある。「行ってみた」でなく「行って・見た」のだ。一過性のプレミアム商品券よりご当地グルメより、はるかに継続性があって魅力がある。
 東吾妻町の地域政策課によると、箱島湧水は「箱島不動尊のお堂脇にある、樹齢400年とも言われる町の天然記念物「箱島不動堂の大杉」。その根元からこんこんと湧き出るこの湧水は、日量約3万トンもの豊富な湧出量を誇っています。良質の水は鳴沢川となり町内の飲料水、農業用水、養鱒場用水として利用されています。下流ではホタルが生息し、6月〜7月下旬ごろ見頃となります」とある。
 実を言うと、筆者たちは7月24日の夜、町議の青柳はるみ氏に案内されて、湧水近くにあるホタルの里を見に行ったのだった。同氏の説明によると、「ホタルを守るために、周辺の人は農薬の使用を抑え、夜の照明も控えている」という。なるほどホタルの生息地にいたるジャリ道(足元の音で類推すると)は真っ暗。しばらく進むうちに、薄墨の中に柳の木らしい影が浮かんできた。

名水百選とホタルの里

 ――ホタル、寝ちゃったかな?
 活発に飛ぶのは夜8時ごろとのこと。筆者たちが行ったのは9時を回ったころだった。しかし懐中電灯をチカチカさせたり手を叩くと、小さな淡い薄緑色の光がいくつも空中を漂った。なんとも幻想的な風景だ。それも箱島湧水の恵みなのだった。
 駐車場から7〜8分ほど登り、細い石の橋の向こうに3段の滝が見えた。その水はさらにちょっと登ったところの石組みから流れてていた。冷たそうな清冽な大量の水が、「えッ?」と思うような小さな隙間(それが沢山ある)から勢いよく湧き出している。「榛名湖とつながっている」という伝説や、「日量約3万トン」という地域政策課の説明は決して大げさではなさそうだ。
 箱島湧水の水量に圧倒され、まるで箱島不動尊の門のように聳えてている2本の大杉を見上げながら階段を登りきった境内からふと見下ろしたとき、思わず「何だ、あれ」という言葉が口を突いて出た。駐車場から登ってきたときに渡った石の橋の全貌が見えたのだ。ただの橋でなことはすぐ分かった。明治末期、この地に電灯を灯すことになった発電所の遺構だった。