IT記者会Report

オリジナルな記事や送られてきたニュースリリース、セミナーのプレゼン資料など

私の「犬島」紀行

 近年トレンディなアート空間として国際的にも大人気の瀬戸内の島々。その中でも「直島」はこうした活動の中心だ。仕事が一段落の正月明け、「少しは日本を知ろう」などと理由をつけて行ってみた。そこでベネッセのすばらしい施設を堪能しながら隣のアートの小島「犬島」に足を伸ばした。さしたる事前知識もなく訪れた国際観光スポット、そこでいきなり驚愕の遭遇、まさにびっくり仰天、重たい雨に打たれてびしょ濡れになり、そしてやがて晴れて虹を見るような強烈な体験となった。


犬島に近づくと何本もの古風な煙突が

 「直島」の港から高速船で途中「豊島」(てしま)を経て小一時間。冬の快晴、澄み切った青空、これを映した碧い海、岡山や四国の穏やかな稜線に挟まれて、その間に浮かぶこれまた明媚な形状の島々、行き交う船、海面の一角を広く占める生け簀などの間を快走する。
 「犬島」はその特徴のあるシルエットでかなり遠くからそれとわかる。ここ瀬戸内では視野に無数の島が映るが、多くは急峻な立ち上がりながらもやわらかな稜線、それを覆う松などの樹木による日本的な自然景観を見せている。が、「犬島」は違う。こうした島の中からにょきにょきと何本もの古風な煙突が突き出て、その麓になにやら人工構築物の影が見えるのである。
 玄関の犬島港、桟橋近くの海側に突き出たところに一目で著名な建築家の作と感じられる真っ黒なクラブハウスのような木造建築が見える。三角の傾斜屋根のあるシンプルだがよく見ると結構複雑な形状の建物で、港側の壁面に大きくデザインされた"INUJIMA"の文字が映える。これが「犬島チケットセンター」、島探索の起点だ。近づくとその黒い壁面は杉の焼き板で構成されていることがわかる。

島は小さいので見物はここから徒歩だ。

 センターの港と反対側の出入り口を後にすると、そこは海に面した平板で小綺麗な公園になっている。目の前に真っ青な瀬戸内の海が広がり、すぐ前に隣の小島がある。海岸は日本庭園にあるような美しい形状の石、それも巨大なものが夥しい数で自然景観を美しく飾り、コンクリート壁やテトラポットのような無粋な構築物は見当たらない。海の透明度はとても高い。この公園の特徴はその海側の縁が、切り出された形の花崗岩の板をびっしりと贅沢にならべて構成されていることだ。そう、「犬島」は花崗岩の島だった。
 チケットセンターからすこし進んで振り返ると、それはもう、本末転倒の表現ではあるがまさに建築雑誌から抜け出てきたような景色になっていた。碧い空と海、小さく突き出た岬に、真っ黒な木造建築。絵になる風景か、風景の中に絵を作ったのか。これが話に聞いたアート空間か、と感心したが、それはこの島で得る感動のほんの序章だった。
 島での最初のターゲットは「犬島精錬所美術館」。ここにはかつて大規模な銅の精錬所があり、海から見えていたのはその遺構だった。それを活かしながら作られたのがこの美術館。チケットセンター横の公園からほどなく到達する。