増収増益は受託型サービスのみ アベノミクスの恩恵どこに
ICT関連株式公開3月決算企業333社の2016年度中間期(2016年4月~9月)業績が出そろった。333社の売上高は46兆0,848億08百万円で前年度同期比は▲5.6%、営業利益は3兆8,952億99百万円で▲0.5%、経常利益は3兆7,509億27百万円で▲10.6%、純利益は2兆9,270億78百万円で△18.1%だった。(受託サービス業については速報として11月16日に集計値を掲載しました。年会費をお支払いいただいている有料会員の方はアクセスが可能です)
ハード63社が売上高の66%
ドメイン別に見ると、「ハードウェア製造」63社の売上高は▲9.0%の30兆5,027億89百万円、営業利益は▲10.8%の1兆5,301億53百万円、経常利益は▲23.1%の1兆4,256億16百万円、純利益は▲6.2%の9,627億75百万円だった。ハードウェア製造63社のウエイトは、売上高の66.2%、営業利益の39.3%、経常利益の38.0%、純利益の32.9%だった。
「モバイル通信サービス」5社の売上高は△0.8%の8兆8,936億47百万円、営業利益は△10.8%の1兆7,784億70百万円、経常利益は△3.0%の1兆7,742億90百万円、純利益は△46.5%の1兆5,021億08百万円だった。売上高は「ハードウェア製造」の約3割、全体の19.3%だが、純利益は1.5倍、全体の51.3%となっている。
「ネットサービス」73社の売上高は△26.9%の1兆2,124億14百万円、営業利益は▲16.6%の2,205億93百万円、経常利益は▲18.8%の2,187億73百万円、純利益は▲26.8%の1,484億27百万円だった。売上高は2桁増だが、収益性にブレーキがかかっている。
「プロダクト販売」74社の売上高は▲7.2%の2兆1,159億68百万円、営業利益は△7.9%の1,476億71百万円、経常利益は▲29.1%の1,089億42百万円、純利益は△59.4%の1,554億18百万円だった。
「受託サービス」118社の売上高は△4.0%の3兆3,599億30百万円、営業利益は△14.2%の2,184億12百万円、経常利益は△123.0%の2,233億06百万円、純利益は△26.6%の1,583億50百万円だった。5ドメインの中で唯一、「受託サービス」だけが全項目がプラスだった。
産業界の設備投資・IT化が減退
ハードウェア製造の3カテゴリーを見ると、パチンコやコインゲーム機など「アミューズメント機器」製造6社の売上高は2219億24百万円で、前年度同期比▲20.
7%と大きく落ち込んだ。営業利益も▲18.0%と2桁マイナスとなっている。
2015年度中間期の売上高は前年度同期比△15.5%、営業利益は△21.8%、純利益は△47.5と好調そのものだったが、下半期は売上高が▲ 17.5%、営業利益が▲ 25.4%、純利益が▲ 35.1%と減収減益に転じていた。2半期連続で減収減益となったことになる。
センサーやコネクター、スイッチなど「電子部品」製造33社も減収減益となった。2015年度中間期の売上高は前年度同期比△10.7%、営業利益は△23.4、純利益は△19.1の増収増益だったが、下半期は売上高が▲ 2.3%、営業利益が▲18.3%、純利益が▲25.8%の減収減益に転じている。IoT(Internet of Things)需要が立ち上がるのはこれからとしても、産業界での設備投資が低迷していることが窺われる。
コンピュータやプリンタなど「情報処理装置」製造24社は売上高が▲9.5%、営業利益が△0.9%、純利益が△27.2%の減収増益だった。2015年度下期は売上高が▲5.2%、営業利益が▲66.7%、純利益が537億60百万円の赤字だった。
今回は集計に加えていないが、産業用ロボット製造業の業績も下降基調にあることから、産業界におけるIT化・デジタル化意欲が減退しているのは間違いなさそうだ。
個人・家庭向けはブレーキ
ネットサービスのうち「オンラインゲーム」は個人消費者向け、「ISP/MVNO(Mobile Virtual Network O
perator)」「ポータルサービス」「コンテンツ提供」はB-B/B-Cが混在している。インターネットのブロードバンド化とモバイル端末(スマートフォン、タブレット、テレマティクスなど)の普及に連動する形で急速に市場が拡大してきたのは周知の通りだ。
個人向けの「オンラインゲーム」は売上高が▲1.5%、営業利益が▲6.2%とマイナスとなった。ゲーム収入のほかアフリエイト広告や有料デジタルコンテンツなど収入の多様化が進む一方、競争の激化でこれまでのような高収益モデルの維持が難しくなっているのかもしれない。
またB-B/B-C混在の「ポータルサービス」は、売上高が△42.4%と大きく伸びたものの、営業利益が▲25.6%、純利益が▲36.4%と落ち込んでいる。より詳細な分析が必要だが、ここでもビジネスモデルの再構築が課題となっている可能性がある。結果としてネットサービス73社の業績は増収減益となり、これまでの高収益性にブレーキがかかった。
プロダクト販売は売上高▲2.0%
オンラインゲームにブレーキがかかったのと同様、プロダクト販売のうち「ゲームソフトウェア」8社も売上高が▲2.0%となった。純利益が△103.6%と倍増したのは、デジタルコンテンツやネットサービスの収益が貢献している。
家電量販店向け卸と法人向け情報機器販売を含む「情報機器卸・販売」14社は売上高が▲15.0%、営業利益が△10.4%の減収増益、純利益▲6.3%を取れば減収減益となる。
法人向けにハードウェアとアプリケーション・ソフトウェアを組み合わせたシステムを納入し、運用や保守サービスなどを提供する「システム販売」は、古くはオフィスコンピュータ(オフコン)のビジネスモデルだった。現在、オフコンは姿を消したが、別の見方をすると本来の意味での「システム・インテグレーション」と言えないこともない。
システム販売14社の売上高は▲2.7%となったものの、営業利益は△17.3%、純利益は△88.7%となった。設備投資の適正化を重視する中堅・中小規模の法人向けに、業務効率化と利益最大化を指向するネットサービスとの連携提案が受け入れられているようだ。
「ソフトウェア・パッケージ販売」38社は売上高が▲1.0%、営業利益が△5.8%の減収増益だが、純利益の▲10.4%を取れば減収減益となる。38社のうち売上高がマイナスとなったのが13社、営業利益がマイナスとなったのも13社、純利益は16社なので、感覚的にば増収減益に近い。
受託サービスが好調に見える
「受託サービス」は118社で社数では最多だが、全体に占める構成比は売上高の8.9%、営業利益の5.6%、純利益の5.4%にすぎない。ただ今回は4つのドメインの中で唯一、増収増益となったので、いかにも「好調」なように見える。
「BPO/業務代行」は手続きや計算処理をネットで行うサービスとは異なり、フィールド・メンテナンスや回線敷設など人手で実作業を行うICT付帯サービスを指す。売上高は△2.3%、営業利益は▲1.2%、純利益は▲10.0%の増収減益だった。「システム運用サービス」と並んで安定的なニーズを基盤とする業種なので、下期の回復が見込まれる。
景気変動の影響を受けやすいのは「受託ソフトウェア開発」と「登録型IT要員派遣」で、受託開発は売上高△3.6%/要員派遣△10.7%、営業利益は受託開発△21.3%/要員派遣△21.3%だった。この2カテゴリーは「頭数」が利益の根源のように考えられているが、受注が一定の閾値を越えると利益が膨らむ構造が隠れているのかもしれない。
本業の利益を示す営業利益の前年度同期比は複合サービス△14.8%/受託開発△21.3%/要員派遣△21.3
21.3%だったが、売上高に占める営業利益の割合は複合サービス7.2%/受託開発6.2%/要員派遣5.8%で、ICT関連333社全体の8.4%に遠く及ばない。
さらに本稿(2)で触れるように、就業者の年間給与は決して上昇する基調にない。「知識集約型の付加価値産業」のはずが「労働集約型の低賃金産業」の座に定着するのか、正念場を迎えている。