IT記者会Report

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経産省が産業保安のスマート化で規制の弾力運用を視野

 経済産業省はITの適用で石油化学系プラントの保安管理の質的に向上させる「産業保安のスマート化」プロジェクトを推進する。IoTやビッグデータ、AIなどITを活用して安心・安全を管理している事業所について、部品交換の期間を延長したり保険料率を低減することを検討する。道路や橋梁、鉄道、高層マンションなどに広がることが予想される。複数府省の連携・協調による「世界最先端のIT利活用国」の姿が見えてきた。


経済産業省別館3階の商務流通保安グループ会議室で行われた説明会

■ 安心・安全の質を変える ■

 経済産業省の商務流通保安グループによると、稼働年数が40年以上のエチレンプラントは2015年現在で全体の58.9%、石油精製事業所に従事する51歳以上の就業者は34.6%を占めるという。多くのプラントが老朽化し、多くのベテラン就業者(熟練工)が引退の時期を迎えつつあることが分かる。
 近年の石油化学系プラントで発生した爆発・火災事故の原因を見ると、バルブなどの誤動作で生じた局所的な異常をその場対応で解決(制御)したかに見えながら、異常な化学反応が連鎖してより大きな異常となり、制御不能に陥るケースが少なくない。これは工程ごとの部分最適が重視される傾向が強いため。また、施設の稼働状態(振動や温度など)を様々な計器の数値で監視していても、データの多くは蓄積されていないのが実情という。
 プラント施設の保守・保安はこれまで、就業者の経験と勘に依存することが多く、経験が豊富な熟練工のノウハウが重視されてきた。ところが1960年代から70年代にかけて建設されたプラントでは、個々の施設の劣化に伴って全体のバランスが崩れ、熟練工でも対応できない想定外のトラブルが発生するリスクが高まっている。また大規模災害への備えを強化する社会・経済的な要求も強まっている。このような状況を背景に、経産省は熟練工依存からデータ分析による未然保守・保安へ、質的な転換を図る必要があると判断した。 
 産業保安のスマート化では、石油化学系プラントの稼働データを収集する手段として各種センサーのほか、インテリジェント・ピグやスマートバルブ、ソフトセンサーなど、データ解析手法として腐食解析予測モデルや多変数分析などの適用を想定する。これによりIoT技術で集積したプラントの動作に関するビッグデータを分析し、異常の前兆を早期に発見できるようにする。

内視鏡、超音波、ソフトなど駆使 ■

 分かりやすいのはセンサーで配管やタンクの振動、温度、音、色、輝度などの変化を数値で計測する仕掛けだ。そのデータを可視化し、CCDカメラの画像と組み合わせて異常を検出する。ここまでは容易に想像がつくのだが、適用は外面からの監視・検査に限られる。これに対してインテリジェント・ピグから以下の技術や手法は内側からの監視・検査、ITによる総合的な予測を可能にする。ようやく実用化が始まったか、これからの技術開発が期待されるものだ。
 インテリジェント・ピグは超音波センサーと内視鏡を備えたヘビ状のロボットで、液体の流れに乗って配管の中を動き、配管内部の腐食や管の肉厚を計測する。配管が複雑に密集し、地下や高所など人の手が届きにくい施設(例えば加熱炉)に適用することによって、メンテナンス・コストの軽減に結びつくと考えられている。ただ実用化されているインテリジェント・ピグは自走式ではないので、リモート・コントロールする技術の開発が求められる。
 アコースティック・エミション・センサーも今後の普及が期待される。ヒトが聴くことができない超音波や超微音を的確にとらえるものだが、部材や部品に容易に装着できるのが特徴だが、電磁ノイズの影響を受けやすかったり高温の環境では機能を発揮できないといった弱点が指摘されている。また同センサーを使った検査手法を標準化が必要となる。
 センサーとプログラムを内蔵したスマートバルブの活用もポイント。この場合、データ回線がアナログ方式であってもスマートバルブのデータを収集できるHART(Highway Addressable Remote Transducer)通信の導入を促す。これにより、異常がなくても定期的に検査や部品の取替えを行う旧来のTBM(Time Based Maintenance)から、調整が必要なときに保守・保安作業を実施するCBM(Condition Based Maintenance)への移行が可能となる。
 ソフトウェアの利活用では、腐食解析予測モデル、ソフトセンサー、多変数分析技術の実用化がある。腐食解析予測モデルはビッグデータと配管の腐食率の相関関係から腐食状況を予測するもの、ソフトセンサーは温度と圧力の関係から濃度やガスを推定するもの、多変数分析技術は複数工程の多種データを総合的に判断して異常の兆候を検出する。ソフトセンサーは製品や生産量、プラント規模に柔軟に対応できるよう、汎用モデルの開発が課題となる。

■ 保険制度のインセンティブも視野 ■

 センサー、CCDカメラ、内視鏡、インテリジェント・ピグ、アコースティック・エミション・センサー、スマートバルブ、腐食解析予測モデル、ソフトセンサー、多変数分析技術、IoT、ビッグデータ、AI(人工知能)といった専門用語が並ぶと、それだけで「すごい」と思えるのだが、新技術開発や実証実験の支援を除けば、民間の自助努力で済むといえなくもない。実際、コスト削減や保守・保安の効率化に資することがはっきりすれば、民間は放っておいてもスマート化に前向きになるだろう。
 にもかかわらず経産省が政策として推進するのは、「現場レベルに有用性を周知すること」「競合関係にある複数事業者の関係を調整すること」を織り込んでいるためだ。製造工程をライバル会社に教えるようなことは避けるのが一般的だからだ。また近い将来の経済効果を見据え、土木・建設や工作機械など他産業への横展開に期待していることが想定される。
 具体的には、「必要なアラムを必要なヒトに、最適なタイミングで通知するアラーム・マネジメント・システム」「AIとモデル予測運転システムを連携させたプラントの自動運転」などを実現し、
 ① プラント保安規制・制度の弾力運用(スマート化投資に応じた規制・制度の優遇措置)
 ② 保険制度の見直し(格付け、保険料のインセンティブ)
 ③ 中堅・中小規模のプラント向けパッケージによる産業全体の安心・安全の底上げ
 ④ 保守・保安技術や人材育成プログラムなどとセットにした石油化学プラント技術の国際競争力向上
 ーーといったねらいがある。