IT記者会Report

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ITを派遣法から外すには(4) 一段と下請けが固定化

特定派遣事業の届け出でIT派遣を行っている企業は、今回の派遣法改定で許認可を受ける「IT派遣業」になる。特定派遣事業の届け出でIT派遣を行っている企業は、今回の派遣法改定で許認可を受ける「IT派遣業」になる。業界関係者が気がついているのかいないのか、今回の改定はITサービス業界での立ち位置の鮮明化、つまり《使う側・使われる側》の固定化につながっている。

正規雇用者にこそ大問題

 「派遣受入=利益を取る=勝ち組」と「派遣=利益を奪われる=負け組」の対置構造がマトリョーシカ状態で連鎖する。新しい資本の原理が企業間に導入されるといえるかもしれない。知的労働がその道具に使われるのは何ともやるせない。
 先進工業国は軋轢を伴いつつ資本vs労働の解決に努めたが、20世紀に入って行き詰まった。第1次、第2次の2つの世界大戦を経て資本vs労働の関係は実力行使型から対話型に転換して、少なくとも日本では1990年代初頭まで、資本は表立って労働を搾取しようとはしなかった。
 転機となったのは、経済的な要件としては1992年秋のバブルの崩壊、社会的な要件としては1995年1月の阪神・淡路大震災と同年3月の地下鉄サリン事件、ITの要件としてはTCP/IPと同年12月のWindows95ということになる。年功序列制度の見直しと並んで、派遣=非正規雇用の労働力が便利な雇用調整弁として注目されるようになった。
 確認のために記しておくと、労働者派遣事業法が施行された1986年の時点での派遣とは、①現場に常駐しなければ作業ができない業務、②雇用するほど常に仕事量はないが専門知識・技能を必要とする重要な業務――の2点が要件とされた。しかし建設業と港湾労務はすでに個別の業法があったので適用外とされ、結果として、①では警備、交通整理、建物清掃、添乗、デモンストレーション、機器整備、受付など、②では通訳、情報システムの構築、情報処理機器の操作、研究開発などが「特例」として許可された。つまり「派遣は原則禁止」が前提だったのだ。
 それが改定を重ねる中で対象が組立製造業務や営業業務に拡大されてきたわけだが、今次の改定の本質は「正規雇用者の派遣社員化」にあるといっていい。正規雇用者であっても一定条件が整えば派遣に転換できる。
 正規雇用で就労している人の大半は、他人事気分でリストラを眺めてきたのだが、気がつけば我が身。そういう大問題だが、「オレたちは大丈夫」と錯覚させられている。すでに派遣で就労している人の待遇は今より少し悪くなる程度で済むが、本来は正規雇用者こそ大騒ぎしていい。
同質・同類企業が連鎖する

 それはそれとして特定派遣事業を届け出ているソフト会社が、3年半後には晴れて「派遣業」になる。労働基準監督署が準委任、再委託、常駐、出向、SES等の契約を偽装請負、多重派遣と判定してビシビシ摘発すると、IT業界の底辺はほどほどに整理され、エンジニアはより安定したIT派遣会社に移籍する。適正に派遣業を営む自称ソフト会社は存続するだろう。とりあえずIT業界にそれ以上に大きな変化はない……ように見える。
 現在もそうなのだが、IT関連案件の元請け企業は中長期の資金需要を満たし、受注リスクを取るとともにプロジェクトを管理する(ことになっている)。取引ポジション中位の2次請け企業は外注会社から派遣技術者を集め、現場の実務を監督する。3次請け、4次請け企業は求められる人数の IT技術者を求められる契約に従って派遣する。底辺では企業間で技術者の“融通”が行われるので、4次請けなのか5次請けなのか、もはや判然としない。
 「メインフレームの神話」が生きていた1980年代、この構造は案件(仕事)と利益の分配というかたちでトリクルダウン効果を発揮していた。しかしこの20年で、IT業界における多重取引構造は収益確保の仕組みになってしまった。元請けが書類を書くだけで受注額の15~20%を取り、2次請けが人を集めるだけで残りから15~20%を取る。そのように雑巾を絞っていって、水が一滴も出ないところまで同質・同類の企業が連鎖する。
 実際、直近の業績(営業利益率)を見ると、元請け的ポジションにある企業は7.2%、ソフトウェア受託開発を中心とする2次請けポジションの企業は5.9%だ。取引ポジションが1ランク下がるごとに利益率は1~2ポイント減少する。
経営者だが傭われもの

 派遣法の改定は、ここに決定的なクサビを打ち込むことになる。すなわち「派遣を受け入れる」側と「派遣する」側に分かれるということだ。同時にそれは「利益を取る」側と「利益を取られる」側を意味している。元請け、2次請けポジションの企業は、新しい資本の原理に照らしたときの資本側ないし雇用側、3次以下の「派遣業」は労働側ないし被雇用側というわけだ。
 それぞれの企業の中でも使用者ないし雇用者=資本側、被使用者_被雇用者=労働側の関係がある。本来は資本と対置する立場にあるはずの正規雇用者が「自分は勝ち組」という認識を持って、下請けの派遣要員に作業指示を与える。下請けの派遣要員はクレーム一つ口にできない「負け組」だ。勝ち組にとって外部から派遣されてくる要員は直接の利害関係者でない分だけ、気を使う必要がない。そのような状況の中で、組織そのものが陰湿なパワハラの仕組みになる。新しい資本と労働、勝ち組と負け組のマトリョーシカが、こうして形成されていく。
 IT関連業務の価額は本来、工数だけで算定されるものでなく、まして頭数×人月の計算で決めていいものではない。ITエンジニアは規格化された人形でもなければ、流れ作業で組立作業をするロボットでもない。しかし新しい資本と労働の関係は、個性を排除する傾向が強い。ソフト会社の経営者は自分が雇用=資本の側にいるのか、被雇用=労働の側にいるのかを考えたほうがいい。