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うめきた「グランフロントOSAKA」に行ってきた(上)

 中野秀男氏(中野秀男研究所代表、帝塚山大学ICTセンター長/特任教授)と大阪駅中央口で落ち合ったのは5月31日の昼過ぎである。日ごろ使い慣れていないせいで、人の流れに乗って着いたのは2階コンコース。駅員に聞くと、「いったんホームに下りて、ちょっと戻ったところに下りのエスカレータがありますから」という。「どういうわけか、皆さん間違われますな」が中野センセの開口一番だった。

 同氏が代表幹事を務めているソフトウェア技術者協会(SEA)の例会で、かねがね「来阪することがあったら、“うめきた”を案内しますよ」とお誘いを受けていた。はは〜ん、さてはセンセ、行きつけの店で一献が目的と思いきや、意外にも「当日は夕方から会合があるんで、午後3時ごろまでしかおつきあいできませんが」という。むろん筆者に否やはない。

 「うめきた」は“梅田の北側”の意。実態でいえば、JR大阪駅の北側にあった操車場と貨物ヤードの跡地のことだから、「おおきた」が正しいのかもしれない。ところが大阪人の感覚では、「大阪駅ゆうたら梅田やないか」なのだ。
 なるほどJR大阪駅の住所は、大阪市北区梅田3丁目。そもそもは江戸の中ごろ、淀川の河川敷を埋め立てた田地という意味だった。「埋め田」が時とともに「梅田」になった。大阪駅は明治になって、落下傘で梅田の地に建てられた。だから大阪駅は大阪じゃのうて梅田や、というわけだ。だけでなく、そこにには大阪人の郷土愛と、“お上”(東京)への反骨精神がほの見える。
 「東京の人たち、そのあたりのことはなかなか分かってくれませんな」
 中野氏はさすがに触れなかったが、蓮如以来の表記は「大坂」だった。明治政府が道府県名や町村名を確定したとき、「士+反」の文字が士族の反乱に結びつくという理由で「阪」に直したことがある。
 ともあれ「うめきた」。
 国鉄の民営化(1987年)からの課題だった梅田貨物駅跡地開発プロジェクトが本格的に動き出したのは2005年という。総面積24haのうち7haを先行させることが決まり、大阪市立大学の教授だった中野氏が計画作りに駆り出された。その経緯は、「大阪大学から市立大学に移籍したのは1995年。当時、大阪市は市立大学の教官に、市の施策への参加を促していたんです。それで西成区のIT化や情報化ガイドライン策定の委員長などを務めたことがあったんですよ」というようなものだった。
 筆者が思うに(というか、誰でも思いつくことだが)、このプロジェクトが意識したのは1997年に開業した4代目の京都駅だろう。ホーム全体を覆うドーム状の屋根は、一見すると京都駅を彷彿させる。ただし、「この屋根には太陽発電パネルが貼ってあるんですよ」は京都駅と違うところだ。
 「グランフロントOSAKA」は1万平米の広場と4棟の高層ビル、それをつなぐ9階建てのベースビルとペデストリアンデッキで構成されている。案内コーナーで入手したタウンガイドをもとに、中野氏に案内してもらったコースを振り返ると、おおむねおおむね(というのは、中野氏について行っただけなので、その都度位置を確認していないためだが)次のようになる。

 JR大阪駅(地下1階中央口)→地上3階の南北連絡通路→アトリウム広場/Panasonicの大型ディスプレー→いったん南口へ→グランフロントOSAKA南館(タワーA)→南館と北館の連絡デッキからエスカレータで一気に5階へ→さらにエスカレータを乗り継いで9階のテラスガーデン→グランフロントOSAKA北館(タワーB)世界のビール博物館/ワイン博物館→ナレッジプラザ→ナレッジサロン→けやき並木から銀杏並木を経てうめきた広場

 全館がオープンしたのは今年の4月だから、やっと2か月経ったばかり。その前から関西では話題になっていたとはいえ、まだ「どんなもんだろう」と見物に訪れる人が少なくない。当日は金曜日と梅雨の晴れ間が重なったせいか、昼時にもかかわらずそこそこの雑踏ができていた。
ICTとあまりかかわりがないが、興味があったのは“梅田デパート戦争”の現状だ。経営統合した三越伊勢丹が関西のフラグシップ店として進出を決めたのをきっかけに、迎え撃つ阪急、阪神、大丸の各店が相次いで増床した。次いで梅田地区の集客力増強に危機感を抱いた難波、天王寺などのデパートも増床に乗り出した。大阪駅に限れば南口と北口、大阪市で見ればキタとミナミの争いということになる。
「専門やないから詳しいことは分かりませんけど、いちばんうまく行っとるのはルクアとちゃいますか?」
と中野氏。三越伊勢丹の隣にできたテナント・ファッションビルだ。Webサイトによると「Lifestyle(ライフスタイル)+Urban(都会の)+Current(流行の)+Axis(軸)の頭文字をとって」名付けられた、とある。「若い人のほしいもんがそろっとるらしい」のだが、そればかりではなさそうだ。10階のレストラン街に大阪初や評判の飲食店がズラリと並んでいるのも、集客力アップにつながっている。現に中野氏も、「わたしもこの店(どうとんぼり神座)によく食べに来ますよ」と案内してくれた。
梅田デパート戦争が予想外に展開したように、想定を外れたのは、アトリウム広場にパナソニックが設置した大型デジタルパネル(インフォメーション・ディスプレー)だ。「プラズマ方式で国内最大の152インチ」が“売り”だが、設置した場所の日当たりが良すぎた。1台約5,000万円というから、ざっと1億円というわけだが、投資対効果は思ったほどではない。これに対してコンコースの向こう側に設置されているシャープの大型ディスプレー(縦置き型液晶ディスプレー12台を連結した206インチ)は、外光の直射がなく、遠くからも映像が鮮明に見える。「そのほかにもデジタルサイネージがあちこちに設置されているんですけど、駅構内のはあまりオモロないんとちゃいますか」が中野氏の弁だった。