IT記者会Report

IT/ICTのこと、アレヤコレヤ

うめきた「グランフロントOSAKA」に行ってきた(下)

 デジタルサイネージ(Digital Signage=電子看板)について、Wikipediaが簡潔にまとめてくれているので引用すると、「表示と通信にデジタル技術を活用して平面ディスプレイやプロジェクタなどによって映像や情報を表示する広告媒体」と定義され、「デジタル通信で表示内容をいつでも受信が可能で、内蔵記憶装置に多数の表示情報を保持することで必要ならば秒単位で表示内容を切り替えたり動画表示を行うなど、多様な映像広告を展開することができる」とある。

 その利点は、1)設置場所や地域性を考慮した視聴者ターゲットの設定を行い、その特定層に焦点を絞った広告メッセージが発信できる。2)通信ネットワークを使ってリアルタイムな操作が可能で、表示される広告内容を随時配信・変更が可能である。3)したがって、最新情報が提供できるため視聴者の注視度が高まる。4)また、設置地域に即したリアルタイムなキャンペーンなどの情報配信が可能となる。5)ポスターやロール・スクリーン看板のような印刷物の取替えの手間がかからない。6)動画が表示できるために、視聴者の注目度が高まる。7)1台の表示機でも複数の広告主に対して、広告表示枠を秒単位で切り売りできる。8)ビデオ・ウォールやイルミネーションとしての使い方にも発展させることができる——などとなっている。
 大阪駅構内には、合計98枚のデジタルサイネージが設置されている。しかし筆者が耳にした限りでいえば、中野氏は駅構内のデジタルサイネージをあまり高く評価していないようなのだ。同じ設置スペースで複数の情報を入れ替わりで表示できるし、動画像も可というのは、紙に印刷したポスターや看板よりはるかに効果的でコストパフォーマンスが高い。少なくとも世の中一般ではそのように考えられている。中野センセは何を言いたいのか。
 「グランフロントの企画委員会では、通路の両脇にデジタルサイネージを20メートルおきに設置することにしました。重要なのは、単なる情報の表示装置としてとらえるのでなく、ネットにつながった双方向性を持つストリートファニチャーという概念なんですよ。上のフロアのほうが空いているので、そこで詳しく説明しましょう」
 ということで、デジタルサイネージにかかわる話柄はひとまず終了となった.
 さて、実際に交わされた会話に沿って後述するのは、読者に対して不親切になるだろう。そこで時間を飛び越えて、ほぼ1時間後、ナレッジサロンのソファでコーヒーを飲みながら行ったインタビューの一節を紹介する。

中野 うめきた再開発計画のなかで、最初のコンセプトは「ユビキタスとロボット」でした。ユビキタスといったら、センサーと通信回線、それとIPじゃないですか。それを具体化していったら、「デジタルサイネージ」になったというわけです。旧来の看板とかポスターなどアナログ系の広告を代替するものとしての位置づけでなく、ストリート・ファニチャーという位置づけなんです。
ーーストリート・ファニチャー?
中野 最近は携帯電話が普及したおかげですっかり姿を消しましたけれど、昔なら電話ボックスがそれに当ります。パナソニックが発行している『建設設計REPORT』のインタビューにも答えたんだけれど、デジタルサイネージっていうのは電源と通信回線を備えた“箱”なんですね。情報を表示するだけでなく、照明にもなるしインターネットへの窓口にもなる。
 ーーあ、10年ほど前ですが、ソウルの江南区にあるCOEX(コエックス)っていう街でインターネット接続ボックスを見たことがあるんです。それと同じですね。
中野 わたしはそれを知らないけど、グランフロントのはね、インフラとしての“箱”なんで、将来、様ざまな機能を追加することができる。現在のシステムは、さっき見せたようにICカードと連動するようになっているんです。交通系カード、電子マネー系カードなど、何種類かのカードで個人を識別する。
 ーーそのカードを別の人に渡したら、個人識別が間違ってしまうじゃないですか。
中野 それでいいんです。わたしは4種類のカードを登録していて、「年配のオジサン」「酔っ払いのオジサン」「人のいいお年寄り」というふうに使い分けている。そんなふうに緩やかな個人認識の仕方があっていいし、こういう場所の双方向型インフォメーションというのは、そういう形で提供されていくのがいいんですよ。
 ーー緩やかな個人認識をベースに、その特性に合わせたかたちで情報が提供されていく?
中野 それだけじゃなくて、近い将来はその前を通過するだけで機械がICカードを認識してスマートフォンに情報を送ってくる。例えばIDを登録した人への特典とか、年代・性別に応じたキャンペーン情報とか。そういう仕掛けにすることは簡単にできます。
 ーーセンサーが人の動きを読み取って?
中野 プライバシーの問題があるので、センサーはそこまで検知できないほうがいい。収集した情報をどう使うかは運用側のモラルにかかわることなので、だから曖昧で緩やかなIDにしたんです。グランフロントの運営者にとっては、個々の人の動きはどうだっていい。全体の人の動きを知りたい。それが分かれば、どこにどういう施設やサービスを配置すればいいか、都市機能の配分や資源の配置に合理性を持たせることができる。

 グランフロントOSAKA の利用客は、ゴールデンウィークの間は1日あたり33万人、その後は平均20万人という。その1割がID登録をしているとして、1・2階に設置されている36基のデジタルサイネージシステムがIDを常時センシングするとたいへんなデータ量になる。いわゆるビッグデータだ。
 「館内の温度や照明も、センサーで検知して最適にコントロールしています。うめきたには全域をカバーするBEMS(Building and Energy Management System)を導入しているんですね。これも『建設設計REPORT』のインタビューに答えたことだけど、グランフロントには空調・照明センサーが10万箇所に埋設されています。10秒ごとにデータを収集すると、これもビッグデータになります」
 そうか、グランフロントはビッグデータの実験場でもあるわけだ。
デジタルサイネージの話題で盛り上がったあと、中野氏が向かったのは北館2階のナッレジキャピタルエリアだった。とはいえ、筆者は全く初めての訪問なので、何が何だか分からない。ただひたすら付いていく。
 「ここはね、せっかく作るんだから産官学共同のICTのショウルームにしようと考えたんですよ」
 なるほど、ソフトバンクシュップ、ドコモショップがあり、携帯電話やスマートフォン用のアクセサリー専門店「AppBank Store」が並んでいる。中野氏によると、「AppBank Storeはお勧め」だそうだ。

 2階から見下ろすと、1階は大きな広場になっていて、その周りを囲むようにコーヒーショップやファッションブティックが配置されている。広場の吹き抜けを見上げると、9月1日まで開催されている「THE 世界一展」の大きな垂れ幕がドーンとかかっていた。
 「1階にはVAFE Labというコーヒーショップ、2階と3階にACTIVE Labという展示スペース。展示ばっかりじゃ人は来てくれませんから、6階のウメキタ・フロア(UMEKITA Floor)にちょっと変わった飲食店にも出店してもらって、しかも営業時間は明け方の4時まで。コンビニもあるし、病院もある。そんな施設って珍しいでしょ?」
 「酔っ払いのオジサンとか、気のいいオジサンとかになってIDを登録してみるというのもそうですが、どこからそういうアイデアが出てくるんです?」
 「大阪の人間はオモロイことをやりたがるんですよ。会議とか打ち合わせでもボケツッコミやってますから」
 「なるほど」
 そんな会話をしながら、スポーツ用品店の隣のボルダリング(室内で行うロッククライミングのスポーツ)教室の中を眺めていると、
 「あとで休憩を兼ねて、あそこに行きましょ。わたし、会員なんで」
 中野氏が指さしたのは、9階のオフィスフロアだった。
 「はい」
 と返事はしたものの、あとで筆者は、理解していなかったことに気がつくことになる。

 東南アジア諸国に見られる屋台風あり、アメリカ1960年代風ありの個性的な店が並ぶUMEKITA Floorをグルッと回って、中野氏は会員制オフィス(そのときまで筆者はそう思っていた)にどんどん向かっていく。透明な自動ドアが開いた先にあったのは、一見ホテルのようなフロントだった。「かわいいおネエちゃん」(中野氏)が出迎えてくれ、中野氏が提示した会員証で入館手続きをしてくれる。そこの正式名称は「ナレッジサロン」といい、「会員制で運営されているコラボレーション・オフィスないしコワーキング・スペース」ということだった。
 その規模とコンセプトは圧倒的だった。
 フラットな空間に様ざまなデザインの椅子とテーブルが配置され、ワーキングスペースや小会議室、カフェテリアなどもある。キャパシティは270席で、もちろん無線LANは完備、プロジェクタやホワイトボードは無償で貸与してもらえる。加えて「ナレッジドナー」(知の提供者)をゲストスピーカーとして、毎週木曜日にサロンが開かれる。さらに人と人の出会い=ヒューマン・ケミストリーの媒介となる「知のコンシェルジュ」がスタッフとしてサポートする。
 「わたしのようなベテランの会員は、ナレッジドナーとして講演することになるんでしょうな」
 さらに加えて、フロア中央の真っ白な階段(通常は関係者以外立ち入り禁止)を上ると、ベンチャー企業向けの止まり木となる小さなオフィスが並んでいた。
 この施設を利用するには相当の費用が必要なんだろうな、と思いきや、正会員になるには個人の場合、年10万5,000円または月9,450円、法人は年10万5,000円という。大阪駅まで徒歩10分で利用時間は事実上無制限。
 こんなところが東京にあったら、記者会も専用オフィスを構えなかったのに!