IT記者会Report

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発足した「超高速開発コミュニティ」 会見の評価と記事の読み比べ

 業務アプリケーション向けのソフトウェア開発支援ツールのベンダー13社が「超高速開発コミュニティ」を発足させた。手組みのシステム開発に風穴を空けるため、競合の壁を超えて連携した――という構図だ。「ソフトウェアの生産性を3倍から10倍に引上げる」となれば、関心が高いのは当然だ。共同の市場開拓に走ってしまうのでは、と懸念する声がある一方、それはそれで目的は達せられるという考え方もある。どのような「コミュニティ」を描いているのか、その姿を見せることが肝要だ。

 セミナーで意気投合/広報や市場開拓など
 ICT経営パートナーズ協会(会長:関隆明氏、略称:ICTM―P)の理事で、今回のコミュニティの呼びかけ人でもあるウイングの樋山証一氏によると、発足のきっかけとなったのは、今年4月、同協会のアジャイル分科会が開いた「超高速開発セミナー」だったという。
 ツールベンダーとして参加したのは、ウイング、アイエルアイ総合研究所、キヤノンソフトウェアジャスミンソフト、ユニバーサル・シェル・プログラミング(USP)研究所だった。この5社が今回のコミュニティの中核企業となっている。
 1人2千円の有料セミナーだったにもかかわらず、実施2週間前に100人を超す盛況となった。セミナーのあとの懇親会で、?競合各社が同じ方向を向くなら、共同で広報活動ができる?協同の活動が市場を大きくする?結果としてユーザー企業に貢献できる(システムを早く安く構築することでスピード経営の一助になる)?IT業界の従来のビジネスモデルやIT企業の経営も変革でき、学生、若者に魅力ある業界に導ける可能性もある――などで意気投合したという。
 その後、樋山氏、贄良則氏(ジャスミンソフト)、當仲寛哲氏(USP研究所)などが中心となってコミュニティ結成の検討を開始、ICTM―Pの枠組みから離れたニュートラルな位置づけとしつつ、ICTM―Pとの関係を継続するために、関氏に会長を依頼した。コミュニティ発足の経緯は以上のようだった。

 BRMSとの関連/説明する必要あり
 「超高速開発」という言葉はICTM―Pアジャイル分科会の造語ではない。日経BP社(日経コンピュータ)が、すでに昨年使っている。同年7月に開催した「超高速開発・リノベーションフォーラム2012」がそれで、準備期間を溯れば遅くとも4月には確定していただろう。どうやらBRMS(ビジネスルール・マネジメント・システム)を言い換えたのが「超高速開発」らしい。
 BRMSは2008年ごろから注目され始めた業務アプリケーション開発手法で、ビジネスルール・ベースのプログラム・ジェネレーターのこと。フローチャートや表などで作成したビジネスルールからプログラムが自動生成される仕組みで、日本語などの自然言語が使えるのが特長だ。ルール間の整合性もルールエンジン(というかリポジトリ)でチェックでき、詳細設計からテストまでの工数を大幅に削減することができる。このため、ソフトウェアの専門技術を持たない現業部門でも業務アプリケーションを作ったりメンテナンスができるメリットがある。
 そうであれば、なるほど新規性があって、日経コンピュータの特集記事が注目された理由が理解される。ここで「超高速開発」という造語の本家探しをするつもりはないが、記者会見では少なくとも、BRMSとの関連は説明するべきだった。
 というのは、参加した13社のツールに、BRMSに分類されるプロダクトがほとんど入っていないためだ。日経コンピュータがいう「超高速開発」とは、かなり距離がある。
 だけでなく、ウォーターフォール型開発手法に対応したソースコード生成ツールやコンパイラ、オープンシステム対応のシステム統合ツール、Webアプリケーション作成ツール、データ定義・管理システムなどが混在している。なおかつ、アジャイル開発ツールが入っているとは思えない。となるとここでいう「超高速開発」とは何なのかが分からなくなってしまう。
 1980年代前半に提唱された「プログラマーなしのプログラム開発」や第4世代言語(4GL)、80年代後半のCASE(コンピュータ支援によるソフトウェア・エンジニアリング)ブームやソフトウェア開発プロセスへの人口知能/ルールベースの適用(こんにちのBRMS)といった過去の出来事を承知している筆者のような観察者には、“銀の弾丸”神話を再来させようとしている、とも思えくる。

 会見の出来はまずまず/事後フォローはどうか
 会見の出来はどうだったか。
 関会長の開会挨拶、樋山氏による概要説明、設立メンバーの紹介と一言メッセージ、質疑応答という運びはまずまずだったといえる。質疑応答における樋山氏と贅氏の役割分担に不自然さはなかったし、高橋俊夫氏(ケン・システムコンサルティング)や安光正則氏(アトリス)のアドリブ的なコメントもよかったと思う。
 ただ概要説明の中で、発足の経緯が十分に説明されなかった、日経コンピュータがいう「超高速開発」や、いわゆるアジャイル開発との関係が明確でなかったのは点睛を欠いた。また「このような動きが出るのが遅すぎたのではないか」という記者席からの質問に、回答をはぐらかしたと感じたのは筆者だけではあるまい。さらに会場を移しての写真撮影はいいとして、時間がまだあった(会見は午後1時〜2時、別会場は3時まで確保しているという案内があった)のだから、設立メンバーと記者たちが交流できる場にすればよかっただろう。
 ニュース資料はA4用紙で進行プログラムが1枚、本編が3枚、メンバー13社のプロダクト一覧表が2枚、メンバーのロゴ集が1枚。ボリュームは可もなし不可もなしだが、エンドースメントは必要だったかどうか。そもそもエンドースメントはターゲット領域に影響力がある企業や人物とタイアップし、発表効果を高めようとするPR手法だ。広告代理店やPR会社が企画した記者会見によく見受けられる。
 元情報処理学会会長で元情報処理推進機構ソフトウェア・エンジニアリング・センター所長、実践的ソフトウェア教育コンソーシアム会長、TREAS理事長と、複数のソフトウェア工学関連団体代表を兼務している鶴保征城氏を別とすると、?鈴廣蒲鉾本店の鈴木博晶社長、?オランの木内里美社長が何ゆえにエンドースメントの発信者に選ばれたのか。
 鈴木氏、木内氏はユーザーの立場でIT利活用を推進した人物として知られてはいるが、超高速開発コミュニティとどのような立ち位置にあるのか、記者には分からない。おそらく設立メンバーのいずれかの企業が、「声をかければエンドースメントをくれる」という程度の考えで依頼したのだろう。それは「エンドースメントがあったほうがいい」→「エンドースメントを入れるのが常識」という素人ならではの誤解に起因している。かえって品位を貶めることになるのだが。
ともあれ、記者からいくつか質問が出たので、会見はうまくいったといっていい。翌日には事務局の大島正善氏から「会見出席のお礼」メールが届き、ホームページ(http://www.x-rad.jp/ )にはニュースレリースと、会見の直後にアップされたメディア8社の記事のリンクが掲載されている。それはそれでいいのだが、事後のフォローが十分とはいえない(かもしれない)。大島氏は専従ではないのだろうから、多くを望むのは無理としても、その後にメディアに掲載された記事やネット上に流れたコメントのいくつかはフォローしてよかっただろう。

 計10メディアが報道/客観性が?の記事も
 会見を受けて、記事を掲載した報道メディアは次のようだった。
 ■アットマーク・アイティ:「超高速開発コミュニティ」を設立―日本が19位で黙っているわけにはいかない
 ■日経ITpro:開発ツールベンダー13社が集結し、「超高速開発コミュニティ」を設立
 ■IT Leaders:業務システムの開発ツール・ベンダー13社が共同で「超高速開発コミュニティ」を旗揚げ
 ■Publickey:超高速開発はスクラッチ開発の3倍から10倍の開発効率が条件、競合するベンダ13社が利害を超えて「超高速開発コミュニティ」を設立
 ■エンタープライズジン:「超高速開発コミュニティ」設立―インフォテリア、ケンシステム、マジックソフトなどソフトウェア開発のツールベンダー13社が参加
 ■IT記者会:開発支援ツール13社でコミュニティ設立
 ■ZDNet:競合関係を超えた意義で発足した「超高速開発コミュニティ」とは
 ■マイナビニュース:「超高速開発コミュニティ」発足―マジックソフトウェアら13社が参加
 ■BCN Bizline:マジックソフト、「超高速開発コミュニティ」に設立メンバーとして参加
 ■日本情報産業新聞:開発効率化ツール企業が超高速開発コミュニティ発足
 発表の内容を淡々と記事にしたのは日経ITpro、エンタープライズジン、IT記者会(筆者)、日本情報産業新聞。これに対してアットマーク・アイティは、「日本の労働生産性は世界19位」という日本生産性本部の調査(2011年)を引合いに出して、「個人の力量に依存した労働集約型のシステム開発/保守といった旧来のやり方を抜本的に見直すために立ち上がった」とした。「立ち上がった」とは勇ましい。無知な記者の思い入れだけが表に出るとトンチンカンになる。
 「今回のコミュニティが、ユーザー企業のスピード経営の実現などを競合関係を超えて進めていくという設立当初の意義を忘れずに活動していくならば、日本の企業向けソフトウェアの質を高め、企業の生産性向上やイノベーション実現の推進力になっていくと考えられる」としたのはZDNet。筆者が編集長だったら、このような係り受けの多い記事は書き直させるし、このコメントは削除している。
 BCN Bizlineは「マジックソフトウェア・ジャパン(マジックソフト、佐藤敏雄社長)は、8月6日に設立を発表した「超高速開発コミュニティ」に、設立メンバーの1社として参加した」と、なぜかマジックソフトウェア社を主体にすえて報道した。マイナビニュースもそうだが、マジックソフトウェア社からスポンサードされているのか、客観性が疑われる。あえて寛容に解釈すれば、マジックソフトウェア社が個別にそのようなニュースレリースを発信しているので、それを元にしたということだが、BCN紙は編集長が会見に出席しているのだから、弁明の余地はあるまい。
 結論をいうと、発足した以上はユーザーや業界にいい刺激を与えてほしいと思うのだが、いまひとつしっくりこない。会見に臨んだツールベンダーは「超高速」の言葉に酔ってその誤謬に気がつかず、記者席のライターは勉強不足で検証の精神を忘れている。自ずから記事はピントはずれになる。