「DX推進指標」レベルを280社が自己診断、結果から浮かび上がる“6つの頂”とは

経済産業省が「DX推進指標」を発表し、情報処理推進機構IPA)がその自己診断結果入力サイトを開設してから4カ月が経つ。20世紀モデルのITシステムから、21世紀モデルないしSociety 5.0対応のデジタルトランスフォーメーション(DX)システムへ──そのための指標に沿って、0から5まで6段階で自己診断してみよう、というものだ。2020年2月現在、自己診断した企業は約280社で、IPAは3月末をめどに全体の傾向を分析して公表する。233社の分析を行った途中経過から見えてきたのは、DXの前に立ちはだかる“6つの頂(いただき)”だ。 

DX推進指標は何を目的としているか

経済産業省が「DX推進指標」を公開したのは2019年7月31日。DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進には「経営幹部、事業部門、DX部門、IT部門など関係する者が現状や課題に対する認識を共有し、アクションにつなげていくことが不可欠」(同省)という問題意識から、各企業が自社におけるDXの推進に関して、簡易な自己診断を行うことを可能にするためのツールである(図1)。

 このとき同省は、「本指標を用いて各社が実施する自己診断の結果は、中立的な組織が収集し、ベンチマーキングを行うとともに、その情報を提供する」という計画も打ち出している(関連記事:経済産業省、DXへの取り組み状況を自己診断で可視化する「DX推進指標」を公開)。

図1:DX推進指標の自己診断プログラム(出典:情報処理推進機構

その名のとおり、企業がDXを推進するための指標である。ここ1、2年で経産省からこうした施策が次々と示されている。背景には「日本企業のDXの周回、いや3周回遅れ」がある。詳しくは、関連記事:「IT予算の8割がシステム維持管理」が依然続き、沈みゆく日本のITユーザー/IT業界)/経産省が「2025年の崖」対策の第2弾を発表─「DX銘柄」と「デジタルガバナンス・コード」を読み解くを参照されたい。

本稿の主題である「DX推進指標」に戻る。前述の経産省の問題意識から、以下のような構成で指標を立てている。全体像は図2である。

経営の視点
 ●DX推進の枠組み(定性指標)
 ●DX推進の取り組み状況(定量指標)
ITの視点
 ●ITシステム構築の枠組み(定性指標)
 ●ITシステム構築の取り組み状況(定量指標)

図2:「DX推進指標」の構成。大きく「経営の視点」と「ITの視点」に分けられる(出典:経済産業省

一般的に、定量/定数的な指標は正確な回答がしやすいが(表1)、定性的な指標はどう答えていいかわからないことがある。そこで定性指標の中身を見ると、経営の視点では、「危機感とビジョンの共有」「経営トップのコミットメント」「マインドセット、企業風土」「KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)とエビデンス」などが並ぶ。ITの視点では、「IT/DX推進の中期計画」「データの正規化」「システムの棚卸し」「事業部門のオーナーシップ」などが定性指標として挙げられている。

経産省の説明によると、「定性指標は35項目からなり、現在の日本企業が直面している課題やそれを解決するために押さえるべき事項を中心に項目を選定しています」という。

表1:DX推進の取り組み状況に関する定量指標の例(出典:経済産業省
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自己診断の平均値は「現状1.42/目標3.06

IPAの「DX推進指標 自己診断結果入力サイト」(https://www.ipa.go.jp/ikc/info/dxpi.html)にアクセスすると、まず会員登録を行い、4つのステップで自己診断を入力するようになっている。診断データを入力し終えた企業には、「参考」として、全社のローデータがExcelファイル形式で提供され、IPA側では全社のデータから全体の傾向を分析したベンチマークを策定する仕組みだ(全社ローデータは個社の結果の全てが提出企業に共有されるわけではなく、平均値の実際の数値)。今回を初回とし、同様の分析を毎年1回行うことで経年変化を読み取って行く予定という。

前述したように診断は0から5まで、6段階のレベル判定がなされる。それぞれのレベルの特性を示したのが表2である。

表2:DX推進指標における成熟度レベルの基本的な考え方(出典:情報処理推進機構

成熟度レベル 特性
レベル0 『未着手』 経営者は無関心か、関心があっても具体的な取り組みに至っていない
レベル1 『一部での散発的実施』 全社戦略が明確でない中、部門単位での試行・実施にとどまっている
(例)PoCの実施において、トップの号令があったとしても、全社的な仕組みがない場合は、ただ単に失敗を繰り返すだけになってしまい、失敗から学ぶことができなくなる。
レベル2 『一部での戦略的実施』 全社戦略に基づく一部の部門での推進
レベル3 『全社戦略に基づく部門横断的推進』 全社戦略に基づく部門横断的推進
全社的な取り組みとなっていることが望ましいが、必ずしも全社で画一的な仕組みとすることを指しているわけではなく、仕組みが明確化され部門横断的に実践されていることを指す。
レベル4 『全社戦略に基づく持続的実施』 定量的な指標などによる持続的な実施
持続的な実施には、同じ組織、やり方を定着させていくということ以外に、判断が誤っていた場合に積極的に組織、やり方を変えることで、継続的に改善していくということも含まれる。
レベル5 『グローバル市場におけるデジタル企業』 デジタル企業として、グローバル競争を勝ち抜くことのできるレベル
レベル4における特性を満たした上で、グローバル市場でも存在感を発揮し、競争上の優位性を確立している。

本稿執筆時点(2020年2月10日)で自己診断を行った企業は277件(社)だ。集計・分析が完了したベンチマーク対象は233件だ。企業規模別で見ると、「従業員3000人以上」が30%(70件)で最も多く、「1000人以上」19%(44件)、「100人~300人」が16%(37件)と続いている。従業員300人以上の企業が全体の65%を占めている。

集計・分析を終えた233社の全項目の自己診断平均値を見ると、「現状」は1.42、「目標」は3.06となっている。現状は「一部での散発的な実施」と「一部で戦略的な実施」の中間よりやや下、目標は「全社戦略に基づく部門横断的推進」の初期段階だ。DXに着手したばかりの企業が少なくないことを示している。

興味深いのは、項目によってだが、中堅・中小規模の企業に「レベル0」の回答が少なくないことだ。単に中堅・中小企業の取り組みが遅れていると見ることもできるが、小回りが利くだけに動き出せば速い。自己診断を行っているということは、必ずしも「経営者は無関心」ではないということだろう。

これに対して、全項目の平均がレベル3以上の企業は5%(11社)確認されている。先日明らかになった「DX銘柄」の当確企業といっていい。その平均値は「現状」が3.41、「目標」が4.54だ。全体の平均値と比べ、「現状」は1.99ポイント、「目標」は1.48ポイントも高い。

6つの頂ーDX推進は技術より経営の問題

これだけでは「ああ、そうですか」で終わってしまうところだが、ベンチマークとして活用するために、項目ごとに上位11社の平均値から全体の平均値を引いたDI(ディフュージョンインデックス)を算出すると図3・4のようになる。

図3:233社の現状に対する経営視点の定性指標DI。「危機感・必要性」「事業部門の人材」「人材の融合」が2.5ポイントを超えている
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図4:233社の現状に対するIT視点の定性指標DI。「システムの廃棄」「事業部門のオーナーシップ」「IT投資の評価」が2ポイント付近にある

DX推進指標 自己診断結果入力サイトにある設問を本稿末に示した(表3)。適宜参照していただくとして、「現状」認識で目につくのは、経営視点の定性指標で「危機感・必要性」「事業部門の人材」「人材の融合」、IT視点の定性指標で「システムの廃棄」「事業部門のオーナーシップ」「IT投資の評価」の6つ。言うなれば「6つの頂(いただき)」である。

これは同時に、「DX推進レベルは平均的」と考えている企業、「これから着手」という企業が優先的に取り組むべきテーマを示している。DXの前に立ちはだかる6つの頂は高く、越えていくのは厳しいように見える。しかし、見方を変えると、総じて経営者(経営陣)の問題と言っていい。

まず、事業(市場や同業他社)の現状を冷静に分析し、経営者(経営陣)と管理職、従業員が「危機感・必要性」を共有することがスタートラインだ。それができさえすれば、多額の費用を投入してきた既存システムの廃棄もIT投資の評価も前に進めることができる。このことは、実は企業の規模とあまり関係はない。

なぜなら「外部連携」「持続力」「ITガバナンス体制」「データ活用人材」をはじめ、多くの項目は、DIが1.50ポイント内外にとどまっているからだ。全体の平均DI値1.99ポイントと比べれば、その差は数年内で解消するだろう。DXの推進をITの問題にしてしまうのは課題を矮小化するということだ。

表3:DX推進指標 自己診断結果入力サイトの設問(出典:情報処理推進機構

1.DX推進の枠組み データとデジタル技術を使って、変化に迅速に対応しつつ、顧客視点でどのような価値を創出するのか、社内外でビジョンを共有できているか。
2.将来におけるディスラプションに対する危機感と、なぜビジョンの実現が必要かについて、社内外で共有できているか。
3.経営トップのコミットメント
4.挑戦を促し失敗から学ぶプロセスをスピーディーに実行し、継続できる仕組みが構築できているか。
4-1 挑戦を促し失敗から学ぶプロセスをスピーディーに実行し、継続するのに適した体制が権限委譲を伴って構築できているか。
4-2 挑戦を促し失敗から学ぶプロセスをスピーディーに実行し、継続するのに適したKPIを設定できているか。
4-3 上記のようなKPIに即し、プロジェクト評価や人事評価の仕組みが構築できているか。
4-4 上記のようなKPIに即した投資意思決定や予算配分の仕組みが構築できているか。
5.DX推進がミッションとなっている部署や人員と、その役割が明確になっているか。また、必要な権限は与えられているか。
5-1 経営・事業部門・IT部門が目的に向かって相互に協力しながら推進する体制となっているか。
5-2 自社のリソースのみでなく、外部との連携にも取り組んでいるか。
6.DX推進に必要な人材の育成・確保に向けた取り組みが行われているか。
6-1 事業部門において、顧客や市場、業務内容に精通しつつ、デジタルで何ができるかを理解し、DXの実行を担う人材の育成・確保に向けた取り組みが行われているか。
6-2 デジタル技術やデータ活用に精通した人材の育成・確保に向けた取り組みが行われているか。
6-3 「技術に精通した人材」と「業務に精通した人材」が融合してDXに取り組む仕組みが整えられているか。
7.DXを通じた顧客視点での価値創出に向け、ビジネスモデルや業務プロセス、企業文化の改革に対して、(現場の抵抗を抑えつつ)経営者自らがリーダーシップを発揮して取り組んでいるか。
7-1 ビジネスモデルや業務プロセス、働き方等をどのように変革するか、戦略とロードマップが明確になっているか。
7-2 ビジネスモデルの創出、業務プロセスの改革への取組が、部門別の部分最適ではなく、社内外のサプライチェーンやエコシステムを通したバリューチェーンワイドで行われているか。 
7-3 改革の途上で、一定期間、成果が出なかったり、既存の業務とのカニバリが発生することに対して、経営トップが持続的に改革をリードしているか。
8 ITシステム構築の枠組み/ビジョン実現(価値の創出)のためには、既存のITシステムにどのような見直しが必要であるかを認識し、対応策が講じられているか。
8-1 データを、リアルタイム等使いたい形で使えるITシステムとなっているか。
8-2 環境変化に迅速に対応し、求められるデリバリースピードに対応できるITシステムとなっているか。
8-3 部門を超えてデータを活用し、バリューチェーンワイドで顧客視点での価値創出ができるよう、システム間を連携させるなどにより、全社最適を踏まえたITシステムとなっているか。
8-4 IT資産の現状について、全体像を把握し、分析・評価できているか。
8-5 価値創出への貢献の少ないもの、利用されていないものについて、廃棄できているか。 
8-6 データやデジタル技術を活用し、変化に迅速に対応すべき領域を精査の上特定し、それに適したシステム環境を構築できているか。
8-7 非競争領域について、標準パッケージや業種ごとの共通プラットフォームを利用し、カスタマイズをやめて標準化したシステムに業務を合わせるなど、トップダウンで機能圧縮できているか。
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