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2025年『DX白書』から読み取る救い難き深刻 〜「ああ勘違い」「なんちゃって」「やったふり」でもいいじゃん、にする?〜

 2月9日、経済産業省の外部機関・情報処理推進機構IPA)が『DX白書2023』を発表しました。デジタル・トランスフォーメーション(DX)の進捗状況をまとめたもので、下記URLで発表資料や白書そのものを閲覧することができます(いずれも無料)。

 ○概要:https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/dx-2023.html

 ◯エグゼクティブサマリー:https://www.ipa.go.jp/files/000093705.pdf

 ◯白書本体:https://www.ipa.go.jp/files/000108041.pdf

 IPAという組織には馴染みがないかもしれませんが、「DX」は聞いたことがあるでしょう。「目を通しておくのが第一線のビジネスマン」と申し上げておきます。

人材像がないのはビジョンがない証拠

 日本の企業のDX取り組み状況をざっくり見ると、上のグラフのようになっています。「白書」では日米比較をしているのですが、ここでは紙幅の関係から日本企業に限定しました。

 DXの取り組みは「全社規模で」と「全社戦略に基づいて一部の部門で」を合わせると、2021年45.3%だったのが2022年度は54.2%、「部門個別に」まで入れると2021年度55.8%が2022年度は69.3%に増加しています。

 成果について、「成果が出ている」は2021年度の49.5%から2022年度は58.0%と増えていますが、「出ていない」も2.1ポイント増加しました。DXが全く効いていないのではなく、「期待したほどには」なのかもしれません。

 興味深いのはDXを推進する人材の数と人材像との関係です。人材の数について「やや不足」「大幅に不足」を合わせると2021年度は84.8%でした。2022年度は83.5%で微減——というか、ほとんど誤差の範疇、つまり変わっていません。

 ではDXを推進する人材像を設定しているかを調べると、「検討中」「設定していない」が52.8%となっています。自社のDXにどういう人材が必要か設定していないということは、自社の将来像(ビジョン)がないと言っていることに他なりません。日本企業の多くがDXだからIT予算を拡充(ああ勘違い)、アナログをIT化(やったふり)、既存システムの周りにスマホ・アプリをベタ貼り(なんちゃって)なのだとすると、これはかなり深刻です。

DX論議はそろそろ終わりにしましょう

 DXはデジタル技術で業態を変容させよう、という課題提起です。変化や変革ではなく、まして手続きの簡素化ではありません。製造業であればモノ作りに軸足を置きつつ、サービスで付加価値を付けていくということですし、行政機関は申請があって初めて動く施し行政から市民と協業するサービス行政に転換しなければなりません。

 実は『DX白書2023』のサブタイトルは、「進み始めたデジタル、進まないトランスフォーメーション」となっています。

 ——DXと言っているけれど、実態はアナログのデジタル化じゃないの?

 というのがIPAの分析のようです。DXの名で旧態依然の制度や手続きをますます複雑にしているとしたら、これはもうお笑いのネタになってしまいます。

 この国のIT利活用を眺めると、1990年代——おそらくバブル経済の崩壊を境に、「どこかの誰かがうまくやってくれている」という感覚が支配的になりました。インターネットもクラウドも、「自分ごと」ではありません。同じようにDXも、どこかの誰かがうまくやってくれると思っているのかもしれませんが、こればかりは自分でやるしかありません。

 DXはいまや、テレビCMにも登場するバズワードになりました。約7割の企業がDXを実施しているのなら、2018年時点で予想された12兆円の経済損失が今回の新型コロナ+円安・原油高×少子・高齢化で数倍に増幅したとしても、「恐るるに足らず」です。

 経産省は「2025年の崖」で問題提起ができましたし、政府・自治体・企業のIT予算が増えてSIerは潤いました。ITの世界ではアベノミクスのトリクルダウンが起きた、と言ってもいいわけです。ニッポンってスゴイ——それでいいじゃん、にしますか?