「崖」まであと5年、“本気”を出した同省の方針・施策を、ITリーダーはどうとらえるか
1年半前、「2025年の崖」という警告とその対策方針を示して、課題・問題は多々あれども日本企業が向かわねばならない道としてデジタルトランスフォーメーション(DX)を促した経済産業省。各社のその後の進捗を見てなのか、“猶予”はあと5年となった2020年初頭のタイミングで、崖対策の第2弾を打ち出した。これまでの施策の確認、そして1月22日に同省で開かれた「デジタルガバナンスに関する有識者検討会」の第1回会合の内容から、新施策の肝となりそうな「DX銘柄」と「デジタルガバナンス・コード」について、意図と意義を確かめてみたい。
2020年の仕事始めとなった1月6日、経済産業省が「デジタルトランスフォーメーション銘柄(仮称)」の説明会を開催します──「攻めのIT経営銘柄」が新しくなります」と題したニュースリリースを発表した。発表文を記者クラブに投げ込み、経産省のWebサイト(画面1)に貼り付けただけだったので、ビジネスパーソンにはほとんどリーチしなかったのではないだろうか。
そのリリースの序文にはこうある。
経済産業省は、中長期的な企業価値の向上や競争力強化に結びつく戦略的IT投資の促進に向けた取組の一環として、過去5回にわたり東京証券取引所と共同で「攻めのIT経営銘柄」の選定を実施してきました。
近年、デジタル技術を前提として、ビジネスモデル等を抜本的に変革し、新たな成長・競争力強化につなげていく「デジタルトランスフォーメーション(DX)」のグローバルな潮流が起こってきていることを踏まえ、2020年の銘柄では、DXに焦点を絞り込み、選定基準の全般的な見直しを実施する予定です。また、これに伴い、銘柄の名称も変更する予定です。
2020年の銘柄選定プロセスの開始にあたり、令和2年2月4日に東京証券取引所において選定方法等に関する説明会を開催しますので、是非御参加ください。
(出典:経済産業省 2020年1月6日付ニュースリリース)
近年、デジタル技術を前提として、ビジネスモデル等を抜本的に変革し、新たな成長・競争力強化につなげていく「デジタルトランスフォーメーション(DX)」のグローバルな潮流が起こってきていることを踏まえ、2020年の銘柄では、DXに焦点を絞り込み、選定基準の全般的な見直しを実施する予定です。また、これに伴い、銘柄の名称も変更する予定です。
2020年の銘柄選定プロセスの開始にあたり、令和2年2月4日に東京証券取引所において選定方法等に関する説明会を開催しますので、是非御参加ください。
(出典:経済産業省 2020年1月6日付ニュースリリース)
情促法改正が示すDXへの「本気度」
「攻めのIT経営銘柄」が新しくなる、とのことだが、同プログラムについては、関連記事:2025年の崖目前、レガシーから脱却しDXに舵を切る─「攻めのIT経営銘柄2019」選定企業が発表を参照されたい。上のニュースリリースを素直に読むと、時代の流れに合わせて「攻めのIT経営銘柄」の名称を「DX銘柄(仮称)」に変更するだけと理解できる。DXに焦点を絞って選定するので、選定基準も見直すという。当然だし、何の違和感もない。
というより、経産省が2018年9月に公表した「DXレポート─ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開」はただのレポートではなかった、ということだ。翌2019年、7月に「DX推進指標」、10月に「情報処理促進に関する法律」(情促法)の一部改正と、着実に政策化の準備を進めてきた。そして2020年、いよいよ具体的な施策を施行する段階に入ったと理解してよいだろう(関連記事:経済産業省、DXへの取り組み状況を自己診断で可視化する「DX推進指標」を公開 / 「2025年の崖」の警告先は大企業だけ? 中堅企業はデジタルの時代をどうサバイブするか)。
余談だが、中央府省が政策を推進するには、法律・省令、税制、許認可・資格、補助金などが用いられる。経産省は原則、許認可官庁ではないので、許認可制度の代わりに指針、指標、ガイドラインなどを好む傾向がある。今回は健全なIT化を実現することを目的とする「情促法」改正で臨んでいるので、「本気度」は100%だ。
①情促法の改正で法的な裏付けができたのは、以下の5点である。①2020年度に情報処理推進機構(IPA)に「産業アーキテクチャ・デザインセンター」(仮称)を新設
②IPAに政府調達におけるクラウドサービスの安全性評価を行う機能を追加
③情報処理安全確保支援士の登録に更新手続きなどを導入
④経営における戦略的なシステムの利用の在り方を提示する指針(デジタルガバナンス・コード)を政府が策定
⑤同指針を踏まえた優良な取り組みを行う企業を認定(DX格付、仮称)
②IPAに政府調達におけるクラウドサービスの安全性評価を行う機能を追加
③情報処理安全確保支援士の登録に更新手続きなどを導入
④経営における戦略的なシステムの利用の在り方を提示する指針(デジタルガバナンス・コード)を政府が策定
⑤同指針を踏まえた優良な取り組みを行う企業を認定(DX格付、仮称)
今回の「DX銘柄」選定基準の見直しは、④の「経営における戦略的なシステムの利用の在り方を提示する指針(デジタルガバナンス・コード)」、⑤の「同指針を踏まえた優良な取り組みを行う企業を認定(DX格付、仮称)」に呼応する。冒頭、1月6日のニュースリリースは「ポスト2025」推進策の第2弾のスタートを告げる号砲だったわけだ。
「Society 5.0」の文字が復活
図1は2020年1月22日に経産省で開かれた「デジタルガバナンスに関する有識者検討会」の第1回会合(写真1)で示されたもの(見やすくするため一部色づけしている)。情促法を括弧書きで「Society 5.0実現に向けた振興法」としており、原点である「情報処理振興事業協会等に関する法律」と比べ性格が大きく変わったことがわかる。
この図からDX銘柄とデジタルガバナンス・コード、情促法、各種ガイドラインの位置関係が見えてくる。家屋の基礎となる部分に情促法があり、規範として「Society 5.0(デジタル時代)の企業経営における戦略的システム利用の重要性」、自主的・自発的な対話促進のフレームワークとして「ステークホルダーとの対話項目、配慮事項」が配置されている。
経産省は、DX銘柄を女性活躍/ダイバーシティの「なでしこ銘柄」や「健康経営銘柄」と並ぶ企業選定制度に位置づけたいように見える。決して、これまでの攻めのIT経営銘柄が格下だったわけではないが、国の認定であることを裏づける法律、その法律に基づく選考基準があるという点が決定的に違う。
ちなみに各銘柄は、東京証券取引所が経産省と連携している点で同じだが、経産省側の窓口を見ると、なでしこ銘柄は経済社会政策室、健康経営銘柄は商務・サービスグループ。DX銘柄は商務情報政策局の情報技術利用促進課(通称「ITイノベ課」)が窓口となる。
ここで気がつくのは、Society 5.0の文字が“復活”したことだ。科学技術基本法に基づく第5期計画(2016~2020年度)のキャッチフレーズとして登場、最終年度に向けて復活させた。「一気に突っ走るぞ」の決意表明、と見るのは穿ち過ぎかもしれないが、これも本気度100%の裏づけとなりそうだ。