「2025年の崖」の警告先は大企業だけ? 中堅企業はデジタルの時代をどうサバイブするか(後編)

 改革すべきIT領域の構造問題のうち、ユーザーにかかわるのは次の2点である。

 ①IT予算の約8割が既存システムの保守管理維持に投入されている
 ②ITシステムの設計・開発・運用・保守を外注に丸投げしている

 この状況は、52万8000を数える中堅企業(注1)でも変わらない。というより、このレンジの企業では継続的にIT予算を編成することはなく、そもそもIT部門が設置されていないところが多い。そればかりでなく、1人の専任のIT要員(ひとり情シス)すらいない。ITは総務部か経理部の所管で、担当者1人と外注会社から派遣されてきたプログラマー、オペレーターで構成するようなケースが珍しくないのではあるまいか。経産省ないし2025年の崖の視野から、中堅企業はスッポリ抜け落ちているように思われる。

注1:2016年6月実施の「平成28年経済センサス」によると、事業者総数358万7000社。このうち大企業は1万1157社、小規模事業者は304万8000事業者。
中堅企業の定義は、①中小企業から成長し、大企業になっていない独立系の企業。②企業規模が中小企業と大企業の中間にあって、独自の資本と技術・製品を持っている企業。③中小企業基本法が定める「中小企業」(資本金3億円/従業員300人未満の製造業・建設業・運輸業または資本金1億円/従業員100人未満の卸売業・サービス業、資本金5千万円/従業員50人未満の小売業)を除く「大企業」のうち、資本金10億円未満の企業及び中小企業に属する会社のうち資本金1億円以上の企業

中堅企業で30年前のオフコンが使われ続ける

 事務機械化、電算化、情報化の経緯で見ると、中堅企業が相次いでコンピュータを導入していったのは、オフィスコンピュータ(オフコン)と称された業務用小型コンピュータが登場した1980年代からだ。富士通のFACOM Kシリーズ(写真1)、NECのシステム100、N3100シリーズ、日立製作所のHITAC Lシリーズ、三菱電機のMELCOM80シリーズ、IBMのSystem/36、同38、AS/400など、懐かしいマシンの名を思い出す。

写真1:1984年発表の富士通オフコン、FACOM Kシリーズ(出典:富士通

 オフコンは全盛期に年間10万台も出荷したことがあるのだが、それを可能にしたのはユーザーのプログラミングレスを保証したためだった。人事給与、在庫・出荷管理、顧客管理、経理・会計といった基本的な業務にマッチするパッケージをインストールし、ユーザーの要求に合わせて帳票と処理画面を作成する。

 ユーザーは電源を入れ、特定のキーを手順に従って押していけば必要な業務を処理することができる。かつての自動車のように、キーを差し込んで右に回すと電源が入りシステムのロックが外れる。特定のキー操作で処理が進むという意味から、「ターンキーシステム」とも称された。IT要員のいない中堅企業にとっては待望のシステムであったと言える。

 オフコンユーザーは、1980年代の通信回線自由化で給与計算や会計処理などを受託計算センターに委託したり、90年代のオープン化、ダウンサイジングの流れの中でWindows PCとUNIXサーバーによるクライアント/サーバーシステム(C/Sシステム)に移行した企業が少なくない。とはいえ、いまだにオフコンから抜け出していない企業が1万社以上ある」とした指摘がある。

 筆者の手元には3000社を超すオフコンユーザーのリストがあるのだが、個別に追跡調査をしているわけではないので、現状、実態は分からない。本社のシステムはオープン系サーバーに移行していても、部門サーバーとしてオフコンが残っていることもあるだろう。

 そもそもプログラミングレス、ターンキーシステムなので、システムのあり方やプログラムの管理を担うIT専任の社員はいない。最近では簡単なJavaプログラムなら作成できる社員がいるかもしれないが、オフコンはメーカーオリジナルのOSとDB、業務アプリケーションはパッケージあるいはPL/1、RPG(Report Program Generator)といった専用のプログラミング言語で記述されていればブラックボックスだ。とりあえず単機能の専用マシン(例えば給与計算だけといったように)として問題なく動いているし、下手にいじって変なことになったら高くつく。それでマイグレーションもしない──。

稼働基盤が怪しい「なんちゃってクラウド

 もう1つは、多くの中堅企業がオンラインで業務処理を委託している「計算センター」のシステム基盤がどうなっているかだ。もちろん計算センターとは昔の呼称。今日はパブリッククラウドやIaaS(Infrastructure as a Service)などと呼ばれて、クラウドシフト、クラウドファーストを推進するプラットフォームとして重要視されている。

 しかしながら、表向きクラウドを謳っていても、その稼働基盤が怪しかったら、クラウドのエラスティックな特性からほど遠いレガシーシステムだとしたら、2025年の崖からは免れない。つまり「なんちゃってクラウド」問題である。

 「30年前のオフコンを大切にメンテしながら使い続けている」のも、「なんちゃってクラウド」に自社のシステムや情報資産を委託するのも共に大きな問題だ。メンテナンスができなくなり、事業の柔軟性が劣化し、システムの脆弱さが増す。オープン、PC系のシステムが並行稼働している場合、データ構造の相違がシステム間の不整合を拡大する。それだけでなく、企業が突然死するリスクが大きくなる。

写真2:経産省から望む霞が関官庁街と国会議事堂。経産省の視野に中堅企業の将来は入っているのだろうか

「脱落する企業が出ても仕方がない」と考える

 いくら何でも20世紀型ないし昭和のレガシーシステムが突然死の要因になるとは信じられない、と笑う向きがあるだろう。なるほど動脈硬化や高血圧と同じように、それが直ちに命にかかわるとは言い難い。しかし、製品にQRコードを付けて納品してほしいという取引先の要求に応えられないために、契約の延長が見送られた例を実際耳にした。

 あるいは、昭和のバッチ処理システムだと、前日の営業結果を集計するのが精一杯だ。このため事業戦略を立案し指示する経営者や管理職は、「いま」を把握することができない。市場のニーズが猫の目で変化するとき、3K(経験、勘、神頼み)でしか対応ができないのはリスク以外の何ものでもない。

 本来であれば、ITベンダーが2025年の崖を回避するよう努力を尽くすのが筋だろう。ところがITベンダーにとっては「現状維持」が望ましい。オフコンのシステムはそもそもブラックボックスなので、真のクラウドに移行しようとしたら、アプリケーションをゼロから構築しなければならず、データ構造を統一(正規化)しなければならない。

 手間がかかる。人手を割かなければならない。費用もかかる。それで「現状維持」、つまり現状と大きく変わらないのなら、ユーザーは多額のコストを投入しないだろう。それよりも人月単価の派遣契約であっても、S4/HANAマイグレーションサービスを受託したほうが、営業の苦労は小さいし収益は確実だ。ということは、脱オフコンやDXの下地作りに参加することこそ、地域中小ITベンダーの未来を拓く手がかりになってくる。

 2016年の6月、経産省は情報処理振興課(情振課)を廃止し、情報技術利用促進課(ITイノベ課)に改組した。同時に旧情振課の機能のうち、情報サービス業の業態転換と高度化を推進する役割は、情報産業課のソフトウェア・情報サービス戦略室に受け継がれた。この時点で経産省が情報サービス業の支援・振興から、ITの利活用に舵を切ったことは明らかだ。

 今年11月29日、「情報処理の促進に関する法律」(情促法)が改正され、情報処理推進機構IPA)に「産業アーキテクチャー・デザイン・センター(仮称)」の設置が本決まりとなった(図3)。産業ごとの特性を取り込んだクラウド型ITシステムの共通基盤を編成するのがねらいという。同センターはやっと準備室がスタートした段階で、詳細が明らかになるのは年度末まで待たなければならない。

 ここで重要なのは、ITシステムの改革を後回しにしたために“突然死”する企業が出ても、それはやむをえないと考えることだ。ユーザー企業であるとITベンダーであるとを問わず、「IT資本主義」の時代に乗り遅れる企業まで救ったのでは、再編による産業力の強化は望むべくもない。

 そのうえで願うのは、「産業アーキテクチャー・デザイン・センター(仮称)」は“オフコンつぶし”をミッションの上位に置いてほしいということだ。大企業は自力で脱レガシー/DXに踏み出すことができるし、それをしなければ国際市場で敗退していくだけのことだ。中堅企業の競争力や生産性をどう引き上げるか。産業再編と雇用確保の観点からも、オフコンつぶしは重要な政策課題なのである。

図3:情報処理の促進に関する法律の一部を改正する法律案の概要。11月29日に成立したので「案」ではなくなった (出典:経済産業省
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