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「2025年の崖」の警告先は大企業だけ? 中堅企業はデジタルの時代をどうサバイブするか(前編)

「延命オフコン」や「なんちゃってクラウド」が企業の突然死リスクに

2019年12月25日(水)

エンタープライズIT業界の流行語大賞があったとしたら、経済産業省のDXレポートが指摘する「2025年の崖」は大賞ないしは大賞候補だったかもしれない。それほど各所でこの言葉が踊った。しかしながら、このパワーワードが指摘し警鐘を鳴らしたのは実のところ大企業に向けてのみで、国内52万8000を数える中堅企業は「延命オフコン」や「なんちゃってクラウド」といった経営・事業の突然死リスクに取り囲まれている。

週刊誌の誌面にも踊る「2025年の崖」

 週刊現代に「『2025年の崖』メガバンクと大手ITベンダーが、もし崩壊したらあと5年…日本は沈没しかねない」という記事が載った。本誌読者には説明不要と思うが、「2025年の崖」は経済産業省の造語で、2018年9月7日に公表した『DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート」の副題「ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開」に依っている(図1)。

図1:DXレポートで示された「2025年の崖」(出典:経済産業省 DXレポート)
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 詳細は経産省の資料をダウンロードしていただくとして、エンタープライズ系IT界隈の関係者にとっては、「週刊誌までがタイトルに使うようになったか」と驚きに近い感慨があったに違いない。当時、同省の商務情報政策局 情報技術利用促進課長だった中野剛志氏(2019年6月に製造産業局参事官に転出)は、「(2025年の崖という言葉の)賞味期間が1年以上も続くとは思ってもいなかった」と笑う。

受託系IT企業は特需でウハウハ?

 DXレポート/2025年の崖で経産省が設定した仮説は、「2025年までにビッグデータ、AI、IoT、5Gといった新しいITの利用が広がる」社会だ。1960年代に本格化した「事務機械化が1970年代に「電算化」、1980年代に「オンライン/VAN」、1990年代に「情報技術(IT)」と変容し、スマートフォン/4Gの普及で「デジタル社会」が加速するというのが今だ。

 デジタル社会になり、物理的な書類や判子、貨幣などの利用頻度が激減していく。例えば本人確認は顔や指紋による生体認証を採用するところが増え、支払いはスマホQRコード決済がブームになってキャッシュレス、レシートレスが進行している。あとは会社員が満員電車で通勤しなくても仕事ができるようになれば、本当の意味で働き方が変わる。

 目をITに転じると、近い将来に確定している要件として、Windows 7の延長サポート終了(2020年1月14日)、PHSの停波(2023年3月31日)、固定電話(PSTN)の終了(2024年)、SAP ERPパッケージのサポート終了(2025年)などがある。

 また、向こう5年内外にメインフレームの担い手であるCOBOLエンジニアが第一線から退くことが挙げられている。1980年、22歳でITエンジニアの第一歩を踏み出した人が65歳定年を迎えるのは2022年から2023年にかけてだが、人的資源の枯渇問題のほかに、レガシーシステムの仕様がゴチャゴチャになっていて手を付けられなくなっている事情を忘れるわけにはいかない。このレガシーシステム問題と「SAP2025年問題」が2025年の崖の根拠の中心にある。

 経産省の裏事情も含めて推測すると、2025年の崖という問題喚起は、まず東京オリンピックパラリンピック後に予想されるポスト2020不況対策と、IT領域の構造改革を併せて促進するねらいがあったに違いない。

 改革すべきIT領域の構造問題とは、例えばユーザー企業のIT予算の約8割が既存システムの保守管理維持に投入されていること(図2)、ITエンジニアの7割超がIT産業側に所属していて、ユーザー企業はITシステムの設計・開発・運用・保守を外注に丸投げしていること、受託型ITサービス業における多重下請けと人月ビジネスなどだ(関連記事「IT予算の8割がシステム維持管理」が依然続き、沈みゆく日本のITユーザー/IT業界)。

 これらに、GAFAGoogleAppleFacebookAmazon.com)/BAT(Baidu、Alibaba、Tencent)といった米中のメガプラットフォーマー対策やWebサイトにおける個人情報保護問題などが絡んでくるので話がややこしい。

図2:ユーザー企業のIT予算の配分比率(出典:JUAS「企業IT動向調査」の2013~2018年度結果を基に作成)
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 このままだと、海外のメガプラットフォーマーが国内市場を席巻するぞ!/個人情報保護やセキュリティの締め付けがますます強まってくるぞ!/民法の改正で受託開発したシステムの瑕疵責任が問われるようになるぞ! だから今のうちに業態を転換しないと!……と脅し透かすのだが、経産省の思いを他所に、受託系IT業界は、降ってわいたSAP S/4HANAマイグレーション特需にウハウハであるらしい。何せ、その市場規模は4兆円にも上るという。

中堅企業がスッポリ抜け落ちている

 この手の話でいつも思うのは、経産省の産業施策は基本的に大手企業しか見ていない、ということだ。上の図1に記載されている「メインフレーム」「COBOL」だが、国内でメインフレームを利用しているのはざっくり4000社、東証1部上場企業を中心とする大手企業・団体(官公庁を含む)と考えていい。すると、2025年の崖は大手企業・団体に限っての課題なのだろうか。

続きは➡️ 中堅企業で30年前のオフコンが使われ続ける

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