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中企庁、ソフト開発の多重取引是正に着手 立入検査や不正競争適用も

 経済産業省中小企業庁がITサービス/ソフトウェア開発業の多重取引是正に乗り出す。9月15日に策定・発表した下請取引適正化に関する政策パッケージ「未来志向型の取引慣行に向けて」の対象に追加、発注元大手企業と下請中小企業へのヒアリングなどにより実態を把握するとともに、下請代金支払遅延防止法(下請代金法)や下請け中小企業振興法の改正に結びつけ、立入検査や不正競争防止法を適用することも検討するという。実効性が問われることになりそうだ。

 
 
 
 

■ 多重構造改革で待遇改善 ■

 ITサービス/ソフトウェア開発業における多重取引について、経産省・中企庁はこれまでも実態調査を行ってきたが、業界が自主的に是正すべき課題として、法制度で是正することには慎重だった。しかし同類・同質の事業者が連鎖する多重取引と無責任な要員派遣がこれ以上蔓延・深化すれば、ITシステムの品質・安全が担保されなくなることが懸念される。
 ベースとなっているのは経産省が今年6月10日付で発表した「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」「IT人材に関する各国比較調査」。IT人材の高度化を図り技術シフトを実現るには、働き方の改革や待遇の改善が必要と指摘、将来のIT人材を確保するためにも多重下請の構造的課題を是正することがIT技術者の待遇改善に資すると指摘していた。
 「未来志向型の取引慣行に向けて」は、先の内閣改造経産相に就任した世耕弘成氏が特に力を入れている施策であることから「世耕プラン」と通称される。中小事業者が賃上げしやすい環境づくりと地方経済の活性化を促すのがねらい。9月15日に発表したときの対象業種は、第1類型に分類される自動車、素形材、情報通信機器、建機(産業機械・航空機等)の4業種で、①適正な原価、②適正な労務費、③発注者負担の押し付け回避、④適正な対価の支払いーーの4点が指摘された。

■ 年内目途に法改正やGL見直し ■

 具体的な対策として、取引上の立場を利用した一律◯%といった原価低減要請(調達担当者レベルの机上の計算、口頭での指示を含む)に対しては「削減効果や寄与度の裏付けのある価格反映に転換する」こと、下請け事業者の経営努力が及ばない労務費上昇が考慮されないケースに対しては「対価反映を十分に協議する具体的な仕組みや慣行の確立」、手形で支払いを受ける比率が高いケースには「下請代金支払遅延等防止法(下請代金法)の厳守徹底(原則現金払い、120日・90日手形の禁止)」などを示している。
 合理的根拠のない価格決定方法の見直しを求めたほか、部品・部材メーカーに焦点を当て、「量産終了後に長期にわたり無償で金型保管を要請するなど、本来親事業者が負担すべき費用の押しつける」等、サプライチェーン全体にかかるコスト負担の適正化を図る。
 今回、第2類型として新たに追加したのは「繊維」「アニメ」「情報サービス・ソフト」の3業種。食品製造・流通、建設、トラック運送、放送コンテンツの4業種は他省の所管だが、第2類型3業種に準じる扱いとし、①発注元大手事業者と下請中小事業者へのヒアリングを実施、②下請ガイドライン(GL)の遵守徹底を図る、③発注元大手事業者に自主行動計画の策定を要請する。
 自主行動計画の策定に当っては、3次・4次下請事業者に匿名で「不適切な原価低減要請」の調査を実施し、原材料や光熱費等の値上がりおよび、技術者の教育機会にかかる費用等を織り込んだ適正な対価決定の仕組み、システム運用トラブルやプログラム瑕疵に伴う費用負担の明確化などを盛り込むよう求める。また立入検査を行ったり、不正競争事案として公正取引員会との協議も検討する。
 経産省中小企業庁は業界大手に「自主行動計画」の策定を求める一方、下請代金法の改正を公正取引委員会に要請するとともに下請中小企業振興法改正などを実施するとしている。来年の春闘や価格交渉時期を見据え、下請代金法の運用基準や改定、下請ガイドラインの見直しは年内を目途に実施したい考えだ。

■ 中小が賃上げしやすい環境 ■

 中企庁はこれまでも下請代金法の遵守状況について、発注元・下請中小事業者約24万件に書面で調査しているほか、立入検査や改善指導、16業種の下請ガイドラインの見直し、下請中小企業振興法に基づく業界団体への要請などを行ってきた。しかし対象は金属加工、機械など製造業が中心で、ソフト/サービスなど無体物の取引や労務提供には重きを置いていなかったきらいがある。
 また今回、適正対価算定の仕組みづくりに踏み込んだのは、下請中小事業者の適正な利益と就業者の賃金・就労要件の改善をにらんでいる。安倍首相の側近である世耕氏が経産相就任直後に打ち出した施策だけに、「アベノミクス」の効果が中小企業に及んでいないことを暗に認めたこととなるが、結果としてITサービスやソフトウェア開発の取引慣行が健全化され、就業者の待遇が向上するなら可といっていい。
 ただ下請代金法など一連の法制度が強制力を持っていない以上、業界単位の自主的な是正努力を確認することにとどまる、との見方もある。施術スキルに対応した対価の目安や人材育成プログラムなど実効性のある対策を策定するよう、どのように業界団体を指導するか、発注元大手事業者の抵抗をどう排除するかがカギになる。