NSAが団体名変更を決定 「東京」「情報産業」の意味

 日本ソフトウェア産業協会(NSA)は、6月17日に開催した定時総会で河合輝欣氏の会長退任と根本健時の新会長就任を承認、中期ビジョン《東京情報革新2020》とともに団体名を「東京都情報産業協会」に変更することを決定した。名称変更は来年4月1日からとなる。発足から30年、業界内で広く知られている団体名を捨てて、「東京都」を名乗る意味は何なのか。

「ソフトウェア」の名を捨てる

 今回の団体名変更で目につくのは、①「東京都」を冠したこと、②「ソフトウェア産業」から「情報産業」に変えたこと――の2点。協会関係者によると、発足30周年記念事業と中期ビジョン《東京情報革新2020》を検討する過程で話にのぼるようになった、という。
 説明によると、「東京都」を名乗る理由は大きく2点。まず会員企業の大半が東京都内に本社を置いており、地理的な事業範囲も東京都内が中心となっている。もう1つは協会活動も自ずから東京都内に収斂していて、協会が中心的な役割を果たしている全国地域情報団体連合会(ANIA)では、事実上「東京都の団体」として位置付けられていることがある。実態に即す、という意味で受け入れることに抵抗はない。
 対して、「ソフトウェア」の文字を消すことには、会員企業から若干ながら異論があったらしい。「ソフトウェア」という言葉はITシステムの設計やプログラム作成・テストばかりでなく、IT機器のオペレーションやITシステムの運用管理といった業務も含めて使われることがある。しかしそれは20世紀型の定義で、21世紀のこんにちはインターネットやスメートメディア(スマートフォンウェアラブル端末)、デジタルサイネージやIoT(Internet of Things)の仕組みやサービスも包含するという見方もある。
 ――そこでいったん20世紀型の「ソフトウェア」の概念を引っ込めようということになって、より広義な表現を探したんだが、なかなかいい言葉が見つからない。立ち止まったら、ちょっとレトロな「情報産業」という言葉が見つかった(30周年記念事業企画チームの與良博和氏:ユーエスエス会長)というわけだ。それをテコに「当社はソフト会社じゃない」を理由に入会を躊躇する企業を会員にしていこうということらしい。

目標は中小IT事業者の自立

 もう一つの「東京都」だが、ANIAにおける位置付けと団体名としてその名を冠するのは、意味が大きく違ってくる。前者は地勢図上の地域を指すに過ぎないが、後者は行政上の意味を持ってくる。別の言い方をすると、「東京」は単なる地域の名称なので自由に名乗れるが、「東京都」を名乗るには東京都の許可が要る。つまり都の然るべき部署(30周年記念式典の招待客からすれば産業労働局商工部)の所管に入ると考えるのが一般的だ。
 実際、1980年代の中ごろ、全国各地に誕生した地域ITサービス/ソフトウェア事業者団体が道府県の名を強く希望したのは、そのことが結果的に、当該道府県システム開発案件やデータ作成・管理/システム運用業務を地元に発注するきっかけになると考えたためだった。例えば地域団体の最古参・神奈川県情報サービス産業協会(1983年、母体である協議会が発足)は、県が発注するIT関連案件の8割が東京に発注され、地元IT企業がその下請けになっている課題の解消を求めていた。「ITの地産地消」が合言葉になって、その動きが全国に広がった。
 NSAが発足した1985年、そのとき視野にあったのは「中小ソフト会社の大同団結」だった。前年に発足した情報サービス産業協会(JISA)が業界大手中心だったので、それに対抗する意向が強かった。システム開発業務やシステム運用管理業務における多重受発注の構造が出来つつあり、危機感を持った中小ソフト会社が「自立」と「適正取引」を訴えて発足したのがNSAだった。

地域の異業者と向き合う

 以来30年の年月を経たとはいえ、初期の目的が達せられたとはとうてい思えない。ITサービス業界の多重受発注構造はますます深化し、労働者派遣事業法に抵触しないよう、表向き二重派遣を回避するために「常駐」「出向」「再委託」「準委任」「SES(Software Engineering Service)」といった言い換え、誤魔化しが横行している。それを少しでも是正する努力を放棄して、東京都という行政機関の保護下に入ろうというのだろうか。
 ――自立自存を放棄するなんてこと、あるわけがない。
 新会長に就任した根本健時氏(システムコーディネイト社長)はそのような疑念を一蹴する。
 ――東京都は世界トップクラスの大都市。そのIT案件に食い込むのがどれほど難しいかは我々がいちばん理解している。三多摩地区を含めた東京都内に、我々と同じような規模の事業者は山ほどいる。そのような事業者のIT化、IT利活用に真正面から取り組んでいく。
 なるほどスローガンとしてはいい。だが受託型ITサービス会社の下請け体質を、提案型、リスク先取型に変えるのは簡単なことではあるまい。
 ――もちろん一朝一夕にできる話ではない。しかし挑戦していかなければ。提案型、リスク先取型でないと、企業として付加価値を持つことができないことは分かっている。「東京都」の名を冠することで、異業種の団体と交流しやすくなる。まずはそこからスタート。
 ふむ。それが《東京情報確信2020》のねらい――として、とりあえずは「お手並み拝見」といったところか。