ユーザー中心のサービスデザインとは Govtech Conference Japan 2019 パネルディスカッション

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 すでに旧聞に属する1月16日、東京・永田町で経済産業省が主催する〈Govtech Conference Japan 2019〉が開かれた。その要点は折を見てまとめるとして、本稿ではパネルディスカッションの1stセッション「ユーザー中心のサービスデザインとは」を再録する。

 登壇者は次の4氏だった(敬称略、所属・肩書きはプログラムの表記に従った)。

 ●安井秀行:(株)アスコエパートナーズ代表取締役

 ●齋藤麻衣:Disignit Tokyo(株)シニア・サービス・デザイナー

 ●小山田那由他:(株)コンセント サービスデザイナー/アートディレクター

 ●太田垣恭子(モデレーター):ANNAI.Inc. Co-founder兼COO

市民の目線で分かりやすく・使いやすく

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左からモデレーター太田垣氏、画面はさんで安井、齋藤、小山田の各氏

太田垣 皆さま、よろしくお願いいたします。「ユーザー中心のサービスデザインとは」というテーマでパネルを進めてまいります。まずはご登壇のお三方から順番に自己紹介をお願いします。お名前だけじゃなく、どのようなお仕事をなさっているかなど、適宜お話しいただければと思います。ではまず安井さんからお願いできますか。

安 井 え~、いまご紹介いただきましたアスコエパートナーズの安井と申します。私どもは市民の方に身近な行政サービス、例えば子育ての支援ですとか保育、あるいは高齢な方の健康情報ですとか、最近ですと自治体や国と密接に連携しながら、災害・防災、その対応策や支援制度に関連するデータベースを作ったりしています。ということで、よろしくお願いします。

太田垣 スライドを用意していただいてますので、ぜひそちらもご説明いただければ。

安 井 あ、では。 アスコエという社名なんですが、「明日の声」の意味なんですね。私自身が行政サービスには住民の声がほんとに大事だなと思いまして。行政の方に任せていますと行政の方の声しかなくてですね、地域の明日を変えていこうというわけです。

 で、私はサービスデザインの専門家ではなくて、サービスデザイン的な仕事を行政の方と一緒に取り組んでいるわけです。具体的には「ユニバーサルメニュー」と呼んでいるんですが、子育てとか保育とか防災とか、いろんな身近な行政サービスがあるんですが、あんまり身近に感じられないのはなぜかというと、わかりやすく整理されていないんじゃないか、と思ったんですね。それといろんな自治体に共通した制度がある。少なくとも構造は似ている。それを共有して使いやすくするという意味で「ユニバーサル」と言っています。

 細かいことは省きますが、子育てのアプリですとかWebサイトですとか雑誌ですとか、いろんなものを作っています。よく「Webの会社ですか?」って聞かれるんですが、そうではなくて、利用者の視点で行政サービスを身近なものにする会社です。とりあえずこんなところでいいですか?

太田垣 ありがとうございます。確かに自治体のWebサイトを見てますと、内容は同じなのに自治体によって名称が違ったり、どこを探せばいいのか分からなかったりしますよね。わたし実は引越しが多いんで、そういうのを体系化してわかりやすくするっていうのはすごく助かります。またあとでよろしくお願いします。

 では次に齋藤さん、お願いします。 

齋 藤 はい。齋藤です。今日はプレゼン用のスライドを用意していないので……。 わたしが所属している「Designit」(デザインイット)というのはオランダに本社を置く会社でして、世界15か国で戦略的デザインの仕事をしています。イリノイ工科大学に留学していたときに、同級生に経産省から来ていた方がいて、ああこういうこともあるんだなと思いました。そのご縁で今日、ここに呼んでいただきました。

 デザインイットではクライアントの事業の開発ですとか、最先端の技術があるんだけれどそれをどう生かしたらいいか分からない、2030年にこの業界がどうなるか分からないというようなときに、一緒にコンセプトとかを作っていく。あとは新しいことを始めるとき、これまでの組織のままですとうまく回らない。そいう組織の改変ですとかのお手伝いをしています。

太田垣 はい、ありがとうございます。齋藤さんにはですね、海外の行政機関がどんなふうに取り組んでいるか、そういったところが日本とどう違うのか、単純に海外の制度ややり方をそのまま持ってきても、なかなかうまく行かない。そういうことを皆さん現場でお感じになっておられると思うので、そういった視点からもバシバシ切り込んでいただければ、と思います。では次、小山田さんですね。 

小山田 はい。え~、皆さん、こんにちわ。コンセントの小山田と申します。  えっと、コンセントはですね、約40年ほど前に創業した会社でして、ビジュアル・コミュニケーション・デザインと情報デザインというところを大切にして、企業のコミュニケーションを支援する仕事をやってきました。スライドはないので口頭で紹介させてもらえればと思うんですけど……。

 企業に伴走してコミュニケーションを支援する事業をやってきたんですが、環境の変化に対応してサービスデザインの事業部を作りまして、民間企業の新規事業のサービス開発ですとか社会的視野に立った行政サービスの支援を手がけています。元はグラフィックスデザイナーだったんですけれど、現在は人間中心のデザインとサービスデザイナー、合わせて全体を支援するお仕事をしています。

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モデレーター 太田垣氏

太田垣 ありがとうございました。 じゃあ私も……。改めましてモデレーターをさせていただくANNAI(アンナイ)の太田垣恭子と申します。京都市京都府など行政のデータ活用、また経産省さんの補助金システムなど作らせて頂いている関係でモデレーターをすることになりました。

 え〜と、「サービスデザインの基本ルール及びサービスデザイン思考の実行について」という資料が出ています。サービスデザイン思考の重要性について、役所中心でなくユーザー中心の考え方でサービスを提供していこうという視点で書かれています。そのなかにある「サービス設計の12箇条」、これを見てどうしたらいいのかな、と皆さん戸惑っておられるのではないかと思うのですがいかがでしょうか。

 利用者のニーズから出発してやっていきましょうとか、いろんなことが書かれておりまして、いろいろ言いたいことがある方がいらっしゃると思うんですが、これは一旦参考までにということで(笑)。

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「ユーザー」「サービス」って何だろう

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安 井 氏

太田垣 で、ユーザーという言葉もサービスという言葉も結構一般的な言葉です。アスコエさんが「Webを作ってる会社なの?」言われるように、Web と勘違いされることもありますし、海外でいう「サービス」「デザイン」という言葉と、日本の定義は違うところがあるようです。なので、「ユーザー中心の」ということや、サービスという定義を考えていこうと思います。 安井さんから順番にお願いしますが、「ユーザー」って言った時、どのように考えたらいいんでしょうか。

安 井 ユーザーという定義は、私の実体験で言うと大きく2つあると思います。これまで「ユーザー」という言葉はあまり定義されないまま使われてきました。例えば国民、市民とか町民。具体的に誰のことなのか分かりません。女性もいるし男性もいるし若い人もいるしお年寄りもいる。お仕事の人もいらっしゃる。アンケートを調査会社にお願いしても、その結果が子育てをしている個々のお母さんにフィットするか、ということです。つまり本当に利用者の方に声を聞くことができていなかったように思います。そういう具体的な利用者像を作っていくということが大事だと思っています。

 もう一つ申し上げたいことは、ユーザーの中に国や自治体の職員の方もいらっしゃるということですね。部署が分かれていたり人事異動があったり、ただでさえ窓口業務が忙しくて、といった色々な問題があるわけで、その観点から職員の方自身がユーザーなんですね。ですので、わたくしたちも行政サービスを設計する時に、例えば子育て支援制度だとすると、住民の方の声をよく聞いて、福祉課の担当の方の声を聞いてシステムを作って行く。

太田垣 そうですよね。行政の方とお話ししていて「ユーザー」という言葉が現課のことだったりして。システムを作る立場の私たちは、国民や住民のことを意識している。そこだけでもずれてしまう。重要なご指摘だと思います。

齋 藤 ユーザーというのは、もちろんサービスを受け取る市民の皆さんとか最終的なエンドユーザーでもあるのですが、その方々と対面してサービスを提供している人もユーザーだと考えています。またサービスを提供できるように裏で支えている人たち、さらにその仕組みを作っている人たちもユーザーだと考えるようにしています。全ての歯車がうまく噛み合って持続的に回るようになっていく仕組みを考えることが大事だと思います。なんかこう、行政の縦割りの中で色々な問題があるんですね。

太田垣 ありがとうございました。じゃあ小山田さん、いかがでしょうか。

小山田 そうですね。民間のプロジェクトだと、ユーザーエクスペリエンスとかカスタマーエクスペリエンスとか、なにがしかインタラクティブにコミュニケーションする利用者を「ユーザー」、そういう明確な区分があるのですが、行政サービスにおいてはあらゆる人が対象になってくる。サービスを提供する行政側の人たちもユーザーとして捉えていく、つまりサービスオペレーションはどうあるべきなのか、そうれも含めて検討していくところが大事だと、二人と意見は一緒です。

太田垣 行政に限らず、またサービスの利用者に限らず、システムを作っている方も含めてユーザー、という考え方ですね。では「サービス」って何か、に移ります。 安井 国や自治体におけるサービスデザインについていうと、制度デザインとか予算デザインとか法律デザインとか、そういうことになるんじゃないかと思います。もちろん予算や法律、条例は重要なのですけれど、国民や住民がどういったメリットを得るのか、それと申し込んでその制度の適用をを受けることができて、という部分ですね。言うまでもなく国や自治体は申請主義なので、もちろんお知らせするとかいうプロアクティブな活動もあるのですが、パブリックサーバントという、もともと行政にはそういう機能があるんですが、どうしても法律や予算に偏ってしまう傾向があります。それを利用者目線に戻す、申請主義からサービスに軸足を移していくことが重要なのではないかなと思います。

太田垣 そこのところは職員の方々も悩まれているところかもしれませんね。齋藤さんいかがでしょうか。

齋 藤 サービスデザインでは、横の広さと縦の深さを考えるようにしています。市民の方が窓口に来て何か申請するというとき、そこに至るまでに困ったことがあって、情報を探して、やっとたどり着いたということがあって、申請したあとも返事がないとか、いつになったら回答が来るのかというようなことがあるですが、そういう時間の軸というのは担当している窓口の方には思いつかない。深さで言うと、裏で動いているシステムってどうなってるの? とか、デリバリーの仕組みとか。それも含めてサービスだと考えています。

太田垣 そのあたりのことは、あとでもっと深くいきたいと思います(笑)。小山田さん、いかがでしょうか。

小山田 はい。サービスデザインの背景には、マーケティングのロジックがあって、意外とそれは複雑なんですね。そこで、シンプルに考える必要があると思っていて、職員の方は市民のために役に立ちたい、役に立つ制度、システムを作りたいという気持ちはすごくあるんですね。その能力やリソースとかを誰かの役に立たせること、それきちんと作ること、それがサービスデザインだと思います。なので具体的なインタラクティブなデジタルシステムを作るとか、そういうことではなくて、そういう仕組み自体を作ること、市民目線で作っていくことがサービスデザインなのかなぁと。

ファシリテーターの役目もある

太田垣 今日はGovtechということなので、皆さんどうしてもシステムとかWeb とかを考えてしまうかもしれませんが、サービスというのはもっと広い意味でとらえるべきだというのがお3方の考えのようです。公共サービス基本法で規定されている「行政が提供するサービスまたはその仕組み」と定義されているのですが、民間であろと行政であるとに関わりなく「サービス」と言った時、提供されるもの全て、という話になっていくんだろうと思います。

安 井 ここでいう「デザイン」というのはいわゆるデザイン、ビジュアルデザインではなくて、私どもはコンテンツ、行政サービスの場合は行政サービスの説明、分類の仕方というふうに考えています。最近ですと、申請書の書き方、手続きの流れなども関係してきます。役所の方は法律をきちっと作ってルール通りに、ということがありますから、それはもちろん大事なのですが、私たちは分類の仕方とか説明とかをサービスを受ける方と一緒に考えて、トライ&エラーでやってます。

太田垣 いま重要なワードが出たように思います。私の中でいい感じに引っかかったのは、情報伝達におけるデザイン、ということです。単純なビジュアル化でもコンテンツの構造化でもなく、情報伝達にもデザインが必要だということです。 斉藤さん海外ではどうなのか、ご紹介いただけるとありがたいんですが。

齋 藤 海外でも実は日本とそんなに変わらなくて、デザインっていうのは最終的な形を作るというだけではなくて……。

 私は「サービスデザイナー」を名乗っていますが、そんなに絵も上手くないですし、何がデザインなんだろうって考えたら、ファシリテーション的な役割していることが多い、と思っていて、関係する人に同じ場所に集まってもらって、同じテーブルを囲んで議論をしたり、というファシリテーターとしての役割を担っていることが多いように思います。実際に顔を合わせると、その人が何に悩んでいて、なぜそれが課題になっているのか、そういう深いところを理解できます。プロトタイプを作って、デリバリーの形まで作っていくプロセスを全部設計する。それがデザインなのかなと思います。

太田垣 このあと「サービスデザインとは何か」という話を続けたいと思っているので、ぜひそこでも詳しくご説明ください。では、小山田さん。

小山田 そうですね。デザインはちょっとあの、まあ私見なんですが、デザインっていうのは特定の業務を示しているものではなくて、「態度」だと思っています。問題がどこにあるのかを探して、それを解決するための方法を考える。そして実際に解決するという営みです。コミュニケーションをデザインするときに、用語の使い方とか、漢字がいいか平仮名がいいか、それだけでも印象が変わります。イラストがいいのか写真がいいのか、ボタンがどこにあればいいのか、問題の特定と解決を前提に設計されなければいけない。

太田垣 「ユーザーとは」「サービスとは」という定義を中心にお話ししてきたわけですけれど、これからはじゃあ「ユーザー中心のサービスデザインとは」に話を進めていこうと思います。ちょっと質問を用意してきました。最初に「サービスデザインがパブリックセクターで重要な理由」です。安井さん、いかがでしょう。

安 井 先ほど斎藤さんからファシリテーターっていうお話が出ましたけれど、まさにおっしゃる通りで、それと小山田さんがおっしゃった「態度」という話、役所だけで終わる話ではなくて、住民の方も関係してくるし、企業の方も関係してくる。県もあれば国もある。そういったことをファシリテーションすることがすごく大事だと思います。いろんな社会課題が解決できない。だからこそサービスデザインがパブリックセクターに重要なんだと思います。

 社会課題に取り組むと、どうしても行政とかかわらざるを得ない。今の少子高齢化に関しても、ひとり親についても、貧困家庭対策とか本当に地域でお困りの方に対して、パブリックセクターが社会課題の解決してゆく。そこが滞っちゃうと、住めなくなっちゃう。人口が減っていく中で、「ウチは住みやすいですよ」とアピールする必要がありますし、一方、職員の方も減っていくので、業務の効率化っていうのは避けて通れない。その中で行政サービスをしっかりやっていくには、サービスデザインが重要になってくると思います。

齋 藤 公共のサービスっていうのはものすごく多岐にわたっています。地域によってニーズも違います。複雑な仕組み、複雑な要件を前提にサービスを提供してくわけで、実はそういう中でこそサービスデザインが生きてくる。

太田垣 民間との違いって何があるんですかね。

齋 藤 そうですね、まず対象が広い。あとは予算の出方ですね。これまでサービスデザインのために予算を割くということが、民間と比べてあまりなかったので。

太田垣 ありがとうございます。小山田さんいかがでしょうか。

小山田 そうですね。公共サービスに国民、住民の生活がすべて乗っかっているという点に着目しています。全体的な設計をすることが大切だという話です。いろんなアプローチの方法があるんですが、障壁も多くてうまく進まない。それをどういう風に乗り越えていくのかを考えなければいけない。

太田垣 先ほど斉藤さんから出た予算という問題ですね。行政に限らないけれど、デザインの予算のウエイトが民間でも把握されていません。定量的な数字をお持ちでしたら、どなたか…・。

小山田 わたしは単純に、全部だと思います。ニーズ調査から制度設計、法律・条文、実施するための仕組みといったものをぐるぐる回していかないとサービスはよくならない。ですからそのすべてがデザイン。どうでしょう、ちょっと教科書的なんだけれど(笑)。

サービスデザインの3つのフェーズ

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小山田 デザイナーのウエイトはといったら、プロジェクトの大きさにもよりますが、数人の専門家がプロジェクトチームにいればいい。デザインのアプローチは担保できるんじゃないかと思います。それでお答えになっているでしょうか。

太田垣 いまのお話に関連して、民間から出向というかたちでデザイナーが入っていっても、1人ではできることが限られてしまう。やはり数人がチームを組んで参加したほうがいいんじゃないか、と思うんですが。

小山田 そうですね。それだけじゃなく、文脈がどうなっているか、それがすごく大事だと思っています。トップダウンなのか、ボトムアップなのかにもよりますけど、デザインを活用できる環境かどうか。どうやって環境を作っていくかということを考えなければならない。どういう文脈なら環境整備に入っていけるかを考えないといけないと思っています。

太田垣 ありがとうございます。次のテーマ……というか、いまお話にあったデザイナーの立ち位置にもからんでくることなので、2番目のテーマに移りたいと思います。打ち合わせのとき白熱したんですが(笑)、行政におけるサービスデザイナーの関与の仕方、デザインという業務、デザイナーの役割、これは民間でも行政でもそんなに変わらないところがあるのかと思うんですけれど、サービスデザイナーっていうものがどういう役割として期待されているのか。先ほどのお話ですとサービスデザイナーだけの話じゃないよ、ということでした。そういったことも踏まえて……、どうしましょう、山田さんから行きましょうか。

小山田 そうですね。僕は3つのフェーズがあると思ってまして、いきなり実践者を育てるのはなかなかハードルが高いので、専門家と一緒に協業するような形で、小さいプロジェクトの中で一緒にやる環境を作って行くところが最初かな、と思っています。その次にそこで実践したものを自分でやってみる。組織内での実践ていうフェーズがあって、その後に組織内に浸透させて行くというフェーズがある、と思っています。その時々でまた外部のエージェンシーと協業するとか、デザイナーを採用するとか、いろんなやり方があると思うんですけれども、組織のあり方とか目的とか実現可能な手段を選択しながらできるといい、というふうに考えています。

太田垣 数年前なんですけど、コンセントさんの別の担当の方と、そこそこ大きな大学のWeb のシステムを作るお仕事でご一緒したことがありました。メニューを構造化するに当たって、大学のいろんな部門を統合してまとめていきましょう、というになったんですけど、最後の姿が見えないものですから、私たちは「これ大事」と思って進めているんですけれど、時間と予算の配分に苦労しました。そのあたり海外どんなふうなのか、斎藤さんどうですか。

齋 藤 違いはないと思います。日本でも海外でも、上の人が「デザイン思考っていうのが流行っていいるからウチでもやれ」と。最近、特許庁が「『デザイン経営』宣言」(「産業競争力とデザインを考える研究会」)なんかを出したりとか。そういうとき、私たちが今まで上手く行ってきたケースを思い出してみると、担当の方を現場に引っ張り出してます。

島型、内部型、外部型のパターン

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齋 藤 氏

齋 藤 特に行政の方って、アンケートの資料で何パーセントの人が……というような情報をいっぱい持っているんですけど、そういう情報って匿名で、顔が見えないんですよね。なので本当に顔が見える人、その人が置かれている状況に一緒に足を運んで、その人が何でこういうことに困っていて、どうしてほしいですかって、状況を正しく理解して共感する。現場に行政の方を連れて行くと、「ああ、こうなってたんだ」「本当に変える必要があるよね」という感じになって、初めてモチベーションを持っていただける。そういうモチベーションの種を作る。そういうことを心がけています。

太田垣 外部からかかわるやり方って、日本独特のやり方なんでしょうか。中にサービスラボを作るとか。ちょうど資料を作ってきてくださったので……。

齋 藤 海外の政府におけるサービスデザイン海外の事例を取り上げて頂いたのでちょっとデザイン IT は15カ国に事業所があるので「どんな感じですか」と尋ねたら、そしたら色々な事例をもらうができました。それを見てみると海外の政府って3つぐらい、パターンがあるようです。一番うまくいっているのは「出島型」だと思っていて、デザイナーとかアナリストとかエンジニアとかが、出島なので、既存の慣例に沿わなくていいわけです。裁量が与えられている。

太田垣 日本ではその出島型っていうのを取り入れているケースはあるんでしょうか?

齋藤 あまり聞かないですね。最終形としては中に入って普通の職員と一緒に、例えば輸出のプロセスとかを可視化する。そうすると関係する省庁の人がそれを見て「あ、自分たちの担当はここだけれど、前と後はこうなってるんだ」と参考にできる。そんなことをやったりしています。

太田垣 皆さんから向かって一番右側が、「外部型」。市民とともに提言などを行う NPO、デザインファームが相当するんでしょうか。

齋 藤 これは営利組織としてのデザインファームでして、海外には国が設立に関与している組織もいっぱいあります。プロジェクトをやるばっかりではなくって、例えば公共のサービスデザインを支援をするとか、政府の職員にサービスデザインを教えるカリキュラムを作るとかということがあったりします。

太田垣 予算のファームがあったり、力を借りることができる。そういうのがあるわけですね。

齋 藤 そうです。病院の患者のサービスデザインをやったんですが、実際、診断に3か月かかってたのを3日まで縮めたという事例があります。お金の出所はデンマークのデザインカウンシルというところ。そこにオスロ大学病院が手配をして認められて、デザインイット に話が来ました。

太田垣 今ある仕組みをデジタル化しましょうではなくて、もっと仕組みの部分を見直して行くことも大事ということですね。

齋藤 はい、そうです。

太田垣 安井さんが先ほどスライドで説明されたユニバーサルメニューについて、サイトとか拝見して、ママさん向けと言いますか、そんな感じがしたのですが、これは行政の方が作られているでしょうか。

補佐官として中に入る手もあるよね

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安 井 コラボレーションと言いますか、お母さん方とも作りますし、行政の職員の方とも作るんですね。繋ぐのが私たちの役割で、ユニバーサルメニューは利用者と行政職の方をつなぐために使っていて、利用者目線だけではダメだし、行政サービスの提供者だけでも現場の声を聞けない。それをつなぐっていうことが大事なのかなと思います。

 海外にいくと、サービスデザインっていう言葉はもう当たり前になっているように感じるんですけども。プロの方が大勢いるんですね、日本にも早く、そういう体制になっていけばいいと思いました。

太田垣 先ほどの「サービス設計における12か条」ですが、こういったところにもサービスデザイナーの方が関わっておられるかどうか、安井さん、ご存知でしょうか。

安 井 これは国の方が中心になって作られたんですが、サービスデザイナーの方もアドバイスしましたし、各国の事例を調査されて作られました。サービスデザインが必要、と言うようになったのは、ずいぶん変わったんじゃないかと思います。

太田垣 そうですね。じゃあこれを実際にどう落とし込んでいくか、サービスデザインを行政のサービス設計に組み込んで行くときに、課題が出てくると思うんです。先ほどの出島方、内部型、外部型というパターンの中で、安井さんはどちらかと言うと出島型がいいというお考えでしょうか。

安 井 そこは私自身もまだ明確な答えはないです。行政の方々も体制をどう作るかを、色々と考えてらっしゃると思うんです。サービスデザイナーを役所の中で育てるという考え方もあるし、補佐官制度というのもありますし、外部と付き合うこともあります。いずれも一長一短で、今まさに探っているところじゃないかと思います。

太田垣 イギリスのイノベーションラボ「 GDS」(Government Digital Service)が話題になったのでご存知の方がいらっしゃると思いますが、出島形で注目されているケースです。日本の行政機関の中に、主体となって動く方、手を動かす方がいない、その点はどうでしょう。

齋 藤 サービスデザイナーが中に入ると、外に出しにくい情報に触れることができるというメリットがあります。でも、いろんな関係各所と交渉して最後までやって行くのは中の人にしかできない。外部の人はやはり限界があります。モチベーションを持った人が中にいて、やりきるぞと決めて取り組んでくれる場合はうまくいく。

太田垣 3か月かかるところを3日に短縮するというのは内部の人だけではできないですよね。いまの点、小山田さんいかがでしょうか。

小山田 コンセントはデザインエージェントなので、外部型が多いですね。特許庁さんではデザイン教育の支援をさせていただきました。内部型の体制を構築する支援をするということです。内部型を目指した外部型のかかわり、というようなことですね。マインドラボですと、出島型なんですけれど職員が出向してきて一定期間、一緒にサービスデザイナーと協業して戻る、というようなことで、内部型との連携もあります。どういう距離感でやっていくのがいいのかは、考えていく必要があると思いますね。

まずは小さなプロジェクトでやってみる

太田垣 たしかにそうですよね。ここはこう、と決められないケースが多いですし、日本だからどう、というわけでもない。内容によっても変わってくる。

小山田 そうですね。「ユーザー中心」ということを考えるところでバイアスがかかってくる。内部の人は内部の論理で考えるので、そういうときに外部の人と接触することが重要になってくる。

太田垣 では最後のテーマですが、サービスデザインに今後、特に力を入れていくべき領域ということをお聞きしたいと思います。

小山田 個人としては、全体的に考えていかなきゃいけない話だと思っています。いまは「デジタルガバメントの推進」という文脈の中で、注力しやすくなっているのですが、行政サービスというのはそれだけじゃなくて、土木分野とか防災の分野とか、いろんなものがあるわけです。そういうところをどうやっていくのか、サービスデザインの考え方が浸透した時に、ペルソナ(利用者像)があちこちで作られて、いろんなペルソナが乱立するみたいな、サービスデザインの浸透で無駄なサービスができてしまう、というような懸念もありますよね。サービスデザインの基盤を議論することもたいせつかな、と個人的には思います。

齋 藤 行政の専門家じゃないので難しいんですけど、これから広めていくなら小さなプロジェクト、分かりやすい形で進めていくのがいいと思っていて、デザインのアクティビティを高めていくには、影響度が大きいとか分かりやすいとか、ほんとに深い課題に取り組みながら、プロセスをブログに書いてみたり他の人にプロモーションしてみたりして興味を持ってもらう。ファンだったりサポーターを増やしていくと、徐々に高まっていくんじゃないかな、と思います。分かりやすく、サービスエオ受ける人が本当によかったと思ってもらえるようなものを作ると、それが次のモチベーションにつながっていく。

太田垣 たしかにそうですね。

齋 藤 さきほどの12個条みたいな定義とかメニュアル的なやり方とかを「これ、なんだろう」と考える前に、小さくてもいいからまずやってみる、ということですかね。本で読んでもわからなかったことが、「あ、こういうことなんだ」と肌感覚で理解できる。定義を議論する時間があるなら、まずやってみることが必要だと思います。

太田垣 それ、大事なことですよね。

安 井 小山田さんがおっしゃっている「全体的に見る」こと、齋藤さんがご指摘の「具体的な成功事例」っていいと思います。もう一つ、行政の場合には社会的な課題、例えば子育て、貧困、一人親、高齢社会、地震ですとか水害といった災害対策などがあるわけです。本当に困っている方々に届くサービスにしっかり取り組んでいけば、日本における課題というのは実は世界共通のテーマということもあるので、世界に情報を発信できるんじゃないかと思っています。

太田垣 行政のパブリックセクターとしての役割に、もっとサービスデザインを使っていければいいですよね。サービスデザインって、幅が広くて奥が深いことをご理解いただけたんじゃないかと思います。これをどうやって実務に落としていくか、システム開発ではアジャイル手法がありますけれど、どんな局面でもユーザーの声がたいせつで、ですがユーザーの声はなかなか分からない。だからこそ発注者側も受注者側も、サービスを受ける側の方も一緒になって作っていく、プロダクトオーナーの考え方が必要ということだと思います。これからのセッションで、いろんな具体的なお話が出てくると思います。 では、時間になりました。ご静聴、ありがとうございました。(拍手)