自分の庭に機関車を走らせる?
最近、「プライベート・クラウド」という言葉を耳にするようになりました。既存のWebアプリケーションをポータルに集約してワンストップ化するということなのか、ヤフーや楽天のようなコンシューマー向けWebサービスの機能を自社のシステムに取り込むという意味なのか、ちょっとよく分かりません。
クラウドを逆に読む
先日、ある大手の都市銀行の頭取をなさっている方とお話ししましたら、面白いことを仰ってました。
-―クラウドっていうのは、逆から読めばいいんだよ。
と仰るんですね。
クラウドの逆読みですから「ドウラク」(笑)。逆から読むのがいいか悪いかは別として、プライベート・クラウドっていうのは自分の庭にレールを敷いて機関車を走らせるというわけです。遊園地なら分かりますが、当社の立場からすると、こっちの方がドウラクじゃないかなんて思います(笑)。
たしかに大きな空港とか工場なんかだと、専用のシャトルバスが走っていたり地下鉄やモノレールがあったりしますから、そういうのもアリかな? という気がしないでもありません。
ただ、それを全部自分で作って自分で運用するかというと、どうなんでしょう。やっぱり専門のITベンダーが提供するクラウドの基盤を利用した方が、コスト、セキュリティ、メンテナンスなんかを考えると、総合的にはメリットがあるんじゃないでしょうか。
それともし自社で専用のクラウドを構築すると、外部のITリソースを使えないというデメリットが出てきます。例えば当社のシステムには17か国語に対応した多国語翻訳機能があって、グローバル企業にはたいへん好評なんです。イメージは無理ですが、テキストであれば、見積書とか提案書、議事録などを簡単に翻訳することができる。
この機能は実は当社が開発したものではありません。グーグルの機能を使っているんですね。ですから地図を貼り付けたりもできる。もちろん無償で提供されている多のアプリケーションも取り込める。インターネットの世界とは、そういうものなんで、その特徴を活用しないのはどうなんでしょうか。
立ち位置とレイヤが違う
クラウドコンピューティングっていうのは、先ほども申し上げましたが、スケールのメリットを利用してITのROIを最大化することなんですね。スケールという点でマイクロソフト、IBM、アマゾン、グーグルといった企業が名乗りをあげているわけですが、言葉は同じでも、どうも軸足を置くレイヤが違っているようです。つまり、そういった企業がどのような領域でスケールメリットを出せるか、ということになってきます。
で、それをまとめてみますと、図のようになります。第1のレイヤは「仮想化したハード資源」です。コンピュータ、ストレージ、ネットワークをコモディティ化するもので、ミドルウェアやアプリケーション・システムはユーザーが用意する。コンピュータメーカーや通信サービス会社の世界といっていいでしょう。
第2レイヤはOSやミドルウェアをコモディティ化するサービスです。マイクロソフト、オラクル、アマゾンなどがここに入ります。
第3レイヤからは、ユーザーのアプリケーション領域に入ってきます。現在、インターネットで提供されているSaaSの多くは、この領域です。メール、スケジュール、文書管理といった基本的なアプリケーションですね。代表的なのがグーグル。
セールスフォースが目指しているのは第4のレイヤです。「エンタープライス・クラウド」と呼んでいますが、そもそもセールスフォースという会社はCRMからスタートしたんで、企業の顧客管理とか販売管理の部分に強い。そのためにあんまり目立たない(笑)。
関連で経産省が3月末にスタートさせたJ-SaaSというサービスがありますが、担当の方にクラウドの概念をお伝えしたのは実は私なんですね。現在はアプリケーションをインターネットで個別に提供していて、カスタマイズができません。インターネットによるパッケージ・ソフトウェアの利用にとどまっているんですが、これから改良されてクラウドに近づくんじゃないかと考えています。
コミュニティ型のAP開発
で、今も触れたカスタマイズですが、セールスフォースのエンタープライズ・クラウドはカスタマイズができるのが最大の特徴です。しかも簡単にできる。画面やデータベースの構造を、ユーザーがオリジナルに作っていけます。わざわざ作るのが面倒、という方には、アプリケーションのテンプレートをお勧めしています。
どういうことかというと、セールスフォースが世界で契約している約6万社のユーザー企業が、アプリケーションのテンプレートをどんどん登録してくれているんです。当社は全社員が約3,000人しかいませんから、ユーザー個々のアプリケーションにまで手を広げることができない。それをSIerのパートナー企業さんやユーザー企業が肩代わりしてくれている。当社の仕掛けはオープンソース・ソフトウェアではありませんが、コミュニティ型という点では共通しています。
それともう一点、当社は古いバージョンのメンテナンスは一切しません。契約いただいたユーザーは、いつでも最新バージョンに移行していただける。これまでユーザーにとって、バージョンアップのコストが意外なほどダメージが大きいボディブローになっていました。ソフトを開発する側も同じでして、そのために多くの技術者を貼り付けなければならない。そんなことより常に最新のソフトを提供した方がいいという考え方です。
その一環ですが、ユーザーが大手企業であっても、従業員10人の個人企業であっても、当社が提供する機能と料金は基本的に同じです。業種の違いも当社は関心がありません。一度ご契約いただいたら、どのようなアプリケーションに適用しても別料金は発生しません。これが旧来のソフトウェア・パッケージやインターネット・サービスと違うところです。
ただ、そうは言ってもカスタマイズのお手伝いはいたしますし、例えば1社で2万ユーザーというような大口契約の場合には、特別割引を適用しています。ここにおられる企業の場合ですと、皆さん、特別割引を適用することになるんじゃないかと思います。すでにご検討いただいている企業の方もお見えのようですので、よろしくお願いいたします(笑)。
何よりも明確な要求定義
最後になりますが、付け足しで申し上げたいのは、冒頭に紹介したエコポイント申請システムの開発に際して、お役所の方が「ITベンダーがなかなか歩み寄ってくれない」とこぼしておられた。私は思わず、「それは違います」と言ったんですね。
たまたま当社だからできたけれど、どういうシステムを作るのか、何をしたいのかを明確にしないでシステム開発に着手することが間違っているんです。それはメインフレームだろうがSaaSだろうが、クラウドだろうが一緒です。
要求定義が明確になれば、選択肢がいくつも用意されています。大きく分けると自分で作る=Make、パッケージを購入する=Buy、サービスを使う=Useということになりますが、そのいずれもがYESかNOかの選択ではありません。
情報システムのすべてをクラウドで、ということ自体、現時点では無理かもしれません。また、この機能がないから使えない、ではなくて、これだけの機能があるのなら使ってみよう、という具合に、前向きにお考えいただけたらありがたいと思います。「釈迦に説法」になってしまいましたね(笑)。