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シリコンバレー、その驚愕の姿 Silicon Valley Index 2013に見る産業集積地の実相(上)

 いったいシリコンバレーとはどんなところなんだろう。行って見て、少々の調査をしたところで、その姿は容易にはつかめない。しかしここにそのマクロな姿を推し量るのにとても良いドキュメントがある。Silicon Valley Indexといい、毎年発行されている*[1]。このほどその2013年版が公開されたのを機会に一部をピックアップしながら、日本で生まれ育った筆者の視点から、言うなれば「驚きのシリコンバレーの姿」を浮き彫りにしてみたい。

 Silicon Valley Indexは、この地域のNPO、Joint Venture Silicon Valley Networkが発行し、Webサイトで無償公開している。2013年版は本文80ページ、大量のグラフと解説でこの地の今の姿とこれまでの推移を詳述している。PDFの本文の他にハイパー型になっていてグラフ中の細かい数値まで見れるWeb版やat a glanceという俯瞰図などがあり、ビジブルでとても親切な構成である。
 全体は「人People」「経済Economy」「社会Society」「地域Place」「統治Governance」の5分野からなり、これに「特別分析」として「地域統治Regional Governance」に関する特集記事が冒頭に掲載されている。ここではそのうち前段の「人」と「経済」からその実相を拾った。

「人」People

 『シリコンバレーは継続して海外と国内の人材を引きつけているが、一方でその学歴は人種や民族グループによって異なっている』という小見出しが付いている。
 シリコンバレーの人口は経済状況を反映して変動してきた。しかしそれはほとんんど減衰すること無く景気後退期には現状を維持し、景気上昇期には増加するといういわばS字カーブを繋いだような推移を見せてきた。筆者は以前にこのトレンドの中に経済用語でいう「ラチェット効果」を見い出し論文発表したことがある*[2]。つまり好景気の時に人材を引きつけ多くの知的生産物を産み出し、景気後退期にはじっと耐えてそれらを温存し、次の好況期にはそれらをバネに再び成長する、決して後戻りすることのないメカニズムの存在である。
 このインデックスでも1996年から2012年までの人口推移でその一端を示している。

・この地域では毎年2万人前後の自然の人口増がある。これに対して経済状況を反映した多い年で1万人から2万人を越す大きな人口移動の波がある。概ね1996年から2000年が流入、翌年から2006年までが流出、そして2007年から2010年まで比較的増減の少ない時期が続き、ここ2011年、2012年は毎年1万人程度流入した。自然増と流入流出人口を加えると流入増の時期は当然増加、流出時期でも2002年がわずかに人口減となった以外は全体では人口維持となり、ずっとラチェット効果が働いているように見える。

・その人口移動に関して、2000年から2012年までの海外からの移民と国内の移動に分けた内訳が示されている。驚いたことに海外からの移民は毎年ずっと流入し、多い年では3万人弱、毎年だいたい2万人近く流入している。これに対し、国内の移動は2000年から2010年まで大きな流出サイクルを描いた。ピークは2001年で5万人近くが流出し、他の年でも毎年1万人を越す流出を記録している。それが2011年、2012年とわずかな流入に転じた。同時に2011年、2012年は海外からの移民のペースが少し落ちて1万人前後の流入となったが、あわせて全体の人口増加ペースが過去15年で最高を記録した。

・年齢分布では、この地域では25歳〜45歳の人口が30%ともっとも多く、全米の45歳〜64歳が最大(27%)という傾向とは対照的だ。

・民族・人種別の学歴が示されている。「アジア系」「白人系」「アフリカ系アメリカ人」「複合民族とその他」「ヒスパニック」に分類されている。こうした統計分類の提示自体が日本人の感覚からは驚きだが、その内容にはもっと驚く。大学卒業以上の学歴保有は「アジア系」が59%、次いで「白人系」53%、「アフリカ系アメリカ人」23%、「複合民族とその他」が約21%、「ヒスパニック」が14%である。あまりにも歴然たる差だ。年次推移も示されている。「アジア系」と「白人系」の学歴保有が増加傾向なのに、「アフリカ系アメリカ人」は一端上昇したのに下降、「ヒスパニック」は一貫して下降傾向である。

・この地域で授与された理工系の学位の数はずっと増加傾向で、2011年で1995年と比べて32%増の12,000件となっている。

シリコンバレーでは海外生まれの大卒以上のハイスキルな人々が27万人程度働いていて、そのうち約10万人が理工系である。大卒以上のハイスキル人材として雇用されている人の内、海外生まれの人は理工系で64%、他の産業で47%である。同じ分類の全米での数字はそれぞれ26%、17%である。いづれも2007年に比して増加傾向にある(サンタクララ郡とサンマテオ郡)。

 実に驚くべき比率である。全米の数字だけでも高いと感じるが、シリコンバレーのハイテク企業の職場はいったいどんな雰囲気なんだろうと思う。米国は移民の国というが、海外生まれはいわば1代目の移民、再び母国に帰ってしまうかもしれず、移民なんだか一時的な出稼ぎなんだか分からないのではないだろうか。以前シリコンバレーを訪れたとき、鉄道駅で丁度先生に引率された小学生の遠足のような場面に遭遇した。一目してそれは日本で言えばインターナショナル・スクールの光景だった。