人材エコシステム開発部についてIPAのホームページを探索すると、2023年12月1日に第1回から今年3月3日まで、「国内外デジタル化動向を踏まえたデジタルエコシステムのあり方に関する検討会」を計6回を開いたことが公表されています。
「エコシステム」のWikipediaで検索すると「ecosystem(バンド)」が出てきます。ということは、まだまだ広範に認知されていないようです。ただ、大学関係者が2022年ごろから使い始めています。内閣府は昨年から「避難生活支援・防災人材エコシステム」という言い方をしているので、霞ヶ関マイブームなのかもしれません。
人材エコシステムは「卒業」のない学習
マケフリというサイトでは「もともとは自然界における生物と、それを取り巻く環境が相互作用しながら存続する、生産・消費・分解による循環から成り立つ、バランスのとれたモデル全体を表現しています」とあります。
NTTデータグローバルソリューションズは「自然界では、ひとつの種だけで生きていくことはできません。土壌などに存在する微生物、微生物を食べる虫。そして、虫を捕食する動物という食物連鎖が続きます。動物の排泄物から栄養を吸収して育つ植物のように、さまざまな生き物が相互に共存しながら、一定の関係維持する生態系をエコシステムと言います」と説明しています。
それが「人材」とどう結びつくのか、結び付いたらどうなるのか——は、直ちに理解できないところです。
相互依存の生態系を微生物→植物→昆虫→捕虫生物→食肉・食菜生物という食物連鎖で捉えると分からなくなります。ですがその連鎖が連続するのが生態系というものだ、と解釈すると、何が「エコ」なのかが見えてきます。ここでいう「エコ」は省力のエコではなく、環境にいいエコでもありません。終わることのない連鎖の意味です。
これは技術教育とその利活用について意見を交換したときの”気づき”でした。教育・学習というものは高校、大学を卒業して終わるものではない、ということです。
高校、大学を卒業したあと、社会人として習得したスキル(知識・技術・知恵)を教育の場に戻って磨き上げ、再び社会人として生かしていく。あるいは具体的なプロジェクトを通じて学習するPBL(Project Based Learning)をより多く取り入れることです。
「磨き上げる」とは、習得したスキルを知識、技術、知恵に分解して整理すること、整理した知識、技術、知恵を抽象化・体系化して後進者が理解できるようにすること、併せて第三者が評価し成果として認めることを意味しています。それによって個人に帰属する知識、技術、知恵が他者との共有財産になって行くわけです。
「人材エコシステム」とは、「”卒業”のない学習」のことと理解できます。
Skills Future Singapore に学べ
では経産省「スキルベースのデジタル人材報告書」が考える人材エコシステムはどのようなものか、です。
同報告書は13ページを割いて「デジタル人材育成を支えるスキル情報基盤の在り方」を記しています。それは同検討会の委員が海外で調査・見聞した成果の一端です。検討会はそのうちシンガポールの「Skills Future Singapore」(図6、)に大きな刺激を受けたことが窺えます。
このサイトに自分が何者でどのような職歴と業務歴、資格を持っているかなどを登録することからスタートします。その情報をもとに「learning journey」(学習の旅)が始まり、希望する仕事に有効な講座が案内され、Career Finderで仕事を探すことができる仕組みです。
知識は試験で問えてもスキルは採点できない
本連載の第2回目【採用する側もマインドシフトしなきゃ】で「スキル」とは知識、技術、経験値の3つ、と書きました。また、「経験値は業務歴(キャリア)と成功/失敗体験に培われた知恵、コツ、要領、勘所の集合です。さらにいえば目配り・気配り、気力・体力・集中力、興味・趣向、沈着・陽気といった天賦の気質も含まれます」とも書きました。
知識は机上のテストで、技術は実地のテストで採点できますが、知恵やコツ、要領、勘所、さらに目配り・気配り等々となると採点することはできません。試験に馴染まない要素がスキルのかなりの部分を占めています。
以上から今回の報告書は、デジタル人材の知識を試験で問う(新しい試験制度を創設する)ことはあっても、スキルを資格化することを主眼としていないことが分かってきます。
Skills Future Singaporeの日本版を構築することを提唱しているのです。それが報告書にある「スキル情報基盤」というわけです。いかにもお役所らしい名称で、ポータルサイトとかコミュニティサイトのようなものと考えれば分かりが早いでしょう。
デジタルスキルを高めよう、デジタルスキルで高収入を得ようとする人に、そのためには何をどのように学べばいいか、教材や講座の所在情報を提供したり、どの分野のスキル人材がどこで何人必要とされているか、さらに「仲間」づくりを通じて「”卒業”のない学習」——生涯学習をサポートする仕掛けです(図9)。厳しいようですが、自分のスキルは自分で作る、自分の将来は自分で責任を持つ、が基本です。
(IT記者会 佃均)
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