6月29日に経済産業省の「未来対話ルーム」で行われた記者レクでは、「IPA」「2026年度中」という言葉がしばしば語られました。IPAは周知の通り経産省のIT施策実施機関「独立行政法人情報処理推進機構」のこと、「2026年度中」とは「2025年度中に体制を整える」「実装するのは2026年4月以後」であることを意味しています。
ITにかかわる施策の多くはIPAを通じて具体化されています。ことに情報処理技術者試験がIPAの所管なので、デジタル人材についても資格試験の観点から、誰しも「ふ〜ん、やっぱりIPAしかないよね」と思います。実は筆者も予定調和でそのように思っていました。
でも、今回はちょっと様子が違うようです。
向こう1年の取材ネタをゲットしたぞ
デジタルスキル資格試験(のようなもの)の第一弾は2026年度上半期、それはたぶんデータマネジメントないしデータサイエンスプロフェッショナル(データサイエンティスト)だろう、というのがおおかたの読みだろうと思います。
データマネジメント/データサイエンティストについては、大学で学位を取得したものの、社会に出たら活躍できる場が用意されていないという課題を解消しなければなりません。データ・セントリックなビジネス変革をどう起爆させるかは、産業政策を統括する経産省の本旨であるはずです。
関連する話題として触れておきたいのは、筆者の聞き間違いでなければ、データマネジメントについての説明に「データの生成から活用まで」と一言があったことです。今年3月ごろ、デジタルスキル標準ないしDX推進人材の職能区分について質問したときには、「データの生成」は入っていませんでした。
データエンジニアの職能について、報告書は
データの現状評価やデータ整備を実行し、維持・運用ルールに基づく運用やビジネス部門 によるデータ活用のサポートなどを実施。
ビジネス部門のニーズに基づいたデータの探索・収集・抽出・加工・整備とともに、継続的な活用のためのデータの品質維持活動やデータの使い方を示す取扱説明書の整備・更新などの支援を担う。
と記述しています。赤字にした「データの探索・収集・抽出・加工・整備」「継続的な活用のためのデータの品質維持活動」が「データ生成から活用まで」の説明につながっているのかもしれません。
これに対してビジネスアーキテクト、デザイナーはノンITの要素が多く、一朝一夕には片付きません。またソフトウェアエンジニアは既存の情報処理技術者資格と重複、サイバーセキュリティは警察庁や防衛省などとの調整が前提となってきます。まずはデータ周りから、というのが妥当なところではないでしょうか。
ですがその前に、
○IPA情報処理技術者試験担当部署が改組されるか、別の組織が立ち上がるか
○それを統括するのは誰か
——等々が焦点になってきます。報道関係者向け説明会に出席していた記者の少なからずは、密かに「向こう1年の取材ネタをゲットしたぞ」「IPAにも取材しないとな」と思ったはずです。
法改正で情報共有のプラットフォームを構築
このとき存外に見落とし勝ちなのは、今年4月に成立した「情報処理の促進に関する法律及び特別会計に関する法律の一部を改正する法律」です。どこをどう直したのか追加したのか、条項の変更が煩雑でちょっと分かりにくいのですが、法改正の主旨説明が載っています。
曰く
1.指定高速情報処理用半導体の生産を安定的に行うために必要な取組について、その実施に必要な資金の出資や施設・設備の現物出資、必要な資金の借入れに関する債務の保証等の支援措置を講じます。また、これらの支援措置の対象となる者は、公募により選定し、これらの支援措置に関する業務は、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が行います。
2.IPAの業務に、情報処理サービス業を営む会社が大量の情報につき高速度での処理を行うことができる性能を有する設備の導入を行うために必要な資金に関する債務を保証することを追加します。
3.機構の業務に、情報処理に関する業務を行うために必要な専門の知識及び技能を有する者を養成し、及びその資質の向上を図ることを追加します。
4.政府は、令和7年度から令和12年度まで、先端的な半導体の安定的な生産の確保等の施策に関する措置に必要な財源について、エネルギー対策特別会計の負担において、公債を発行することができるものとし、その償還等に必要な財源に充てるため、財政投融資特別会計の投資勘定から、エネルギー対策特別会計において今般創設する勘定へ繰り入れることができるものとします。
の4項目です。
第1項、第2項および第4項は生成AI用半導体とデータセンターへの支援措置と推測できます。デジタル人材にかかわるのは第3項ですが、これまでも情報処理技術者資格試験を実施しているじゃないか、と当惑するほかありません。「資格試験を実施する」から「専門の知識及び技能を有する者を養成」「その資質の向上を図る」に変えた、ということかなぁ? と思うものの、新旧条文の比較してもよく分かりません。
そこで「スキルベースの人材育成報告書」から引用すると、
IPAデジタル人材センターは、スキル情報基盤を中核として、デジタル人材を取り巻く内外の変化を常に把握し、ニーズの変化や多様化に対応し、様々な主体とともにデジタル人材エコシステムの実現に向けて貢献する「プラットフォーマー」及び「サービサー」として、その役割を果たしていく。
の説明と、添付されている図(図5)が目を惹きます。
これまで企画部の中に置かれていた特命プロジェクト「デジタル人材育成・DX推進PF」を「人材エコシステム開発部」に発展的改組するということと理解していいでしょう。人材育成のためのPF:プラットフォームを構築する、というのです。
(IT記者会 佃均)
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