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スキルベースのデジタル人材育成策(3) 5分野15職種(職能)も必要なの?

 TOPに掲載した表1は2023年8月に公表された「生成 AI 時代の DX 推進に必要な人材・スキルの考え方」に付されたものです。ビジネスアーキテクト、デザイナー、データサイエンティストの3分野は「ビジネス領域」、ソフトウェアエンジニア、サイバーセキュリティの2分野は「エンジニアリング領域」と整理されています。

 また表2は画面表示の制約から小さくて恐縮ですが、2024年7月の「デジタルスキル標準」改訂版に付された全体像です。DX推進スキル標準(表1)と共通スキルリスト全体像(表2)がおおむね同期しているのは検討会のメンバーが同じだからですが、表2の最後に「パーソネルスキル」が追加されているのが分かります。

表1 DX推進スキル標準の人材像

 ※SRE:Site Reliability Engineering:サイト信頼性エンジニアリング

 

表2 共通スキルリストの全体像

素人とプロの境界が薄く低くなって行く

 改訂版でパーソネルスキルが追加されたのは「全てのビジネスパーソンがDXに関わること、そのため、デジタル人材育成の考え方を、事業会社におけるビジネス人材や個々人のデジタルリテラシーの領域まで広げて考える必要」という考え方に基づいています。ビジネスマンの常識の1つとしてITを位置付けるITリテラシーと同じように、これからは「デジタルリテラシー」というわけです。

 内閣官房のDEGIDEN(デジタル田園都市国家構想)における「デジタル推進人材」を表2のパーソネルスキルに集約したようにも見えます。しかし個々のスキルに付されたa、b、c、d、zのうち、cとdが付された項目のすべてに専門的なエンジニアとしての知識や技術が求められるとは限りません。

 推測するに、検討会はDEGIDENの「デジタル推進人材」を表2のパーソネルスキルに位置付けつつ、パーソネルスキルにスキルリストc/dを加えたものを「デジタルリテラシー」としているのではないかと思います。となるとスキルリストa/b(それにc/dの一部を加えたもの)が、検討会が想定している「DX推進スキル」の本幹と理解できます。

 ノーコードツールが登場し、オフィス業務のちょっとしたアプリケーションなら専門のITエンジニアがいなくてもTVコマーシャルのように「ちょっとっと作れちゃう」のも夢ではありません。ロジック(プロンプト)が正しければ、AIがプログラムを生成してくれるので、近い将来、プログラマが要らなくなるともいわれます。自動車のオートマチック化で運転が大衆化したように、プログラミングにおけるプロと素人の境界が薄く低くなって行きます。

 そうなるとどこまでが素人の範囲なのか、ビジネスマンが常識として備えるべきなのはどういうことかがぼやけてきます。プロとの境目が分からなくなるというだけでなく、素人ないし一般のビジネスマンがデータ分析の能力を発揮するようになるかもしれません。データ分析の実務は専門のエンジニアが行うとして、どこに着目するか、どのデータを組み合わせればいいか等々、実務を熟知していればこそ、ということもあるに違いありません。

 それにしても内閣官房は「デジタル推進人材」、経産省は「DX推進スキル」「DX推進に必要なデジタルスキル」、「ITリテラシー」「デジタルリテラシー」等々、同じような呼称が交錯しています。このあたり、どこか(例えばデジタル庁)が整理してくれるといいのですが。

細分化したスキルを資格にするのは非現実

 もう一つ「それにしても」なのは、職能(職種)がずいぶんあるんだな、と思えることです。表1では5分野で15種、表2では6分野で49種(パーソネルスキルを除いても43種)もあります。

 ——ITパスポート/情報処理資格の「次」の資格試験制度につなげたい意向。

 という記事から

 ——経産省はぜんぶを資格にして試験制度にしたいのか?

 と思う向きがいても不思議はありません。

 ——またしてもIPAが小銭稼ぎか。

 と揶揄する声も聞こえてきます。

 「小銭稼ぎ」と揶揄されるのは、現行の情報処理技術者資格試験(図4)が「ないよりマシな国家資格」と受け止められていることを示しています。マイクロソフト、オラクル、グーグル、AWSといった米ビッグテック系民間資格は実務のマネタイズに有効だが、情報処理技術者資格は役に立たないという受け止めが広がっています。 

図4 現行の情報処理技術者試験区分IPA

 というのは、情報処理技術者資格には更新がないためです。試験の内容は見直しが重ねられていますが、10年前の資格も今年の資格も外見的には同一です。メインフレームが中心だった1990年代前半まで、技術革新はおおむね5年おきでした。

 その結果、情報処理技術者資格はレガシー系の固定的な知識・技術を担保するものになって、インターネット/クラウド/AI時代に不適合なのが実情です。強いていえば、エンジニアを雇用する企業にとって、公的な事業認定や公共機関の競争入札の要件として有用ということかもしれません。

 そのような意味からも、デジタルスキル区分をそのまま資格試験に、というのは現実的ではありません。ここに示されているのは、報告書のベースとなったSociety5.0時代のデジタル人材育成に関する検討会(座長:三谷慶一郎NTTデータ経営研究所主席研究員エグゼクティブコンサルタント)、デジタル人材のスキル・学習の在り方ワーキンググループ(主査:角田仁デジタル人材育成学会会長)の検討結果に他なりません。

 検討会やワーキンググループは2024年10月から2025年3月の時点で想定できるデジタルスキルを整理してリストアップした。それが表4の49種と理解できます。では新設されるデジタルスキル資格はどのような括りになるのか、陳腐化させない手法はどうあるべきなのか——4回目以後で考えてみたいと思います。

 

(IT記者会 佃均)

 

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