経済記者シニアの会 2025年5月19日付「会見感想文」として書いた記事です。
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【アウトライン】
● 増収増益を支えるストック型SI案件
2025年5月13日、午後1時からインターネットイニシアティブ(谷脇康彦社長、略称:IIJ、東証プライム市場)が2024年度決算を発表しました。それによると、売上高は3,168億31百万円、本業の利益を示す営業利益は301億4百万円(営業利益率9.50%)、経常利益は同0.9%増の291億84百万円(経常利益率、当期利益は同0.6%増の201億4百万円(純利益率6.34%)と増収増益でした。
売上高の前年度比14.8%増に対して、営業利益はその4分の1の3.7%増にとどまっています。インターネット/クラウドサービスに欠かせない仮想化技術「VMWare」(ヴイエムウェア)ライセンス料の値上げ、昇給に伴う人件費・外注費(原価)の増加などが営業利益を押し下げました。
しかし長期安定収入に結びつく10億円超のストック型サービスインテグレーション(SI)案件の受注増、デジタル化と労働力不足に伴うITフルアウトソーシング・ニーズの強まりなど追い風が続いています。「中長期ビジョンを踏まえ売上高5,000億円を目指します」が、4月1日付で社長に就任した谷脇氏のメディア向け公式第一声となりました。
● まず情報漏洩の経緯を説明し謝罪
会見はまず谷脇氏が、今年4月10日に発覚した顧客メールアドレス漏洩事案について説明、謝罪することから始まりました。4月15日にプレスリリース第一報、18日に要因となったサードパーティ・ソフトウェアの脆弱性情報を開示、22日にプレスリリース第二報(調査結果と情報漏洩件数)と、迅速で的確な対応が光ります。
とはいえ、同社はUNIX/WIDEプロジェクトを源流とする技術指向の企業風土で知られています。1992年12月の「インターネットイニシアティブ企画」以来、インターネット市場をリードしてきた独立系ISP(Internet Service Provider)最大手、顧客数は約1万6,000社。そのIIJですら不正アクセスを検知できなかったというのは大きな驚きでした。
谷脇氏の説明は簡潔ながら端的で、まずは無難な門出と言っていいでしょう。また、質疑応答ではこの件に関連する質問が相次ぎましたが、事案発覚後の対応が迅速かつ的確だったこと、システム内包ソフトウェアの脆弱性が原因だったこと、不正アクセスが異常検知機能をすり抜ける巧みな振舞いだったこと等から、IIJの不備を責める声は少なかったようでした。
● 2代続く元官僚社長、評価はこれから
同氏は総務省官僚(総務審議官)時代、NTT/東北新社による高額接待問題で退官し、その翌年(2022年)、IIJの顧問を経て副社長に就任しています。清濁合わせ呑みつつ本筋を追求する胆力が評価されたのかもしれません。先代社長の勝栄二郎氏は財務省事務次官からの転職ですので、IIJは2代続けて霞ヶ関の元官僚を社長に迎えたわけです。
インターネット/クラウドにかかる回線割当てや規制緩和への備えという見方の一方、創業会長・鈴木幸一氏独特のバランス感覚と言えないこともありません。いつものように会見を鈴木氏が締め括ったのは、大御所体制が岩盤であることを端的に物語っています。
だからと言って、閉鎖的な空気を感じないのがこの会社の特徴です。就業者の離職率4%未満は業界平均の半分以下ですし、SI事業における外注要員数1,600人未満は多重下請け構造から離脱していることを示しています。「オープン」な大御所体制と言うことができるでしょう。
創業から32年、技術指向の企業風土ゆえに経営に適した人材がいないのか、ステークホルダーから「プロパー社長を」の声が出ていないのか、それとも技術、営業、管理、経営の機能別プロ集団というコンセプトなのか、それはそれで興味あるところです。ともあれ谷脇氏がどのような求心力を発揮するか、これからが本番です。
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