政府は約1700に上る地方自治体の情報システムについて仕様を統一する。2025年度までの実現を義務付ける新法を定め、予算を基金で積む。「地方自治」で各自治体が独自に構築した結果、連携ができずに非効率を招いている。新型コロナウイルス禍で行政対応の問題が露呈した。とはいえ官民が築いた既得権の壁は高く、看板倒れになる懸念もある。
対象となるのは住民情報や税、社会保障、就学などの情報管理や手続きなどを担う住民サービスの根幹業務だ。住民基本台帳や選挙人名簿管理、固定資産税、国民年金、介護保険、児童手当など17分野のシステムを国が主導して標準化する。
これまでは地方自治法の解釈に基づき自治体ごとにIT(情報技術)ベンダーに発注してきた。企業は個別に異なる設計をした方が収益が上がり、自治体はそれぞれの事務に合わせた機能を求める。利害が一致して独自仕様が乱立してきた。
総務省の18年の調査では人口10万人以上の自治体の83%が業務ソフトを独自開発しているかカスタマイズしている。NECや富士通、日立製作所、NTTデータなどの大手ベンダーやその子会社が主に受注してきた。
同調査では約1700の自治体が情報システムにかける年間予算は4800億円。もし同じ仕様で全国の自治体が発注すれば調達費や運用費は大きく下がる。大手システム会社の幹部は「仕様の統一やクラウド化を進めれば、大幅に予算は減るだろう」と話す。
共通の仕様なら国と地方、自治体間の連携も進む。データの処理を自動化したり、全国一斉に迅速な行政サービスをしたりできるようになる。
今春の新型コロナ禍では1人あたり10万円の給付金の支給が遅く、自治体ごとに差もあった。企業向けの政策でも、従業員が住む自治体によって税や社会保障などの申請項目が変わる例があり、煩雑さが問題になった。
政府は来年の通常国会で仕様の統一を都道府県や市町村に義務付ける新法を提出し、早期成立を目指す。目標年次は25年度だ。12月中に決める20年度第3次補正予算案では、そのための必要経費として1000億~2000億円の「デジタル基金」を計上する。複数年かけて自治体が投資するために使う資金だ。
新法も基金も設計を進めているのは自治体と長く関係を培ってきた総務省だ。「行政デジタル化」を掲げるデジタル庁の発足は早くても来年9月とされ、自治体システムの制度設計に十分に関与できない可能性がある。
現在あるデジタル庁準備室は、抜本的な仕様の統一と大幅なコストダウンを求める。全国規模のクラウドへの移行を主張する。総務省は早期のクラウド化は難しいとみて、仕様に沿って各自治体が個別にベンダーに発注する仕組みを検討中だ。
「仕様の統一」をしても範囲が狭ければ結局、独自仕様が増え調達コストが上がる。自治体やベンダーとの関係を重視した設計なら非効率が残り、住民サービスの改善も不十分になる恐れがある。