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受託系ソフト/サービス業 1人当り単価 05年から3割低下

アベノミクス」に浮かれている場合か

 

 12月期決算企業の2015年通期業績発表ラッシュ前の間隙を縫って、ICT関連株式公開企業の2005年~2015年業績をまとめた。うち受託系ソフト/サービス業について2005年比を見ると、1社当りの事業規模は△3.1%と微増だが、1人当り受注額は7割に減少。就業者は増えても売上げは伸びず、エンジニアの待遇は一向に改善しない。低空飛行どころか沈没の危機的状況に目をつむって、アベノミクスだIoTだと浮かれている場合ではない。   (文中△はプラス、▲はマイナス) 

■ あくまでも「目安」だが ■

 受託型ソフト/サービス業の株式公開企業の数は2005年が207社、06年が227社、07年が230社と年次によって異なる。最も少なかったのは2012年の199社、最も多かったのは08年の232社だった。
 通期/半期業績の前年同期比を求めるとき、全体の集計値を用いることがある。例えば経済産業省の特定サービス産業動態統計調査がそうだが、直近1年間を見ると、集計対象の企業数は2529社から2615社の間でバラついている。単純集計で前年同月比を算出しても正確な増減率は出てこない。実際、同調査による昨年11月の情報サービス業の売上高は「前年同月比2.0%増」と発表されている。しかし1社当りに直すと4.2%増に補正され、他企業からの派遣受入就業者を加算して就業者1人当りを算出すると1.0%となる。計算方法で2.0%が4.2%にも1.0%にもなり、そのいずれもが間違いではない。
 全体の集計値が示すことができるのは「産業規模」だが、2500社前後の特サビ動態統計にそれを求めるのは無理というものだ(まして199~232社の本調査から全体像を描くのは不可能)。意味があるのは1社当りと就業者1人当りで、1社当りは集計企業における1社当り事業規模、就業者1人当りは受注額(受託型ソフト/サービス業では就業者1人当りの人月単価)を示すことになる。かつ、本調査は株式公開企業に限っての統計であって、あくまでも「目安」ないし「傾向」を示すに過ぎない。

■ 「人月の神話」は完全に崩壊 ■

 前振りはこのあたりにして、とりあえず集計結果を紹介する。
 受託系ソフト/サービス業の2005年の規模は、207社で就業員数は30万4,726人、売上高は7兆821億04百万円だった。2015年の規模は220社で就業員数は2005年比△50.4%の46万2,275人、売上高は対2005年比△9.6%の7兆5,391億26百万円だった。
 これを1社当りに換算すると、2005年の就業者数は1,472人(うち非正規雇用者は201.1人:13.7%)、売上高は342億13百万円となる。2015年は、就業者数が2,177人(うち非正規雇用者は567.7人:26.1%)、売上高は352億69百万円だった。就業者数の対2005年比は△47.9%、売上高は△3.1%だった。就業者数で見れば事業規模は10年間で1.5倍に大きくなったが、売上高ではほぼ横ばい(というか2005年並に回復)ということになる。
 売上高を就業者数で割ったのが就業者1人当り売上高(受託系では受注単価)なので、2005年に対して2015年が大きく下がっていることは容易に想像がつく。1人当り売上高は2005年が2,324.1万円(月額単価193.7万円)、2015年が1,619.9万円(同135.0万円)で、2015年実績の対2005年比は69.7%(▲30.3%)。10年間で7割に減少した。
 就業者1人当り売上高の対2005年比を時系列で見ると、2006年の△0.3%以後、プラスになったことが一度もない。「2008年秋に発生したリーマン・ショックが受託系ソフト/サービス業の転機だった」は何となく納得できそうだが、かねて「実際は2007年から人月単価は下降局面に入っていた」という筆者の指摘が裏付けられたかたちになる。
 また1社当り就業者数の対2005年比は、見事なまでに売上高の2005年比と反比例で上昇している。〈就業者数×人月単価〉で就業者を増やせば売上高、利益が増えるという「人月の神話」(フレデリックブルックスの論ではなく)は崩壊していることが分かる。

■ ネット系の急成長くっきり ■

 ではネット系サービス業、販売系ICT業(ICT製品販売業)はどうだろうか。概要を記すと、ネット系サービス業に分類される株式公開企業は2005年に80社、就業者数は2万5,599人(うち非正規雇用者は5,098人:19.9%%)、売上高は1兆0,138億06百万円だった。2015年は130社、就業者数は8万1,002人(うち非正規雇用者は1万3,847人:17.1%)、売上高は3兆4,833億84百万円となっている。
 これを就業者1人当り売上高に直して比較する。
  2005年 3,960.3万円
  2015年 4,301.0万円(△8.6%)
 10年間で株式公開企業が50社増え、就業者規模は3.16倍、売上高規模は3.44倍となっており、端的に急成長ぶりを示している。
 販売系ICT業(ICT製品販売業)の株式公開企業は、2005年が104社で就業者12万4,723人(うち非正規雇用者は3万3858人:27.1%)、売上高は5兆6,505億84百万円だった。2015年は118社で18万1,525人(うち非正規雇用者は4万5,435人:25.0%)、売上高は6兆8,328億06百万円だった。
 就業者1人当りでの売上高比較は次の通り。
  2005年 4530.5万円
  2015年 3764.1万円(▲16.9%)
 主業務で分類したそれぞれの就業者1人当り売上高2005年比は次のようだった。
1 ネット系サービス業
 1-1 インターネット接続サービス
  2005年 9,534.6万円
  2015年 6,643.2万円(▲30.3%)
 1-2 オンラインゲーム
  2005年 5,963.0万円
  2015年 6,245.7万円(△4.7%)
 1-3 ネット広告
  2005年 4,603.1万円
  2015年 4,349.4万円(▲5.5%)
 1-4 コンテンツ
  2005年 2,742.0万円
  2015年 2,620.1万円(▲4.4%)
 1-5 ネット通販
  2005年 6,271.8万円
  2015年 5,316.4万円(▲15.2%)
 1-6 ポータル
  2005年 3,610.2万円
  2015年 3,750.6万円(△3.9%)
2 販売系ICT業(ICT製品販売業)
 2-1 機器卸売・販売
  2005年 5,661.6万円
  2015年 5,469.2万円(▲3.4%)
 2-2 ゲームソフト
  2005年 4,202.4万円
  2015年 3,317.4万円(▲21.1%)
 2-3 ターンキー
  2005年 5,291.9万円
  2015年 4,157.8万円(▲21.4%)
 2-4 ソフトウェア・ライセンス
  2005年 2,103.6万円
  2015年 2,169.2万円(△3.1%)

 

■ 複合サービスは主導的役割弱める ■

 本論の受託系ソフト/サービス業に戻る。
 受託系をネットサービス型とマンパワー型で整理する。ネットサービス型はASP/サイト運営/マーケティング支援/ホスティングサービス(データセンター)の4業種、マンパワー型はフィールドサービス/特定業務BPO/FMS/複合サービス/ソフトウェア開発/IT人材派遣の6業種に分類した。就業者1人当り売上高のみを表示する。
3 ネットサービス型
 2005年 2,091.2万円
 2015年 1,944.5万円(▲7.0%)
 1-1 ASP
  2005年 2,551.6万円
  2015年 2,073.1万円(▲18.8%)
 1-2 サイト運営サービス
  2005年 2,551.6万円
  2015年 1,342.2万円(▲50.8%)
 1-3 マーケティング支援
  2005年 1,103.2万円
  2015年 1,268.2万円(△14.9%)
 1-4 ホスティングサービス
  2005年 5,232.3万円
  2015年 3,466.3万円(▲33.8%)
4 マンパワー
 2005年 2,328.6万円
 2015年 1,532.0万円(▲34.2%)
 2-1 フィールドサービス
  2005年 1,830.5万円
  2015年 1,010.7万円(▲44.8%)
 2-2 特定業務BPO
  2005年 2,338.5万円
  2015年 1,255.7万円(▲46.3%)
 2-3 FMS
  2005年 1,161.8万円
  2015年 1,504.8万円(△29.5%)
 2-4 複合サービス
  2005年 3,485.3万円
  2015年 2,179.5万円(▲37.5%)
 2-5 ソフトウェア開発
  2005年 1,933.8万円
  2015年 1,382.0万円(▲28.5%)
 2-6 IT人材派遣
  2005年 1,719.4万円
  2015年 1,405.4万円(▲18.3%)
 対2005年比で落ち込みが最も大きいのはサイト運営サービスの▲50.8%だが、影響が大きいのは単独で4兆829億69百万円(2015年)の売上高を持つ複合サービスが▲37.5%となっていること。複合サービス業の多くは元請け的なポジションにあって、一貫して受託系ソフト/サービス業を牽引してきたが、その主導的役割を弱めつつあるようだ。 

訂正とお詫び

野村総合研究所の2015年売上高、入力に桁間違いがありました。前年比を再検証したことで405,984百万円のところ、40,598百万円となっていることを発見したものです。これに伴って「複合サービス」にかかる分析値および、受託系ソフト/サービス業の時系列データとグラフを修正しました(全体の傾向に大きな変更はありません)。お詫びして訂正いたします。 

追加情報(NTTデータを除外した「複合サービス」業)

相次ぐM&Aで就業者が飛躍的に増えたが売上高が追いついていないNTTデータが「複合サービス」業の数値に大きく影響しているのではないか、という指摘がありました。実際、同社は2005年に就業者総数は1万8,720人、売上高は8,541億53百万円でしたが、2015年は就業者総数が8万2,341人と4.29倍に膨張したのに、売上高は1兆5,118億12百万円で1.77倍にしかなっていません。1社で複合サービス業全体売上高の37%を占める企業なので、その動向は少なからず影響します。
そこでNTTデータを除外して「複合サービス」 の数値を再計算してみました。
                 *
年   次    2005年        2015年    対05年増減率
就業者総数   6万7,349人     10万6,987人    +58.9%
 1社当り     2494人       3689人      +47.9%
売上高  2兆1456億24百万円  2兆5711億57百万円  +19.8%
 1社当り  794億68百万円    886億61百万円    +11.6%
 1人当り  3,185.8万円     2,403.2万円     −24.6%
                *
NTTデータを含む業績値と比べ1人当り売上高の対05年比が12.9ポイント圧縮されますが、受注額が05年比25%(4分の1)低減していることが確認されます。