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清瀬三小のサマースクール「プログラミング教室」に行ってみたら「この日」のために開発された数字ゲームに子供たちは目を輝かせた

 2020年度から、小学校でのプログラミング教育が必須化される。文部科学省のサイトには「実践ガイド」が掲載されているものの、不明なことが少なくない。言葉だけが一人歩きし、小学生にプログラミング言語を教える学習塾も登場している。折しも東京都清瀬市清瀬第三小学校(清瀬三小)のサマースクールで「プログラミング教室」が開かれた。講師の高橋正視氏が20年来の知己とあれば、行かない手はないではないか。

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1時間×3回の授業に参加した生徒は100人以上。「パソコンは初めて」という生徒もいた。


生徒たちは素直そのもの。夢中だった数字ゲームの手を止めて高橋氏の話に耳を傾ける

夏休みだからこそできる体験
 清瀬市は東京都の西北部に位置し、東は埼玉県新座市と東京都東久留米市、西は埼玉県所沢市と東京都東村山市に接している。池袋駅から西武線で約30分、市のホームページによると、今年6月1日現在の人口は7万4,756人、市立小学校は9校ある。
 筆者が事前に得ていた情報は、「7月25日の火曜日、午前11時から、会場は清瀬第三小学校」だけだった。玄関正面に「三小サマースクール」と掲示され、そこに「科学教室」「プログラミング教室」「木工教室」とあるのを見て、ざっくりと状況を合点した。
 受付にいた同校の教職員らしい女性に聞くと、
 ――サマースクールは今年で2回目。今回は24日と25日の2日間。昨日は「ペーパークラフト」と「和太鼓」の教室がありました。
 という答えが返ってきた。
 ――生徒たちが夏休みの自由研究のテーマを見つけたり、普段の授業ではできない体験をして欲しいんです。「教室」は清瀬市にお住いだったり、保護者のお知り合いだったり、そういう関係のプロの方々にお願いしています。
 という。
 筆者が知る限り、高橋氏は清瀬市民ではない。ということは、保護者の誰かが高橋氏を学校関係者に紹介したということなのだろう。なるほど、高橋氏は通産省職員として情報処理技術者試験の創設に関わり、その後も一貫してソフトウェアと人材育成に従事してきた。紹介者は高橋氏が、東京工科大学から離れたことを承知していた、ということでもある。
 受付のテーブルに置かれた参加者リストを見ると、3つ、4つの教室にエントリーしている生徒もいる。「プログラミング教室」は低学年(1.2年生)、中学年(3、4年生)、高学年(5、6年生)の計3講座(各1時間)で、それぞれに30人前後の参加が予定されている。
 ――6年生まで全校で約400人。高学年は塾があったりして参加者が減る傾向にあるのですが、それでも全体の4分の1というのは関心が高い証拠です。

「脱ゆとり教育」のヒントになるか
 会場となったのは、校舎2階のパソコン教室。開講まで1時間以上あるのだが、高橋氏だけでなく、サポートの父兄が数人、授業の準備に忙しい。生徒用のデスクトップPCには、高橋氏が「今日のために」開発した数字ゲームと、インターネットのフリーアプリケーション「Math Pub」(高松市の株式会社ダイナックスT:大和田昭邦社長が開発)がセットされている。
 ――学校の教育用機材ですから、勝手に手を加えることができません。校長先生の許可をいただき、数日がかりでセット作業をしました。
 高橋氏を紹介し、「プログラミング教室」の実現に尽力したPTA会長の柿添信作氏が説明する。公立教育機関は、文科省が定める学習指導要領に縛られる。機材の管理・運用もその枠内なので、民間人が勝手なことはできない。それは当然といえば当然なのだが、ことITに関して、その“縛り”が杓子定規に適用されると学習効果が薄れることになるのではなかろうか。
 実はそれはIT/プログラミング教育に限らない。国際社会で活躍できる人材育成を目指す外国語教育や道徳教育、スポーツ・文化振興につながるクラブ活動でも同じだが、文科省は理論的に整合が取れているかもしれないが、「所詮は机上の論」であることが少なくない。
 一方、様々な教科に幅広く対応できるゼネラリスト型の能力が求められてきた小学校の教職員に、IT/プログラミングや外国語についての専門的な技能・知識を要求するのは間尺が合わない。さらにいえば、「教職員はオールマイティではない」(清瀬第三小学校校長・大谷憲司氏)し、教育者・保護者に加えて事務管理者としての責務も課せられている。まして「脱ゆとり教育」で、総授業時間は増える一方だ。
 今回のサマースクールはあくまでも自由参加型の課外授業だ。小学校の教育現場が抱えている課題を解決する一方策になるわけではない。とはいえ、教職員のパワー不足を父兄や地域の専門家で埋めていくというのは、一つの考え方ではあるまいか。とすれば、今回のサマースクールの運営プロセスは、脱ゆとり教育にどのような環境、どのような対応が必要か等のヒントになるかもしれない。


「Math Pub」はダイナックスT(大和田昭邦社長、高松市)が提供している

脳を数式に対応させる準備運動
 「プログラミング教室」は、高橋氏自作の「数字ゲーム」がメイン。
 ――11時からの低学年向け講座、午後1時からの中学年向け講座では、最初の15分、自由に「数字ゲーム」を楽しんでもらうことにしました。
 と高橋氏は説明する。
 ――普段、低学年の児童はパソコン教室に入ることができないんで、今日はみんなドキドキ・ワクワク。1、2年生の7割以上、全体の半分ぐらいがパソコンに触るのが初めてなんですね。だからまず楽しんでもらうことが大事だと考えました。
 というのだが、入室して5分も経たないうちに、生徒たちはパソコンに夢中になっていた。画面に表示される1から10までのカードをクリックして消していく。それが終わると1から20、次が1から40、1から100。全員がマウスの操作も難なくマスターしてしまった。
 ゲームとしては単純だし、画面表示もごくシンプルだが、生徒たちは夢中で遊んでいる。遊びながら、数字を順番にクリックしていかないと消えてくれないことを生徒たちは学んでいく。
 中学年向け講座では、これに足し算、引き算が加えられる。計算結果が1から10、1から20、1から40、1から100になる数式を見つけて消していくゲームだ。数式の数字を暗算しなければならないので、時間がかかるだけでなく、けっこう疲れる。脳を数式に対応させる準備運動というわけだ。
 ――このゲームを3日ぐらいで私が作りました。皆さんも勉強すれば、これを改良したり新しいゲームを作れるようになりますよ。
 という高橋氏に、「ぼくも作ってみたい」「面白そう」の声が上がる。

マイコンが趣味の父兄もいる
 高学年向け講座では、数字ゲームに「Math Pub」が加わった。分数や小数点を含む加減乗除の例題を参照して数学の問題(数式プログラム)を作ることができるフリーアプリで、ここで「$1+$2=$3」という数式や、制約条件「Rd(1,9);$3$2:$3>$2」(1から9までの整数、$3は$2より大きい)、「$3-$2=$1;d」が示される。「+」を「-」に変えれば引き算、「*」にすれば掛け算、「/」なら割り算になる。記号を変えた結果をプレビューで確かめることで、プログラミングの端緒に触ることができる。
 ――コンピュータが誤動作しないよう、数式と制約条件を正しく設定しなければなりません。そのためには計算式を理解する必要があります。 
 記号が意味するものはともかくとして、この説明、分かったかな?
初めてのプログラミングに生徒たちが目を輝かせたのは当然として(高橋氏が用意した数字ゲームの効果だが)、サポート役として付いていた教職員もいい勉強になったのではなかろうか。案ずるより産むが易しなのだ、と。
 それともう一つ、「うちの子がこんなに夢中になるのを見たのは久しぶり」「Math Pubは家でもできるので、ユーザー登録して帰ります(自分も勉強するために)」と口にする保護者もいた。だけでなく、「実は趣味でRaspberry PiやIchigo Jam(ワンボードマイコンプログラミング言語)を使って、Nゲージジオラマを自作しているんですよ」と打ち明ける父兄もいた。「今じゃ息子のほうが詳しいかも」という。
 そうなのだ。
 ――お父さんやお母さんがプログラマーシステムエンジニアで、プログラミングは手馴れたものというお子さんがいるかもしれませんよ。
 高橋氏と話していたことが本当になった。


「思ったより難しくなかった。家でもやってみたい」という感想が少なくなかった。