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ABC協会がシステムトラブル「駆込み寺」をスタート 相談員の研修・認定制度も

 アドバンスト・ビジネス創造協会(ABC協会、会長:本山和夫東京理科大学理事長)がシステムトラブルの「駆込み寺」をスタートさせた。当初予算にない追加費用の要求にどう対応するか、依頼した機能がなかなか実現されないといった「見えないトラブル」に、システムコンサルタントや実務経験のベテランが相談に応じる。これにより同協会には、システム開発の初期段階から終盤期の相談に応じる体制が整ったことになる。

まずは予約して相談から

 ABC協会は大手企業のCIO(情報システム責任者)やプロジェクトマネージャーとして豊富な実務経験を持つベテランや業種・業務とITの横断的知識を持つ専門コンサルタントが集まって、昨年7月に発足した。エンタープライズ系ビジネスアプリケーションを対象に、実践的なシステム要件定義やプロジェクトマネージメントの在り方などを調査研究し、情報提供を行なっている。
 10月11日にスタートする「システム・トラブル相談センター」(STCC:System Trouble Consulting Center)は、システム構築で生じる様ざまなトラブルについて、企業からの相談に乗り、調査した上で解決策を提案する。相談は協会にメール(contact@abc-a.jp)か電話(☎️03-6455-7761)で予約を入れたのち、専門家が1時間1万円で話を聞く。その後、専門家2名が調査を行い、2か月をめどに報告書をまとめる。
 調査は関係者のヒアリング、各種のドキュメント、現場見学などで構成され、第3者の目でトラブルの内容、原因、深刻度合い、考えられる解決方策などを分析する。調査に要する費用について三木徹常務理事は「期間やシステムの規模、地域によるので一概に言えない」としつつ、「上限はシステム発注総額の5%が妥当なところではないか」としている。

ユーザーが常に正しいとは限らない

 「見えないトラブル」にはどのようなものがあるか。STCC相談員で経営コンサルタントの本間峰一氏によると、概ね次のように整理される。
 ●当初予算にない追加費用をベンダーから要求される。
 ●最終的にいくらになるか分からない。
 ●ベンダーの対応が当初の約束と違ってきている。
 ●ベンダーに依頼したことがなかなか実現されない。
 ●進捗状況からみて、納期通りに本番稼働できるとは思えない。
 ●ベンダーの技術者の知識や能力に疑問がある。
 ●テストのトラブルが収束しない。
 ●本番稼働したもののシステムが期待通りの効果を上げていない。
 システム開発作業が進んでいる最中にベンダーを変えるのはほとんど不可能。あるいは法制度の都合で稼働日が決まっている場合、発注先を見直すなどというのは愚かなことかもしれない。そのベンダーから予定外の費用を要求されたらどうすればいいか。実際、昨年の今ごろ、マイナンバー対応のシステム改造に直面していた全国の市町村が、ベンダーから当初予算の2倍から4倍の見積もりを突きつけられて頭を抱えていた。
 ベンダーに依頼したことがなかなか実現しないのは、ユーザーの要求が明確でなかったり、ベンダーとの間で情報が共有されていないといった事情が考えられるが、本間氏は「ここ数年、ベースに採用したパッケージの不適合が増えている」という。そもそもの機能・性能がユーザーの要求にマッチしていないのだ。
 ただ、「システム構築におけるトラブルの原因は、50%は要件定義、50%はプロジェクトマネージメント」(同協会副会長の細川泰秀氏)とも言われている。ベンダー側の多重下請け構造にも要因があるとはいえ、ユーザー側の担当者が定期的に人事異動で替わり、エンタープライズ系ビジネスアプリケーションの再構築にかかる経験値が継承されない問題も見逃せない。

裁判になる手前で解決

 さらにユーザーにとってもベンダーにとっても「評価基準が未定」という共通の課題もある。知識や技能、テストの粒度、「完成」をどのラインに設定するか、システムの効果までベンダーが担保するべきか等々だ。
 このためSTCCは「ユーザー企業ばかりでなく、受注側のITベンダーにも門戸を広げる」という。ユーザーから当初要求にない無理難題が要求される、納期が迫っているのに価額の値引きを求められる、といった「見えないトラブル」は、ベンダーが泣き寝入りするケースが少なくない。「片務性を解消し、ユーザーとベンダーが対等で健全なパートナーの関係を築くことがSTCCの狙いの一つ」というわけだ。
 もう一つ、STCCの大きな狙いは、ユーザーの企業内IT部門または受託側ITベンダーに成り代わって、経営陣に「予算を増額する」「チーム編成を変える」「一度立ち止まる」「プロジェクトを見直す」「本番稼働時期を延ばす」「プロジェクトを停止する」等を提案することだ。プロジェクトの遅れや機能改善などは現場対応で解決する可能性が強い。これに対して予算や人事、事業計画の見直しは経営陣にしか判断できない。
 「感情的にこじれると、解決の糸口が失われてしまう。ユーザー内の担当者はトラブルを経営陣にレポートしにくいし、仮にレポートするにしても経営陣に分かる言葉で説明することができない。そのギャップを埋めて、裁判になる手前で解を見つける」(三木氏)
 

3年後に200人体制目指す

 現在、登録されているコンサルタントは17名で、当面はおの17名が相談員を兼ねる。しかし今後、システム構築の初期段階(計画立案、基本設計、発注先検討など)の相談・指導を行なっている「システム・コンサルティング・センター」(SCC)と連携する可能性もあり、同協会は近い将来のSTCCの姿として、「3年後に認定相談員200人体制」を描いている。
 大企業から中小企業に裾野を広げ、センター長の下にチーフ・コンサルタントコンサルタント、認定相談員を配置する。このため、事前研修や研修会などを通じて相談員を育成、認定制度を設けたい考えだ。
 「相談員200人体制」について三木氏は、「関連団体と協力し、認定基準を共有するなどして相談員認定制度を具体化していきたい」という。そのためには、具体的な相談事例を着実に重ねていくこと、ITコーディネーター(ITC)や中小企業診断士公認会計士、税理士などにどう訴求していくかがポイントになる。