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受託系ITサービス業2015年の業況 依然続く停滞・閉塞感

平均年齢△3.3歳・勤続年数△1.7年・平均年収△6万円をどう見るか

 受託系ソフト/サービス業の2015年業況は、1社当りの売上高や営業利益率が増えているので実態が見えにくい。ところが就業者1人当りにすると企業業績は売上高▲30.3%、営業利益▲8.7%。一方で営業利益率は△1.7p、純利益率は△1.3pだ。さらに 就業者の平均年齢は△3.3歳、勤続年数は△1.7年、年収は△6.16万円。(いずれも2005年比、△はプラス、▲はマイナス)これをどう評価するかだが、いずれにせよ停滞・閉塞感に覆われていることは間違いない。

 
 

■ ネット系は全項目が05年比△ ■

 ICT関連株式公開企業の2015年業況調査から、就業者にかかわる諸元(カッコ内は2005年比)を整理すると、業績の全項目△はネット系サービス業のみ、全項目▲は製品販売系だった。
1.全体 525社(△82社)
就業者総数  301万9,253人(△25.6%)
 正規雇用  267万2,378人(△16.1%)
 非正規雇用  34万6,875人(△239.2%)
平均年齢   40.0歳(△2.4歳)
勤続年数   14.9年(△0.9年)
平均年収   712.2万円(△18.6万円)
2.受託系 118社(△13社)
就業者総数  47万9,007人(△57.2%)
 正規雇用  35万6,316人(△35.4%)
 非正規雇用 12万2,691人(△194.8%)
平均年齢   37.8歳(△3.3歳)
勤続年数   11.3年(△1.7年)
平均年収   609.3万円(△6.2万円)
3.製造系 51社(△6社)
就業者総数  21 受託系ソフト/サービス業の2015年業況は、1社当りの売上高や営業利益率が増えているので実態が見えにくい。ところが就業者1人当りにすると企業業績は売上高▲30.3%、営業利益▲8.7%。一方で営業利益率は△1.7p、純利益率は△1.3pだ。さらに 就業者の平均年齢は△3.3歳、勤続年数は△1.7年、年収は△6.16万円。(いずれも2005年比、△はプラス、▲はマイナス)これをどう評価するかだが、いずれにせよ停滞・閉塞感に覆われていることは間違いない。0万4,953 人(△6.0%)

 正規雇用  199万2,083人(△35.4%)
 非正規雇用 11万2,870人(△1,136.3%)
平均年齢   42.3歳(△2.3歳)
勤続年数   18.7年(△1.0年)
平均年収   781.9万円(△28.8万円)
4.ネット系 130社(△50社)
就業者総数  8万1,002 人(△216.4%)
 正規雇用  6万7,155人(△227.6%)
 非正規雇用 1万3,847人(△171.6%)
平均年齢   33.5歳(△1.4歳)
勤続年数   4.6年(△1.1年)
平均年収   599.8万円(△26.8万円)
5.販売系 118社(△14社)
就業者総数  18万1,525 人(△45.5%)
 正規雇用  13万6,090人(△49.8%)
 非正規雇用 4万5,435人(△34.2%)
平均年齢   38.0歳(△3.3歳)
勤続年数   11.3年(△2.3年)
平均年収   645.4万円(△12.7万円)
6.モバイル通信 6社(▲1社)
就業者総数  17万2,766人(△186.6%)
 正規雇用  12万0,734人(△153.0%)
 非正規雇用 5万2,032人(△314.0%)
平均年齢   40.9歳(△4.4歳)
勤続年数   16.5年(△4.5年)
平均年収   929.8万円(△119.6万円)

■ ネット系は07年にM&Aゲームから転換 ■

 ネット系と受託系を対比して、2005~2015年の業況をグラフ化してみる。1社当り就業者数、就業者1人当り売上高、平均年齢、勤続年数、平均年収の5項目を抽出し、それぞれの2005年比(%)をポインティングした。
 まずはネット系から。
 ネット系で目を引くのは就業者数の伸びだ。1社当り終車数は05年比△94.7%とほぼ倍増した。内訳は正規雇用が△101.6%(約2倍)、非正規雇用が△67.1%で、非正規雇用率は15.4%で05年から▲4.5pだった。
 就業者数、売上高、平均年齢、勤続年数、平均年収を関係を見ると、2005~2007年は就業者数と売上高が同期、平均年齢・勤続年数・平均年収が反比例の関係にあった。要因はライブドア・ショック(2006年)で、ネット系サービス企業の多くが、M&Aゲーム的な見かけの事業拡大から堅実な経営に変化したこと。
 具体的には、若齢就業者を積極的に採用し、正規雇用を増やした(2006年の05年比▲4.4p、07年▲3.6p)。また設備投資・開発投資を行った。結果として、営業利益が2年連続で2けた減(2006年の05年比▲12.8%、2007年▲29.3%)となり、就業者の平均年齢・勤続年数・平均年収は減少した。
 売上高は05年比△8.6%となっている。10年かかって△8.6%ならたいしたことはない、と考えるのは間違っている。これは1社当り売上高であって、全体の集計企業数が05年の80社から130社(△87.5%)に増えていることを忘れてはいけない。
 全体に占めるネット系サービス企業数の構成比は、05年が18.1%だったが、2015年は24.8%に増加した。受託系のネット型サービス業を加えた広義の「クラウド」系企業は、05年の23.9%、15年は33.9%に拡大した。また10年間で就業者数は2.16倍、売上高は2.44倍に増加した。全体の売上高を見ると、初めて1兆円を超えたのは2005年で、2兆円超えまで6年を要した。その後4年で3兆円を超えている。2017年に4兆円超えが見えてきた。
 ネット系サービス業の特徴は、1人当り売上高と利益率が高いこと(いまさらではあるが)。売上高は2005年の3,960.3万円から漸増し、2011年の4,482.4万円をピークに一貫して4千万円台を維持している。また営業利益率は2007年の11.7%が最も低く、2005~2015年の平均は17.0%となっている。受託系ソフト/サービス業の平均営業利益率は6.1%なので、1億円の営業利益を生み出す売上高は、ネット系サービス業は5.88億円、受託系ソフト/サービス業は16.39億円となる。ネット系サービス業は「労少なくして益多し」、受託系は「労多くして益少なし」という端的な対置関係にある。

■ 受託型 年収05年比▲20.2% ■

 受託系ソフト/サービス業でも就業者数の伸びが目立っている。2005~2015年の間に、2010年と2013年の2回だけ就業者数に減少が見られた。受託系ソフト/サービス業は受注案件の契約から完了(納入)までのスパンが長く、採用が実質2年前倒しで行われるために、景気動向と要員の増減・配置計画にズレが発生する。2010年の減員はリーマン・ショックに伴う産業界におけるIT予算の縮減、2013年の減員は2012年秋を底とする短期的な景気後退を受けたもの。就業者数の減少幅は、リーマン・ショックより短期的な景気後退のほうが大きかった。
 2013年の減員についてさらに分析すると、1人当り売上高の減少が背景にある。リーマン・ショック時は、その影響は一時的なものと理解されたので、受託系企業の多くは積極的なリストラに踏み切らなかった。しかしその後も売上高は減少し続けたので、2012年~2013年は余剰要員をリストラした。また2010年から新卒採用を引き締めた(一方で若齢就業者はネット系サービス業に流入した)。平均年齢・勤続年数が増加したのはそのような事情に依っている。
 平均年収は2005年が603.1万円、2015年が609.3万円(05年比△1.0%)とほとんど変わっていない。消費税率の3%アップ(2014年)と平均年齢が△3.3歳(05年比△9.6%)となったことを考慮すると、実質年収は減っていることになる。受託系ソフト/サービス業の平均年齢と全体の平均年齢を勘案した年齢補正年収で計算すると、2015年の05年対比は▲20.2%となる。
 もう一つ留意すべきは、ネット系サービス業が205~2015年に正規雇用比率を2.7p高めたのに対し、受託系ソフト/サービス業は11.9p低減していること。非正規雇用率が高いのはフィールドサービス業(2015年59.1%)、業務特化BPO業(41.6%)、登録人材派遣業(39.8%)、サイト運営サービス業(35.6%)などだった。景気動向に対応して就業者数を適宜コントロールしたいという要望が、非正規雇用者の増加につながっている。
 同じ受託系でもサーバー・ホスティング業は5.1%、ソフトウェア開発業は6.7%、複合サービス業は11.0%と非正規雇用率が低かった。サーバー・ホスティング業は業務特性上、セキュリティやセーフティを担保するため、非正規雇用者や派遣要員を受け入れにくい事情がある。複合サービス業んとソフトウェア開発業は、外部の受託系ソフト/サービス業からの要員派遣、業務委託などで要員とコストの調整を行っているということなのだろう。
 受託系ソフト/サービス業の売上高規模は本調査で7兆7,600億円、経済産業省の調査で17兆円。すぐに消えて無くなるわけではないにしても、就業者の平均年齢が上昇し、年収は上がっていない。営業利益率がアップしたが、受注単価は減り続けている。工学的アプローチで付加価値を高めない限り、停滞感、閉塞感から脱することはできそうにない。