IT記者会Report

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TUTメディア学部がアイデアソン

「越境する広告の未来」テーマに

 インターネット/IoT時代の広告ってどんな形だろう——12月12日午後3時から、東京・西新宿の日本工学院大学で東京工科大学(TUT)メディア学部が主催するアイデアソンが行われた。集まったのは年齢や職業・職歴が全く異なる約50人、ほとんど初対面の人たちが6つのグループに分かれ、「近未来の広告」をテーマに意見を交換した。モノを売るためのコマーシャルばかりでなく、広報、プロモーション、啓蒙、パブリシティ、プロパガンダ……。インスピレーションがどんどん膨らんだが、広告媒体やアイデアソンの課題も見えてきた。

広告のコペルニクス的転回

 アイデアソンはハッカソンと同様、昨年あたりから様々なテーマで行われるようになってきた。設定したテーマについてアイデアを出し合うリアル版のSNSといっていい。ITエンジニアが集まって共同でソフトウェアを作っていくハッカソンのプレイベントとして行われたのが最初という。
 今回のアイデアソンのタイトルは「越境して『広告』の未来を探索しよう」。東京工科大学(TUT)メディア学部教授の進藤美希氏と同大学院バイオ・情報メディア研究科長の上林憲行氏が中心となって企画を立ち上げ、これに青山学院大学大学院国際マネジメント研究科の同窓会(ABSアルムナイ)が協力している。会場は工学院大学の新宿キャンパスというのだから、大学ならではのイベントといっていいかもしれない。
 オープンニングで、上林憲行氏は今回のアイデアソンを企画した背景を次のように説明する。
 ——広告の世界はグーグルの検索連動型広告が登場して、初めてユーザー目線で広告を考えるというコペルニクス的転回があった。アメリカではYouTubeで、月に約9ドル払うと広告を消すサービスが登場している。テレビが全盛だったとき、ネコが見ていても視聴率にカウントされる牧歌的な時代は終わり、広告は新しい時代に入ったといっていい。
 ではそれをアイデアソンのテーマにした理由やねらいは何か。
 ——自分の専門はサービス・サイエンスで、社会的な観点、プロシューマ(生産消費者)の観点などを含めて、色々な分野の専門家が相互に越境して新しい領域を切り開いていくということに焦点を当てている。今回のアイデアソンが、例えば学際とか発展的な融合、さらにデジタル時代を担う人材育成、そういう場になればいいと考えている。
 上林氏に続いて企画立案と運営に参加した関係者がポジショントークを行なった。今回のアイデアソンのねらいがより具体的に理解できるので、紹介しておこう。
 ■体験型広告の開発:太田高志氏(TUTメディア学部准教授)
 ■広告とゲーミフィケーション:岸本好弘(同特任准教授)
 ■最新のデジタルサイネージ:和久淳一氏(ファン・ファクトリー取締役)
 ■お客様との関係を広告する〜Micro Sponsoring Ad〜:池野友太郎氏(青山学院大学大学院国際マネジメント研究科社会人大学院生)
 ■広告人材に求めらる視点:池田優氏(星野リゾートブライダル・広告戦略プランニングマネージャー/青山学院大学大学院国際マネジメント研究科MBA)
 ■アジアのメディア展開と広告:丸山昭治氏(日本経済新聞社・グローバル事業局担当部長/青山学院大学大学院国際マネジメント研究科MBA)
グループ討議をまとめる

 アイデアソンはNTTレゾナントのメディア事業部広告営業部門担当課長で専修大学ネットワーク情報学部非常勤講師の大和田龍夫氏が司会、参加者はAからFの6グループに分かれて進められた。まず、ポジショントークで示された個別テーマに関連して、今後の広告についてどのような感想や見通しを持っているか、各参加者が5分間でA4シートに書き出していく。箇条書きでもいいし、図や絵でも構わない。
 次に対面式で座っている目の前の人とシートを交換し、相互にインタビューする。割り当ては10分間なので、相手の話だけ聞いたり、自分の言いたいことだけ話していると、あっという間に時間がなくなってしまう。相手を変えて同じことをもう一度繰り返したあと、20分間でグループとしてのアイデアをまとめていく。検討課題や留意点、技術的な課題などをポストイットに記録し、大判の模造紙にペタペタと貼っていく。その結果を順番に説明する(中間発表)。
 10分の休憩の後、中間発表を受けて30分でアイデアを深堀りするのだが、中間発表が抽象的、概念的な方向性を示すのに対して、今度は具体的な広告に落とし込んでいく。モノを売るコマーシャルでもいいし、プロモーションやマーケティングでもいい。最初は単なる思いつきであっても、その手段としてどのような仕掛けを用意するか、費用対効果の測定をどのように行うかを詰めるなかで実現可能性を探ることになる。
これまでの広告はうざったい

 AからFまで6グループの最終発表に共通していたのは、「いまの広告はうざったい」だった。主にテレビのコマーシャルを意識してのことだろうが、「こちらの都合も考えず、一方的に流れてくる」「ドラマや中継の流れが切れてしまう」「消費者を小馬鹿にしているんじゃないかと思う広告が少なくない」といった課題(一般的な消費者もしくは視聴者の不満)が示された。
 ではどのような解決策を用意するか。
 グループAが提案したのは「インタラクティブな広告」だった。登場人物の衣服やバッグ、乗り物、料理などにタッチするとサブ画面に情報が表示される。「指1本でタッチしたら情報だけ、2本なら購入案内、3本なら発注というようにできないか」
 ビジネス誌の購読者拡大をテーマにアイデアを整理したのはグループBだった。ビジネスマン向けに「ニュースカフェ」を開設して読者参加型のメディアにしていったり、将来の購読者である学生をターゲットに、大学など教育機関と連携するのはどうだろうか。
 Cグループは「ローカルに徹したコーヒーショップのチェーン展開」を提案した。オカン(中年主婦)を雇用し、店舗を井戸端会議型の地域情報コアに位置付ける。メニューも地域に任せてしまう。プレゼンテーションが上手かったので盛り上がったが、「本部の役割は何?」の質問が厳しかった。
 清涼飲料の売り方に焦点を当てたグループDは、「日常に入り込む広告」を提案した。「いつ、どういうシーンで飲むのか」を分かりやすく伝えたり、日常の景色の中に商品名が溶け込んでいる、というようなことだ。
 グループEは「5人でチームを組んで取り組む」手法に着目した。レッスンを3日坊主にしないようにするには5人が最適な人数なので、ステップアップするごとにポイントを付与するなどして動機付けをする。スポンサーシップのイベントを展開してはどうか。
 グループFは新聞の電子版をどう普及させるかをテーマにした。紙の新聞の購読者、無料記事の購読者を有料版に誘導するには、パーソナライズが必要ではないか。有料記事にクーポンを付けてはどうか、記者に質問ができるようにしてはどうかetc。
 アイデアをまとめ上げる時間が短かったこともあるし、参加者のバックグラウンドも異なるので、裏付けや先行事例との比較ができなかったのは已むを得ない。なるほど面白い3時間ではあったけれど、さてテレビや雑誌、新聞といった20世紀型のメディアがどれほどの価値を持つのだろうか。ここで出てきたアイデアを現実のものにしていくには何が必要なのか、アイデアソンがアイデア出しだけで終わってしまうのか。そのあたりに踏み込む議論がほしかった。