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「つながる世界」の近未来

「つながる世界」の近未来 IoTがテーマの2イベントに行ってみた

 12月に入ってIoT(Internet of Things)にかかわるシンポジウムが立て続けに2つ開かれた。1つは12月4日の「IoTイニシアティブ2015」(主催:IT Forum & Roundtable事務局)、もう1つは12月10日の「IoTサミットinジャパン」(主催:トロンフォーラム)だ。マイクロチップとセンサー、無線インターネット、クラウド、AI(Artificial Intelligence)etcが融合した「ソフトウェアでつながる世界」を論じようというイベントだ。IoTの要点はなにか、IoTの近未来を識者はどのように見ているのか。


当面のゴールは2020年

 12月4日午後6時から行われた「IoTイニシアティブ2015」の懇親会。中締めの挨拶に立った情報処理推進機構IPA)理事・立石譲二氏はこう切り出した。
 「自分が子どものころ、1964年に開かれた東京オリンピックパラリンピックはコンピュータ時代の幕開けを告げた。2020年の東京オリンピックパラリンピックは本格的なIoT時代の到来を象徴するビッグイベントになる」
 1964年の東京オリンピックパラリンピックでは、国立競技場に隣接する日本青年館(現在は両方とも更地になっている)に設置されたIBM1401で、競技記録のオンラインシステムが運用された。「世界初」とされるが、厳密には「オリンピック史上初」が正しい。その2年前、日本国有鉄道がUNIVAC製の計算機で貨物列車編成用のオンラインシステムを東京・大阪間で動かしている。
 ただ、1964年の東京オリンピックパラリンピックではオンラインシステムのほか、電光掲示板や電子式印刷装置(Electric Printer)が初めて実用化されている。そういう意味で「コンピュータ時代の幕開けを告げた」という表現は間違いではない。
 それはともかく、2020年の東京オリンピックパラリンピックが「IoT時代の到来を象徴するビッグイベントになる」かどうか。「IoTイニシアティブ2015」のプレミアムプレゼンテーションに登壇した経済産業省・大臣官房審議官(商務情報政策局担当)の前田泰宏氏は、総務省と共同で立ち上げたIoT推進コンソーシアムの第2回官民対話で固まったマイルストーンとして、次の4項目を挙げる。
 ①自動運転:IoTによる自動(無人)運転自動車にかかるルールを2017年ごろまでに整備し、2020年の東京オリンピックパラリンピックで移動サービスや高速道路などで実用化する。
②ドローン:3年以内にドローンを使った荷物の配送を実用化する。そのために、「利用者と関係府省庁が制度の具体的な在り方を協議する官民協議会」で、来年の夏をめどに対応方針を策定する。
③電波:来年の夏までに周波数帯の拡大・出力アップを定め、併せて電波利用の制度を整備する。
④健康医療:3年以内に人工知能を活用した胃腸診断システムを医療の現場で活用できるようにする。そのため、来年の春までに、医療診断支援ソフトウェアの審査指針を策定する。
 「たった4つか、と言われるかもしれないが」と前置きして、前田氏は「できるところから具体的にスケジュールを決めて、スピード感を持って進めていくだけ」という。ルールを定め、並行して規制を緩和する。一点突破方式でいくつかを実現する。そうすれば自由競争のなかで様ざまなアイデアが出てくるし、新しいビジネスが登場する。いかにも経産省らしい考え方だ。
 IoT推進コンソーシアムは首相直属の組織という位置づけなので、官民対話での決定事項は安倍首相から関係閣僚に直接、規制緩和などについて検討するよう指示が出される仕組みになっている。国を挙げてIoT推進に本腰というわけだが、いずれにせよ当面のゴールを2020年に置いているのは間違いなさそうだ。

IoTの要点は「オープン」

 「IoTイニシアティブ2015」と「IoTサミットinジャパン」に共通した登壇者は、坂村健氏だった。公的な肩書きは東京大学大学院情報学環教授、インターネット協会IoT推進委員会最高顧問だが、IT/ICT業界では「TRONの……」と言ったほうが理解が早いだろう。
 同氏は今年5月、ジュネーブで開催された国際電気通信連合(ITU)の150周年記念式典で、「 ICTのイノベーションを通じて世界中の人々の生活向上に多大な功績のあった個人」6人の中の1人として顕彰された。選考の事由は「TRONリアルタイム・オープン・アーキテクチャー計算機システムの研究開発、そのOSをオープンかつフリー(無償)で公開。IoTの考え方を1980年代から提唱」となっている。
 ちなみに顕彰されたのは、坂村氏のほかビル・ゲイツ(世界の貧困・感染症の問題解決、貧困層への教育・IT機会)、ロバート・カーン(TCP/IPプロトコルDARPAインターネットプログラムの開発)、トーマス・ウィーガンド(マルチメディアの国際標準化)、マーク・クリボシェフ(デジタルテレビの国際標準化)、マーティン・クーパー(携帯電話の発明)の5人。ビル・ゲイツの選考事由がパソコン用OS「Windows」でなく、多額の寄付行為というところが面白い。
 「TRONがなぜこんなに広い分野で多くの人に利用されるようになったかというと、オープンでフリーだったから」と坂村氏はいう。それはインターネットのTCP/IPプロトコルも同様で、「一定のルールに沿ってさえいれば必ず相互につながることが重要」という。IoTはマイクロチップ、センサー、コンピュータがインターネットでつながり、相互にデータやコマンドをやり取りする世界なので、インターフェースは無償で公開されなければならない。それは、クローズド・アーキテクチャ固執する製品やサービスのメーカー、プロバイダは市場から退出して行かざるをえないことを意味している。
 「ただし、オープンでフリーということは、けしからん意図を持った破壊者や犯罪者の不正をどう排除していくか、あるいは状況に応じて、つないでいいのかいけないのか、ガバナンスが重要になってくる」ともいう。例え話で笑いを誘ったのは「健康管理のために、特定個人の体重をIoTの体重計が診療所に自動送信するのは構わないが、家族全員のデータを送ってしまったらどうなるか。私の場合、娘に勘当されてしまう」だった。
 IPv6によってIPアドレスは2の128乗=約340澗に拡張された。「澗」という単位は耳慣れないのでピンとこないが、1兆人が1兆個のデバイスで1兆アドレスを使っても、約340倍の余裕がある。
 1人当りのインターネット接続デバイスは2003年が0.08個、2010年が1.84個、現在は3.47個だそうだから、「とてつもない数」としかいいようがない。加えて6LoWPAN(IPv6 over Low power Wireless Personal Area Networks)でモノや場所を特定できるようになる。

パネル討論は消化不良

 技術的なことはこれくらいにして、知りたいのは、IoTがごく当たり前になったとき、どのような社会になっているかだ。それは来場者共通の関心事だが、両イベントが企画した識者によるパネルディスカッションは消化不良の感が否めない。
 「IoTイニシアティブ2015」はモデレータがIPAソフトウェア高信頼化センター所長の松本隆明氏、パネリストはミサワ総合研究所の栗原潤一氏、デンソーの村山浩之氏、ヤマト運輸の小佐野豪績氏、オムロンの竹林一氏だった。割り当てた時間は午後4時半から6時までの1時間半。
 一方の「IoTサミットinジャパン」はモデレータがインターネット協会理事長の藤原洋氏、パネリストは坂村健氏、インダストリアル・インターネット・コンソーシアム日本代表/日本OMG代表理事の吉野晃生氏、東京大学生産技術研究所IoT特別研究会代表幹事の野城智也氏で、3時15分から4時15分までの1時間。
 発言の一々は取り上げないが、「IoTイニシアティブ2015」では具体論に話が及ぶと「そこは企業秘密ということで……」が乱発され、「IoTサミットinジャパン」は学者先生方の概論、総論に終始した。「IoTイニシアティブ2015」でやや具体的な姿が示されたのは、いわゆる「スマート○○」の域を出ていなかった。IoTの未来像は誰も描けていないということなのか。