IT記者会Report

IT/ICTのこと、アレヤコレヤ

ABC協会は何を目指すか

 ABC協会の役員を見ると、新協会の母体はJUASーーというよりJUASで関係を密にした”仲間”が、「もうひと仕事」の意気込みで参集した感が強い。むそん「錚々たる」の形容詞がぴったりの顔ぶれなので、その人脈がフルに動けば「会員100社」の目標は遠からず達成されるに違いない。

なぜJUASではダメのか

 講師諸氏のこれまでの実績からすれば、セミナーや研修会が参加者が集まることは容易に想像がつく。となると(であれば)、なぜJUASではダメなのか、という疑問が湧く。
 業界記者が一様に抱くのは「意見が相違したあげくの分派活動」ということだが、それだと副会長に就任した細川泰秀氏がJUASのエグゼクティブフェローを兼務している説明がつかない。
 ―—JUASでは企業を個別にコンサルすることが難しい。内実に踏み込んでいくことになって、表向き言えないこともあるだろうし、とんでもない問題が飛び出してくるかもしれない。そこで別のフレームを作る必要があった。セミナーや研修会では、テーマによってJUASと連携する。
 という説明に対して、記者席から「軸足を置くのは人材育成なのか、コンサルなのか。コンサルがメインなら事業会社という選択肢もあったのではないか」という質問が飛んだのは、ある意味では正鵠を突いている。だがそのまま突き進んでいくと、なぜJUASではダメなのか、事業会社でなく一般社団法人なのかが見えてこない。

ビジネス変革は経営の課題

 どういうことかというと、プレスレリース本文第2段落にある「ITの利活用に関しては、企業の利用部門(業務部門、スタッフ部門)自らがビジネスモデルの変革、課題解決の仕組みをしっかり考え、その上でITをどう利活用するかの検討が必要」という文言だ。
 JUASが「日本データ・プロセシング協会」の名で政策や経営手法を提言するなど精力的に活動していたたころ、その主たるメンバーはユーザー企業内の経営企画部門だった。電子計算機がコンピュータに変わるのに伴って、その主体は業務管理部門とIS部門に変わり、1980年代の後半に情報子会社が取って代わった。
 漫談の綾小路何某のキャッチフレーズを真似ると、「あれから30年」である。
 分社化した当時は経営企画部門の一部だったが、30年経ってIS部門や情報子会社は人材が一巡した。それによって、今や経営企画や業務管理を担うこともなく、この10年間で予算は半減し既存システムの運用保守で精一杯、新規開発に回す余裕はない。
 また経営企画部門はIS部門や情報子会社を、企業内のIT下請けに位置付けている。ことにリーマンショック以後は、「言われたことを着実・確実に実行していけばいい」=業務遂行能力=左脳の思考に閉じこもることが「是」とされてきた。
 自律的な自立性を失ったIS部門や情報子会社をいくら叱咤激励してもビジネス変革は起こらない。せめて親会社の経営陣や経営企画部門と連携して、ITのプロ集団としてビジネス変革に参画していけるIS部門、情報子会社の有為な人材を鍛えていく。現業部門、スタッフ部門の要員にシステムエンジニアリング的な思考や発想転換の手法を移植することで、業務改革やビジネス改革を加速していく。ABC協会はIS部門の原点回帰を目指す動きといっていい。

人事評価や制度を変える

 記者説明会で配られた資料1の13p「能力開発の体系化(もっと良いものはないか)」には、「左脳思考」として分析力、判断力、決断力、計画実行力、啓発支援、課題形成力、策定力、決定力、計画組織力、人材活用力などが挙げられている。YesかNoか、行くか止まるか、右か左かを判断し、計画を立て、実行していく。いずれもビジネスマンに必須とされてきた能力だ。
 これに対して「右脳思考」として挙げられているのは「問題感知力=原点志向・最上志向・未来志向/業務効率・付加価値生産性・社会貢献」「発想力=創意・工夫・創造力・独創性」などだ。それが適正かどうかは別として、着眼・着想、企画、デザインといった領域にはルールや方程式がない。どちらかというと、個人の資質や性格に依存する部分が大きいようだが、興味を持つようにし向けたり、どこに着眼すればいいかを教えることはできる。教育訓練で入る余地はある。
 ただそのような人材ないし発想を活かすには、企業の組織や制度を変えていく必要がある。「いわれたことだけする」「ルールをきちんと守る」が是とされる組織では、角のない優等生が評価され、「いわれたこと以外のことに気がつく」「自分なりのルールを作る」ような要員は劣等生として扱われる。それなら人事評価基準を変えるなり、企業内に特区を設ければ突破口が開けるのだが、ここ数年で急速に浸透した相互監視の風潮が、場合によっては障害になるかもしれない。

壁は内部統制と法令遵守

 もう一つ大きな壁になるのは「内部統制」と「法令遵守」の締め付けだ。わざわざカギ括弧で括ったのは、本来の意味(内部統制=業務の適正を確保するための体制、法令遵守=法律や社会的な通念を守ること)として機能せず、「いわれたことだけする」「ルールをきちんと守る」をより補強する法的な根拠として誤用され、結果として日本企業を閉塞させ、IT利活用を萎縮させたからである。
 人事評価基準を変え、企業内に特区を設けても、「内部統制」と「法令遵守」、相互監視の風潮を吹き払わない限り、右脳思考の人材が力を発揮することは難しい。それはもはやITの世界ではない。締め付けのツールとして機能している「内部統制」と「法令遵守」を本来の意味に戻し、相互監視の風潮を解消する。となると、これはもう経営者(経営陣)の頭を切り替えてもらうほかないし、さらに株主に代表されるステークホルダーに「右脳人材を活用できる会社はイノベーションを起こす」と理解してもらうのがいちばんだ。それが左脳思考の人材に活路を開くことになる。ABC協会がその一翼を担うことを期待したい。