7月8日午後1時半から、東京・西新宿で開かれた「アシストフォーラム東京」に行ってきた。ソフトウェア・パッケージの専門商社であるアシストの単独開催だが、大塚辰男社長が営業方針を説明するでもなく、製品のプレゼンテーションが前面に出るのでもない。東京、福岡、大阪、名古屋の4会場でパッケージの活用事例を発表するユーザーは40社。同社広報によるとどの会場もほぼ満席の活況という。アシストのPRの場だと分かっていながら、なぜこれほどまでにユーザーが参加するのか。
■ 予定調和のPRの場じゃない
プライベートフェアといえば、自社製品やサービスのPRが場というのは言わずもがな。社長や事業部長が事業方針や販売戦略を説明したり、有識者や著名なIT評論家が「ITの課題」(例えば超高速開発とか)、「法制度の詳細」(例えばマイナンバー制度とか)に類するテーマで講演し、それを受けた製品やサービスのプレゼンテーションが中心となる。
その裏側を暴くと、まず「この製品、サービスを売りたい」という目的があって、それに沿ってユーザーに問題意識を持ってもらう(場合によっては危機感をあおる)解説をする。結果、「これを使えばすべて解決」「すべてのユーザーが満足している」的な話になる。
結論ありきの誘導型イベントなので、その効果を上げようと現場担当者が力を入れすぎ、時として誇張や誤魔化しが混入する。それは来場者も暗黙裡に了解していて、ある程度引いて聞いている。予定調和が繰り広げられるわけだ。
ところがアシストフェアでは、大塚社長が登壇するのは懇親会の冒頭挨拶だけ。同社による製品プレゼンテーションは計48セッションのうち8セッション(8日:東京0、10日:福岡1、14日:大阪3、15日:名古屋4)と全体の6分の1にとどまっている。有識者やIT評論家の講演はナシ。通常のプライベートフェアを知っている人には、それだけで「??」だろう。
■ 話の中心は課題の解決策
同フォーラムの特徴は、ユーザーが自分たちの体験談を同じ立場のユーザーに話すことだ。アシストの社員はそのサポートに徹する。まさに「アシスト」なのだが、プライベートフェアなので、当然ながら、事例の講演者はアシストが取り扱っているパッケージ製品に触れることになる。
筆者も業界紙の記者だったとき、何度も広告タイアップの「ソフトウェア・パッケージのユーザー事例」を書いたことがある。販売会社の営業マンに代わって、ユーザーから機能や性能、利便性や簡易性、サポート体制を聞き出すのだ。必須の質問は「なぜこの製品を採用したのか」「採用の決め手は何だったか」などだ。おのずから記事中に製品名がしばしば登場する。
ところが、このフォーラムでのユーザー事例では(筆者が聞いたセッションがたまたまだったのかもしれないが)、そのような話が出てこない。製品名もあまり出てこない。いや、触れているのだが、製品の機能や性能でなく、「こういうサービスをしたかった」「自社のサービスをこう変えたかった」という動機と、システム化のネック、その解決策などが中心だった。
実際、冒頭に「当社はこんなにうまく使っている、いいシステムができた、ということではなくて、今日の話は実はこんなところで苦労したという内容になる」と断ってから本題に入っていくセッションもあった。「こんなわたしたちでもできたのだから、みなさんもきっとやれますよ」の言葉は、聴講者の背中を押したに違いない。
■こんなサービスが実現した
なるほど、話す立場で成功事例は自慢話でもあるので気持ちが良い。しかし聞いているほうは引いてしまう。「○○さんがいた(理解がある上司がいた)から」「いいチーム編成だった(外部のパートナーがよかった)から」「タイミングが良かった」等々、うまくいった理由を「うまくいかない理由」に置き換えてしまうのだ。
もう一つ聴講者を元気づけるのは、「こんなサービスが実現した」「こうやって情報セキュリティ対策が実現した」という話だろう。企業内IS(Information System)部門は事業を支える必要経費の一部、収益を生む根源と見られていないケースが少なくない。特にバブル崩壊以来、IS部門に強く求められたのはQCD(Quality/Cost/ Delivery)で、それが回り回ってITサービス業の利益率圧縮を生み出した。
新しいサービスとは、直接的であれ間接的であれ、収益に貢献し、情報セキュリティ対策は企業の信頼性を高めることになる。IS部門が情報システムのお守から、ビジネス企画や企業価値を高める役割に転換する。むろん、アシストは市場の動きを読んで、それにフィットする講演者を用意したということだ。ソフトウェア・パッケージの役割が変わってきた。