IT記者会Report

IT/ICTのこと、アレヤコレヤ

ICSSP2013 に参加して

 5月18〜19日にICSE inサンフランシスコの併設イベントとして開催されたICSSP2013に参加した.以下はその概略報告.

 1. ICSSP とは
 正式名称はInternational Conference on Software and System Process.1984年から1996年まで ISPW (International Workshop on Software Process) として行われていた国際会議の後継である.長い中断の後,北京(2005), 上海(2006) を経て,2007年から ICSSP として復活した.これまでの記録は次のWebsiteにまとめられている:

 2.今年のプログラム
 全体の構成は:キーノート2件,2トラックの論文発表セッション8,特別セッション1であった.
プログラムの詳細(発表アブストラクト付)は次の Web Page に:http://www.icsp-conferences.org/program.html
参加者の顔ぶれは,かつての ISPW 時代からはだいぶ変ってしまったが,B.Boehmさんや L.Osterweilさんなど,何人かの顔なじみの人たちがいた.日本からの論文発表は角田雅照先生(東洋大学)1人だけだった.ほかに国立情報学研究所の石川冬樹さんの名前が,アイルランドのIta Richardson さんの論文に共著者としてあげられていた.

 3.キーノートについて
 ○The Challenges of Emerging Software Eco-systems  By Neil Siegel(Northrop Guruman)
新しい社会システム(Cloud, Big Data, Cyber-Physical)などの登場によってもたらされるシステムの信頼性その他の問題にどう対処すべきか.ただ単に開発プロセスの改善だけを議論していればよいわけではない.
発表スライド(17枚)は: http://bit.ly/10mtdTJ 

 ○Low Ceremony Processes for Short Lifecycle Projects  By Tony Wasserman (CMU Silicon Valley)
CMM に代表されるような儀礼プロセスモデルは,現在主流になりつつある Web アプリケーション開発などの短いライフサイクルのプロジェクトには適さない.プロセス・コミュニティはそうした非儀礼的プロセスのことを真剣に考えるべきである.
発表スライド(41枚)は: http://bit.ly/11Ytdjn

 4.印象に残ったプレゼン
 8つの論文発表セッション(Estimation, Software Process I, Quality and Indicators, Process Modeling, Measurement and Security, Requirements, Risk, Software Process II)は適当に渡り歩いて発表を聴いたが,印象に残ったプレゼンは次の2つだった:

 Global Requirement Engineering におけるコミュニケーション問題  By Ita Richardson (Univ of Limerick)
アイルランドはアメリカからのオフショア開発から脱却して,ここ新しい道を探しているところ.Richardson 女史は,多国間プロジェクトにおけるプロセス・マネジメントが専門.数年前の EuroSPI のキーノートで問題点を手際よくまとめたプレゼンをされたのが記憶に残っている.今回の発表はその続きだった.

 Open Architecture System における安全性の問題  By Walt Scacchi(UC Irvine
以前、東京の Software Symposium にお招きしたころの Scacchi さんは USC で Software Factoryの研究をされていたが,UC Irvine に移ってからは,Open Source/Free Software 分野に研究対象をシフトされた.今回の発表は,OSSを利用したシステムにおける安全性マネジメントの現状における問題点の分析.単にコストや便利さだけを理由にOSS を利用しているシステムが多く,十分な技術的知識が活用されていない.

 5.特別セッション
 ヨーロッパの若手プロセス研究者による Manifest for Structured Collaborative Software Process を作ろうという試みの提案と説明.提案者は,M.Kuhrmann (TU Munich) およびA.Rausch (TU Clausthal).2人とも今回の会議でプロセス・モデリングに関する論文を発表している.
提案の概要は次の5つの柱をベースにしようというアイデア
− 柔軟で適切なプロセスの選択
− 開発チームとそのニーズを第一義に尊重する
− プロセスの現実を重視する
− 信念に従うのではなく事実を直視する
− 永続的改善を前提とする
今後の展開が注目される.興味をもたれた方は、2人のコーディネータのコンタクト先を Web で調べてメールで連絡を取り,これからの議論に参加されるとよい.

 6.まとめの感想
 以前から感じていたことだが,世界のプロセス・コミュニティは大きな曲がり角に差し掛かっているように感じられる.
1990年代以降,プロセスに関する議論は,CMM にせよProcess Programming にせよ,ソフトウェア開発プロセスのモデル化やそのマネジメントを中心に展開されてきた.しかし,インターネットの普及に伴って IT システムが社会のあちこちに浸透してきた現在では,開発が終わり運用に入ったさまざまなシステムの進化プロセスをどう扱うかという問題のほうがより重要になってきている.
 今回の会議の2つのキーノートや特別セッションにおける問題提起はそのことをはっきりと示している.単なる開発プロセスの SPI ではなく,より広い視野に立つ議論が必要だと考えられる.
 そうした社会システムを視野に入れた場合,問題の対象をいくつかの構成要素に分解しその特徴を分析するという従来の科学工学的方法論だけではおそらく不充分であろう.すでに連載コラムにも書いたが,量子力学者デヴィッド・ボームが晩年の著作『全体性と内蔵秩序』(青土社 2005)で指摘しているように,対象を断片化して部分要素の理解をいくら精密に行ったとしても,対象全体の理解にはつながらない.
 そのことは2000年以上も前に,老子が「数車無車」(車を数えて車なし)というすぐれた比喩で指摘している.プロセスをいくつものフェイズやキー・ステップに分解するのはよいが,その結果が「プロセスを数えてプロセスなし」に終わったのでは元も子もないのである.