つぎに、ISERNの目的と焦点として、次のような記述が続く。
『ソフトウェア・エンジニアリングは比較的新しい、そして未熟な学問である。それを成熟させるために、我々は研究への実験的な観点を、次のようなことができるように適合させてゆく必要がある。つまり、技術によって観測と実験を可能にし、その弱みと強みを理解し、特定のプロジェクトのゴールと特性向けに技術をテーラリングし、そしてこれらを将来のプロジェクトで再利用できる潜在力を高めるような実験的に獲得された経験と合わせてパッケージ化するということである。
目的と焦点
今日、世界中でいくつかのアカデミックな、あるいは産業界のソフトウェア・エンジニアリング研究グループが実験的なソフトウェア・エンジニアリングの観点にパラダイムシフトした。
これらのグループのそれぞれが、そのローカルな研究環境のなかで有効なソフトウェア・エンジニアリングのモデルを作りだし、それをつづけてゆくことだろう。
ソフトウェア・エンジニアリングの学問全体の基本的なモデルとコンポーネントの構築へ向けた次の段階へゆくために、我々は特定の環境の特性を抽象化出来なければならない。どんな研究グループでも単独では、多数の環境と影響力のある要因に跨って、その技術の影響のバリエーションについて学習するのに必要な研究環境を備えることはできない。
ISERN の目的はこのスケールアップのジレンマに実際的な解決策を提供することにある。ISERNは、共同活動の様々な形態を通して、異なった研究グループに、研究環境のネットワークへのアクセスを提供し、実験的なソフトウェア・エンジニアリングの成熟度を高めると同時に、お互いから学ぶことが出来るようにすることを意図している。』
研究の共通の枠組み
次に研究のための「共通の枠組み」の説明が続く。「品質」については人によって異なる意味を持つので、これを厳密に定義するためにISERNでは、メリーランド大学のTAMEプロジェクトで生まれたQuality Improvement Paradigm : QIPと名付けられた枠組みによって定義する、としている。
このQIPでは、ソフトウェア開発は実験的なので、それぞれに応じて管理される必要があると仮定し、一つの組織内のプロジェクトは次の事項の継続的なくり返しを基盤としていると考えている。
・プロジェクトの特性把握と目標設定
・革新的な技術の選択
・プロジェクトをオンラインで修正してゆくための、その効果のモニタリングと分析
・将来のプロジェクトで何をするのが良いか理解するための、終了後の分析
・将来のプロジェクトで効果的に再利用できる新たに学習した教訓のパッケージ化
これらの活動は、エンジニアリング志向の姿勢で、計測によってサポートされ、研究型の環境ですすめられるときにのみ、実現される、という考え方である。
そしてこの考え方の実際的な実現には次のようなインフラストラクチャーが必要であると主張している。
・トップダウン計測:ソフトウェア計測がゴールに結びつけられていなければならない。ゴール/クエッション/メトリック(Goal/Question/Metric: GQM)パラダイムが、定量化可能なゴールの定義と、収集した計測データの解釈を支援するために提案されている。
・明示されたモデル表現:明示された(プロセス、プロダクト、品質)モデルの表記法が必要とされる。これについては 現在様々なアプローチが評価されつつある。
・プロジェクトの境界を越えた再利用:エクスぺリアンス・ファクトリー(経験工場)のコンセプトが、プロジェクトの境界を越えた再利用のためのモデルとなる組織を支援するために提案されている。』
活動
つぎにISERNの共同活動が焦点を合わせているカテゴリーを列挙している。
『・ツールおよび/または人材の交換
・モデル構築、実験と、計測/評価アプローチのための実験的な基盤技術のさらなる開発
・共同実験
・共通の専門用語の定義と使用
・共通の注釈つき図書目録の編集と維持』
ついでISERNで共同実験を行う理由をあげている。
『・拠点を越えての結果の共有
・拠点を越えた実験のファミリーの実現
・特定の実験の拠点を越えた繰り返し
・結果と知識を、我々の学問の基本的なコンポーネントを生み出すのが可能な時、いつでも統一すること
・それぞれの組織で必要なリソースの節減(すなわち、コストのシェア)』
そしてISERNマニフェストはこのあとに、創設メンバーリストや会員申請手続き、電子メールなどのコミュニケーション手段、会合の持ち方など基本的な組織規約を示している。入会はオープンで年会費のようなものはない。
最後に、「ISERNからの利益」、という記述で結んでいる。