IT記者会Report

IT/ICTのこと、アレヤコレヤ

ソフトウェア・エンジニアリングの世界のマニフェスト(1)

 選挙の季節、「マニフェスト」が話題だが、マニフェストは必ずしも「選挙公約」だけを意味しない。「声明文」とか「宣言文」と訳した方がふさわしい使い方もされる。ここではソフトウェア・エンジニアリングの世界で長い間立派に機能してきた一つの「マニフェスト」を紹介したい。

 その名は「ISERN(アイサーン)マニフェスト」。ISERNはInternational Software Engineering Research Networkの略。内容を表した表現にすると、「ソフトウェア・エンジニアリング国際研究者ネットワーク・マニフェスト」といった感じになる。
 研究者ネットワークだから学会みたいなもので、その組織の設立趣旨と規約みたいなものか、と早合点しそうだが、必ずしもそうではない。なによりもこの領域に立ち向かう研究者の姿勢、考え方、そして研究の方法論について論陣を張っているところが特徴である。
筆者はここ数年ISERNの活動に参加してきた。その視点からはこのマニフェストにはこの領域で続けられるさまざまな努力の参考になる示唆が含まれているように思える。そこで様々なマニフェストが話題になっている機会に、この「ISERNマニフェスト」を紹介したいと考えた。(以下は筆者の主観を交えた、ISERNマニフェストの要旨の紹介、『 』内は筆者による意訳である)。

はじめに

 ISERNマニフェスト(※1)はISERNのWebサイト(※2)に英文で掲載されていて、本文の前に、短い説明がある。
 そこでは、『ISERNは、ソフトウェア・エンジニアリングの研究は実験的な環境で行われる必要があると信じているコミュニティである』、と謳っている。
 そしてISERNの会合を、査読論文の発表の場ではなく、協業や討論を活発化させ、実験的なソフトウェア・エンジニアリング領域の知恵の構築に貢献する支援の場である、と言っている。

ISERNマニフェスト
 冒頭にまえがきのような記述がある。
『・我々は一つのコミュニティとして、ソフトウェアは標準化された技術では生産することが出来ず、特定のプロジェクトのゴールと特性のためにテーラリングされた技術によって開発される必要があると認識し始めた。
・従って、ソフトウェア・エンジニアリングの研究は実験的な環境の中で行われる必要がある。』

 このように、正論を示したあとISERNの目的として、つぎのようなやや具体的な記述がある。
 『・研究グループの間での成果と人材交換を力づけサポートする。
 ・異なった環境での開発技術の実験、環境を越えた反復実験、モデル構築、実験と検証のための方法論、およびツールの開発と交換。』
 そして、『長期的には、これらの共同作業が、学問の基本的なコンポーネントを産み出し、環境に依存する実験結果と知識について、抽象化と統一をもたらしてくれることを期待する』、としている。
 まえがき部分の最後に、つぎのような視点を示している。
 『ISERN創設メンバーの共通の参照モデルとして、ソフトウェアに関する経験をつかまえて、これを効果的に再利用するためには計測が不可欠であるという見解を持つ。そしてプロセスを、プロジェクトと組織の特性とゴールを基盤としたひとつの変数であると仮定する。』
さらに『これらの枠組みを、ソフトウェア・エンジニアリングがはっきりした進歩を達成するために、学界と産業界の効果的な協力とサポートを必須とするラボラトリー・サイエンスであると見なす。』と主張している。
※1  ISERN Manifesto: http://isern.iese.de/Portal/mod/page/view.php?id=10
※2  ISERN: http://isern.iese.de/Portal/