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ICT関連3月期決算282社の2010年度業績 下期(10~3月)業績低迷に加え震災の追い討ち

 5月20日までに2010年4 月1 日~2011年3 月31日の12 か月間の決算を発表した公開ICT関連企業は282社だった。売上高は68兆4,579億04百万円で、前年度比は△3.05%だった。また本業の利益を示す営業利益は△30.90%の4兆6,380億31百万円、当期純利益はほぼ倍増となる△94.55%の2兆1,485億32百万円と好転した。ただ昨年中間期の通期予想売上高に対し1兆2,700億円の未達となったほか、上期売上高が△6.52%だったのに対し下期売上高は▼0.04%、営業利益は上期△77.26%に対し下期は3.48%にとどまるなど、トンネルの出口はまだ見えていない。(注:△はプラス、▼はマイナス)

過去最多の18 社が上場廃止

 対象の上場企業数は17社減少した。新規上場は3社(東証2部2社、マザーズ1社)、上場廃止が18社(東証1部2社、同2部2社、ジャスダックスタンダード=JQS=6社、ジャスダックグロース=JQG=2社、マザーズ5社、名証2部1社)業態転換による対象除外が2社(マザーズ、福岡Q-Board各1社)だった。1年間の上場廃止企業数はこれまでの最多となる。また決算方式を連結から単独に変更した企業が少なくなかった。
上場廃止となった事由を調べると、この2年間で経営形態の転換やM& Aが急速に進んだことが分かる。連結から単独への変更も、連結子会社の整理・統合を意味しており、リーマンショック後のリストラの結果と見ることができる。

新規上場の3月期決算企業
 AGS
 駅探
 電算
上場廃止となった3月期決算企業
 アイ・ティー・エックスオリンパスが100%子会社化
 アドバックス=有価証券上場規程第601条第1項第9号a(不適当な合併等)に該当
 インボイスマネジメント・バイアウトにより上場廃止
 沖ウィンテック=OKIグループの再編
 キヤノンソフトウェアキヤノングループの再編
 ゴメス・コンサルティング=2011平成23年7月1日、モーニングスターと合併
 サミーネットワークスセガサミーホールディングスに吸収統合
 シニアコミュニケーション粉飾決算のため上場廃止
 ゼンテックテクノロジージャパン=2010年6月30日付で民事再生法適用を申請
 ソラン=ITホールディングスの傘下に入りTISが吸収統合
 トムス・エンタテインメントセガサミーホールディングスの完全子会社化
 テレビ東京ブロードバンドテレビ東京グループの再編
 TCBテクノロジーズ=2010年10月20日付で東京地方裁判所に破産手続申立て
 ハドソンコナミM&A
 バンクテックジャパン=MBOにより、BTホールディングスの子会社
 ビック東海=東海ガスグループの再編
 VSN=マネジメント・バイアウトにより上場廃止
業態転換で対象から外れた企業
 ビジネス・ワンホールディングス=外食産業にシフト
 メッツ=不動産管理業にシフト

雇用状況の厳しさ増す

従業員数は前年度比▼0.03%の224万5,322人、平均年齢は40.6歳だった。
このうち「ハードメーカー」が179万人で、全体の8割を占めている(表1)。1社当りの従業員数では「コンピュータ・メーカー」が最も多く、「エンタテインメント」が最も少なかった。最多と最少の格差は2009年度の1,274倍から1,301倍に拡大した(表2)。
 従業員の平均年齢を調べると、全体は40.6歳だった。業態別(大項目)では「ハードメーカー」が41.4歳で最も高く、「コンテンツ」(ゲームソフト、エンタテインメント)が35.4歳で最も低かった。また業態別(小項目)の平均年齢は「情報家電メーカー」の42.3歳が最も高く、「システム運用管理サービス」の32.8歳が最も低かった。企業個別の最高は50.7歳(システム販売)、最低は28.1歳(情報提供サービス)だった。

潜在的に5%程度の余剰

 ハードメーカーを除くと、2004年度~2007年度のICT業界全体の年間人員増加率は△3%前後で推移していたが、2008年度に△1.84%に低下、リーマンショック後は▼2.77%、▼3.00%、▼1.11%とマイナス基調となっている。単純計算で、この3年間で7%程度の人員抑制が行われたことになる。
 こうした雇用状況の中で、「情報サービス」業が依然として高い水準にあるのが目に付く。これはM&Aで非上場企業の従業員数が上積みされたのが一因と考えられる。もう一つ、2年先行型の内定方式が要因となっているが、内定方式は他業態も同じであることから、情報サービス業に雇用政策の機敏な転換を阻害している別の要因があるように思われる。
 「ハードメーカー」(―)の従業員数が2010年度に増加したのは、非正規雇用者を正規雇用に転換したことによる。また「ネットサービス」は景況に敏感に反応したことが分かる。
 2010年度業績は一部に好転の兆しが見えたといっていい。とはいえ全体の売上高規模は2007年度水準にとどまっており、5%程度の余剰が潜在していると考えることができる。この数値はあくまでも株式公開企業に限ってのものであって、ソフトウェア受託開発業務における多重構造を考慮に入れていない。
 3月11日に発生した東日本大震災は、2011年度の業績見通しに暗雲をもたらすと想定される。日本経済のGDP年間換算で▼3.7%の影響が予測されているが、玉突き型の景況悪化によって、半数以上の企業がIT投資の引き締めや削減に動く可能性が残されている。ICT業界の雇用状況は2011年度も厳しく、引き続き活発なリストラとM&Aが行われることになりそうだ。 

中堅・中小企業のIT投資が拡大か

 一般に、リーマンショック後の景況は、おおむね2009年度下期後半(10年1~3月期)に底打ちしたと考えられている。他産業と同様、ICT産業でも設備投資にかかわる受注、つまりハードウェア(コンピュータ)から上向きに転じるのが常識的なところである。ところが「コンピュータ・メーカー」の売上高は上期が△1.93%の微増、下期は▼4.59%、通期で▼1.58%となっており、とても「回復」とはいえそうにない。特に気がかりなのは、10年度下期が▼4.59%となっている点である。
 また基幹業務システムないしエンタプライズ系アプリケーションの開発に関与する「情報サービス」のうち、「複合サービス」が上期△0.14%/下期△0.03%/通期△0.08%とほぼ横ばいにとどまっている。「ソフトウェア開発」は上期▼3.11%/下期△1.13%/通期▼0.96%となっており、ここからも「回復」と判断できる材料を見つけることはできない。
 これに対して小項目「システム運用管理サービス」と大項目「プロダクト販売」3業態のうち「システム販売」「ソフトウェア・ライセンス販売」は、ともに売上高、営業利益、当期純利益に不安定な動きがなく、着実な回復を示している。「システム運用管理サービス」は利益率が低いものの、潜在的に不況耐性が強い特性があり、人材サービスと組合わせた「BPO」に発展する可能性を秘めている。不安定な「ソフトウェア開発」より早く回復(ないし平常)の兆しが出た。
「システム販売」は旧オフコンの市場を継承し、中小規模サーバーとパソコンを組合わせたアプリケーション・システムを〈ソリューション〉として提供するビジネスモデルである。主なユーザー層は中堅以下の企業であることを勘案すると、2010年度にIT投資を拡大したのは中堅・中小企業だった可能性が浮かび上がる。「ソフトウェア・ライセンス販売」では、中小企業向けシステムにフィットするプロダクト・ベンダーが売上高を大きく伸ばしており、その可能性を裏付けている。
 ICT産業の2010年度業績は一見すると「回復」に向かいつつあるようだが、エンタプライズ系(基幹業務システム/ビジネス・アプリケーション)にかかわるハード/ソフト/サービスは、2010年度下期に再度失速したと考えていい。「失速」を示すのは、上期と下期の6か月業績である。それは、コンピュータ・メーカーの業績に顕著に現れている。
 システム販売業やソフトウェア受託開発業の売上高におけるコンピュータ・メーカーのウエイトは25%前後と見てよく、またその業績は3~6か月のタイムラグでシステム販売業やソフトウェア受託開発業に及ぶと考えていい。 

売上高予想1兆2,000億円の未達

 ハードメーカー10社の内訳は、コンピュータ・メーカー3社((NEC、富士通日立製作所)、情報家電メーカー4社(パナソニック東芝三菱電機、シャープ)、事務用電子機器メーカー3社(リコー、セイコエプソン沖電気工業)。改めて2010年度業績を確認すると、コンピュータ・メーカー3社の売上高は前年度比▼1.58%の16兆9,596億36百万円、情報家電メーカーは△6.82%の28兆9,724億79百万円、事務機器メーカーは▼2.82%の3兆3,483億61百万円だった。パナソニックについては三洋電機の売上高1兆5,619億円/営業利益▼80億円が上積みされている。
 本稿では便宜上「コンピュータ・メーカー」としたが、半導体、家電、重電、産業機械といった多くの事業を営んでいる。そこでセグメント別の詳細からICT関連事業の業績を集計すると、NEC、富士通日立製作所の3社では▼1.53%の7兆9,985億01百万円(これに東芝のパソコン・液晶事業推定分=2010年度から液晶テレビ関連事業とパソコン事業を統合=を加えると、▼0.38%の9兆1,785億01百万円)だった(表7)。これをもとにすると、株式公開ICT企業の業績は売上高30兆0,759億15百万円(前年度比△1.77%)、営業利益3兆1,354億47百万円(△12.58%)に補正される。
 2009年度通期業績発表時および、2010年度中間期発表時の通期見通しと実績値との相違を調べると、コンピュータ・メーカーは期初見通しに対して-3,403億64百万円(達成率98.03%)、中間期見通しに対して-3,103億64百万円(同98.20%)の未達だった。情報家電メーカーは期初見通しに対して-6,215億19百万円(97.22%)、中間期見通しに対して-8,015億19百万円(96.45%)、事務機器メーカーは期初見通しに対して-1,643億39百万円(95.31%)、中間期見通しに対して-1,163億39百万円(同96.63%)となっている。未達額の10社合計は期初見通しに対して-1兆1,265億22百万円(97.39%)、中間期見通しに対して-1兆2,285億22百万円(97.16%)だった。
 営業利益、純利益についても、同様に中間期業績発表時の見通しをもとにポインティングしてみると、営業利益未達額はコンピュータ・メーカーが-600億78百万円(達成率91.36%)、情報家電メーカーは+31億84百万円(達成率100.37%)、事務機器メーカーは-280億46百万円、純利益未達額はコンピュータ・メーカーが-1,985億57百万円(72.16%)、情報家電メーカーが+557億88百万円(118.60%)、事務機器メーカーが-1,411億12百万円(83.01%)だった。メーカー10社の未達額の合計は、営業利益が849億40百万円(94.95%)、純利益が668億81百万円(90.54%)となっている。 

中間期発表時の通期見通しと比較する

 これをさらに上半期と下半期で見ると、次ページ表9のようになった。様ざまな切り口を一覧にしたため分かり難いと思うが、期初・中間期の売上高見通しを達成したのは日立製作所のみだった。見通しを達成したのは営業利益では日立の1社だけだが、純利益では東芝三菱電機セイコーエプソンの3社(欠損だが見通しを下回った沖電気工業を加えると4社)となっている。
 決算と同時に発表される業績見通しは、株主に経営状況を的確に伝え、適正な投資判断に資することを目的にしている。期初は期待値や意気込みを含んでおり、中間期は上期実績を踏まえた上での実現可能値と理解していい。その意味では期初見通しと通期実績を比較するのは酷なので、中間期業績発表時の見通しがベースとなる。
 2010年度上期業績の前年度同期比は、日立が売上高△9.15%だったので、期初9兆2,000億円としていた通期見通しを1,000億円上乗せした。また営業利益が前年度同期比98倍に回復したので通期を700億円、純利益が25倍だったので750億円、それぞれ増額した。結果として同社の2010年度実績は見通しを上回った。
 またパナソニックは上期売上高が前年度同期比△31.04%と好調だったのを受けて、通期売上高見通しを1000億円、営業利益を600億円、純利益を350億円、それぞれ上乗せした。実績は目標値に届かなかったが、上期業績を通期見通しに反映したことになる。
 ジャーナリスティックに表現すると、各社とも上期業績発表の時点で期初見通しが成り立たなくなっていたはずだ、ということである。変更したのは上方修正した日立、パナソニック、下方修正した富士通三菱電機、リコー、セイコーエプソン沖電気工業の計7社だが、それにしても7社のうち6社が修正値を下回ったのは、見通しが甘かったと指摘されて致し方あるまい。