浜口友一氏(情報サービス産業協会会長) 動くときは動くよ〜まずは会員の意見を集約(2)

実証実験の場が必要

浜口 安ければいい、みたいなところがあって、IT産業の健全な発展とか国民の利便性とかをどこまで考えているのか分からないこともある。自治体のシステムには年間5,000億円ぐらいの予算が投入されているけれど、共通化すれば2,000億円ぐらい節約できる。
 ――その上で地域の特性や事情に応じたシステムを広域で動かせばいい。IT戦略本部や総務省は方針と目標値を決めて、あとは自治体任せ。そのくせ後期高齢者医療制度のように、自治体に相談もなく制度だけ作る。IT部門はたまったものではない。
浜口 我われはもっとたいへん。何とかしてくれ、って頼まれても、制度の詳細が決まってないんだもの。仕様が固まらないのにシステムができるわけがない。
 ――こういう時代に情報システムを無視した制度設計はあり得ないでしょう。
浜口 新政権は有権者にアピールしなきゃなんないから、変更とか廃止をやってくるんでしょうね。
 ――皆さんの代わりに言うとね、国民総背番号でいいじゃないか、と。コンピュータ化するっていうのはそういうことなんだと、根気強く説得していかないと、いつまでも堂々巡りすることになる。
浜口 それはもう、国としてどうする、っていう話だものね。
 ――1970年代、国や自治体がコンピュータの利用をリードしたことがありますね? それが民間のコンピュータ利用に弾みをつけた。いま必要なのはそういう施策じゃないですか。
浜口 実際、それがあったから国産コンピュータができたんですよ。NTTのデータ通信サービスもそうでした。民間でできない実験的なアプローチを我われに多少自由にやらせてもらえないか、と思っている。他に影響しないような小さなシステムで、新しい開発方法論を適用するとか。それが上手く行ったら、他のシステムにも広げて、民間にも普及させるというような。それがIT産業の振興策になる。
 ――これまでの政策は、産業界の景気がよければIT需要が旺盛になって、それが雫となって情報サービス業の底辺まで滴る、という図式。シャンパングラスを重ねて、上から注いでいくのがあるじゃないですか。これまではそれでよかった。でも大手ユーザー企業の話を聞いていると、ちょっと違う。
浜口 雫が滴らないかもしれないってこと?
 ――こういう景況も影響しているんでしょうが、IT予算はコストだと考えるユーザーが増えているように見えます。
浜口 投資っていう感覚がない? う〜ん、わたしはね、そう悲観したものではないと思っている。というのはね、これまでもそうだったけど、産業界は新しい環境に対応するために、ITで課題を乗り越えてきた。経営の戦略転換もしなけりゃならない。だから必ずITへの投資をする。
 ――それが従来の情報システムに向かうかどうかというと、ちょっと意見が違う。CO2削減対策とか雇用対策とか、いずれにせよITを利活用するでしょう。けれど、SaaSクラウドという流れができつつある。旧来のIT投資ということにはならないんじゃないですか。
浜口 だからそのためにも我われが変わっていく必要がある。まずは自分たちがどう変わっていけばいいのか、それを議論しないと。
 ――お言葉ですが(笑)、先の正副会長会見でいきなり私たちに示された「5〜10年先の業界ビジョン」の報告書ね。垂直型の多重下請体制から水平型の分業体制へ、って一見もっともらしい。皆さんは自分たちで作ったと主張するけど、何とか総研が作ったんじゃないですか? そういうミエミエの報告書を記者に示して、改革のポーズを示すのは、もう止めてもらいたい。そもそも垂直型の多重下請に乗って利益をあげている企業が自己否定できるんですか?
浜口 う〜ん、そこは何て答えるのがいいのか困るけど。でも、指摘したいことは分かります。
 ――官僚が作った机上の空論を追認したり迎合するんじゃなくて、自分たちが変わっていかなければならないというのなら、本気になって受託型ITサービス業界の構造を変えていくべきでしょう。だからやっている、というのかもしれないけれど、気がついたら回りの景色はガラッと変わっているかもしれない。
浜口 現在のシステム作りが将来も続くかというと、悲観的な意見が多いね。
 ――アンケートでは53%の人が「将来は暗い」って回答してますね。
浜口 わたしはね、IT投資が低調なのは一時的な現象だと思うし、この先も基本的には変わらないと考えている。そりゃ10年先はどうか、20年先は、と聞かれれば、分からないと答えるしかないけど。
 ――わたしも手組みの開発がなくなるとは思っていません。従来型のIT投資も再開されるでしょう。ですがITの調達方法やシステムの組み方は間違いなく変わる。IT子会社の位置づけを見直しているユーザー企業も少なくない。そういう中で、新政権がどこまでできるかどうかは別として、年内に20年度予算を編成すると言っている。このままだとITが忘れ去られてしまうんじゃないか、ITの国家戦略が示されないまま、また元の木阿弥に戻るのか、そういう危機感を覚えているんです。
 
理解してもらうのって……

浜口 そのテンポとタイミングをどう見るかですよ。予算編成は今回が最後じゃないんだから、あまり焦る必要はない。むしろIT投資が再開されたとき、どっちに向かうのかを見極めることが重要じゃないですか。
 ――フレームが動こうとしているとき、日本を代表する唯一の情報サービス業団体としてのJISAが何かしらアクションを起こすべきではないのか、と思うんです。わたしも民主党の方だけじゃなくて、自民党の方にもコンタクトを取っているんですが、何せわたしごとき者が個人で当たったところで政策に反映されるとは思えない。となれば、やはり業界団体が表に出て行かないと。
浜口 でもね、代議士の皆さんに説明して回るのって、たいへんなんですよ。なかなか分かっていただけない。携帯電話がソフトウェアで動いていることを、どうやって分かってもらえるか。
 ――それは前にもうかがっています。たしかにたいへんなんでしょう。実際、わたしはこの6月に民主党政調(政策調査会)のIT事業仕分け委員会に3回参加しただけですけど、これはたいへんだぞ、と思いました。インターネットと携帯電話がITだと思っているような人とか、元プログラマーでした、なんていう人が勢いで国会議員になっちゃったようなもので、社会・経済の基盤を支えているエンタープライズ系の受託型情報サービス業を理解してもらうのは生半ではない。まして浜口さんは政府委員とか諮問委員をなさっているから、もうイヤだ、って言いたくなるのは分からないでもないんです。でも、JISAとしては努力をしなければならない。
浜口 情報システムの取引きっていうのは、相手があってのことですからね。産業界あっての情報サービス業、というのは、基本的に変わらないと思います。そうなると、JISAだけでできるかという問題もある。
 ――いいじゃないですか。JISAが先陣を切って、JISAに加盟していない企業や団体にも参加してもらって。
浜口 棚橋さんのとき、それをやろうとしたみたいですよ。コンピュータメーカーにも呼びかけてね。こっちはその気でも、相手方の人が変わっちゃうと話が振り出しに戻ってしまう。
 ――わたしも棚橋論文を読みました。あ、これはやる気だな、って見ていたら、いつのまにかどこかに消えてしまった。
浜口 やっぱりね、ユーザーを巻き込まないとダメなんじゃないですか。幸い、JUAS(日本情報システム・ユーザー協会)にCIOを育てようという動きがあるし、そういうところと連携して政策を提案していく。そういうスタイルがいいんじゃないかな。議員さんたちに何とか議連を作ってもらっても、実効が伴わないことだってある。
 ――じゃ、個別のテーマとして、派遣の問題。アンケートで〈技術者派遣を主に営む企業を「IT技術者派遣業」として区別すべきだ〉という設問を用意したら、過半数の方が「YES」と回答しています。これをどう受け止めますか?
浜口 大筋ではわたしも同じ意見だな。技術者派遣業とソフトウェア業は違う。しかしこれを「業」として、法律で区別することがいいかとなると、議論がある。というのはね、ご存知のように、派遣という就労形態がこの業態に合っている。全部とはいわないけど。プロジェクトが始まる、本格的な作業になる、徐々に終息していく。それを全部、自社の社員でまかなっていたら、我われは二進も三進も行かなくなる。ユーザー企業もだから我われを使うわけでね。
 ――要員を適切に調達する仕組みという側面がある。アンケートで「YES」と回答した人たちは、派遣のグレーゾーンをスッキリさせるべきだ、という意見だと思います。その上で、技術者のスキルや技術レベルを客観的に評価できるように、税制や助成策で誘導するとか。
浜口 派遣法の適用と実態を切り離して考えた方がいい。二重派遣はダメとか、社民党なんかは派遣そのものを禁止すべきだと主張している。それではIT需要に柔軟に対応できない。
 ――しかし一方の実態では偽装請負やブローカー的な事業者がいる。
浜口 それも実態ではある。実態に即した法制度というとき、どこまでを含むのかを考えないといけない。
 ――派遣はあんまりいいことじゃないし、問題点も多いけど必要だ、と言う人がいますね?
浜口 いるね。それとこれがゴッチャになってるから、ちょっと困る。

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