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川端一輝氏(一般社団法人ITC-Labo代表)中小企業のIT利活用を

 情報サービス産業協会(JISA)が、地域でITビジネスを展開している地域のIT企業を調査するという。「そのヒアリングに同席させてほしい」とのご要望に応えて、大阪市を本拠とする一般社団法人ITC−Laboの代表である河端一輝氏に無理をお願いした。快諾をいただき、JISA地域ビジネス部会の加藤座長が同席することに。報告書に掲載した内容だが、公開したって構わないだろう。(企業名、役職はいずれも2010年4月当時)


ITベンダーとの関係

――大阪地区の地元企業に対するIT化促進支援策を中心にうかがいたいと思います。これまでにも札幌の赤羽さんとか高松の長尾さん、武生の先織さんとか、自分の事務所を構えて実績を残しておられる方々に、地域の中小ユーザーのIT化についてお話をうががってきたんですが、大都市におけるITコーディネター(ITC)のお話は今回が初めてなんです。大阪地区でのITC−Laboの役割というか、最近の状況をお話いただけますか。
河端 この組織は大阪地区のITCが情報を交換して、地域の中堅・中小企業のIT化を支援していこうという目的で発足しました。ITCが個々に頑張るのはもちろんなんですが、組織的に活動することによって案件が出てきやすくなる。最近はユーザー企業からでなく、ITベンダーからの相談が増えています。
――ベンダーから、ですか? それはちょっと意外でした。
河端 最初は営業の方の愚痴みたいなことがきっかけ、そういうことが少なくありません。地域の中小ユーザーからIT化の相談を受けたんだけど、何から手を着けたらいいか分からない、というんですね。ベンダーはお客さんから「こういうシステムを作ってほしい」と具体的にいわれれば何とかするんですけれど、漠然とした要望だと困っちゃう。それでわたしどものところにご相談にやってくる。愚痴みたいなことがきっかけになることもありますね。それでわたしたちも、ここにきて、ベンダーとのお付き合いに力を入れています。
――相談というのはどんな内容ですか。業務分析とか?
河端 というより、その前提となるビジョン作りとか、IT化のゴール設定とか、ですね。ベンダーさんは、なかなか経営の領域に入っていけない。大手企業ですと、IT化の目的がはっきりしているんですが、中堅・中小企業となると、経営者が何を考えているか、何をしたいのか、ということから固めていかないと、二進も三進もいかないんですね。そこで、そういう依頼に応じて、われわれが動く。
――そのようなITベンダーが増えている?
河端 ベンダーがそういう認識を持つようになってきた、ということでしょうか。大阪エリアでは特にそうなんですが、中小企業の親父さんが、「どんなんでもいいから儲かるもん、持ってこい」というわけです。そんなこと言われたって、何をやればいいのか、ですよね。
――そのとき、ITCの方はどのようなアプローチをなさるんですか。別の方にうかがった話ですが、最先端のITを導入する必要はなくて、実際に使えるITが必要なんだ、と。
河端 そのユーザー企業の従業員のIT利活用力ね。それは非常に重要で、「ITリテラシー成熟度」をちゃんと把握しておかないと、どんなにいいシステムを作っても利用されないと役に立たない。そのためにITCはIT成熟度診断ツールを持っているわけです。仮に現時点の成熟度がレベル2だとして、だからダメだじゃなくて、たいせつなのは、向上する余地があるかないかを見極める。何か役に立って初めてIT化ですから。
――ITの導入に成功したけれど、IT化できなかった、というケースですね。それとユーザー企業の強み・弱みを整理しておかないといけない。
河端 まさにその通りでね。何でもかんでもIT化すればいい、っていうことじゃない。ベンダーは「最新」にこだわるところがあって、その企業にとって過剰装備になることもある。
――場合によっては、IT化しないほうがいいこともあるんじゃないですか。
河端 そういうこともあるでしょうね。ですから、わたしたちが経営者とITベンダーの中間に入って、そのあたりを整理して、プロジェクトを進めていく。中小企業のIT化は、経営者だけじゃ進まないんですね。従業員が目標を理解して、プロジェクトに参加してくれないといけない。経営者、従業員、ITベンダーが情報と目標を共有する体制を、われわれが作っていく。
――そういう役割がやっと理解されてきたんですね。
河端 かれこれ3年になりますから。それと意外に重要なのは、金融機関との連携ですね。中小企業向け融資と結びつけてあげるには、企業に明確なビジョンなり事業計画がないと、融資する方が困る。経営者がIT化の意味を理解して、自力でプロジェクトを起こすまで、かなり時間がかかる。自力でやるとなると、道のりが長い。それを我われが入ることによって、経営者の頭を切り替えてあげる。今後の事業にこれだけは外せないね、という要素を見つけることができれば、金融機関にもメリットを与えてあげることができる。
――金融機関とITC−Laboは日常的に連絡を取り合っているんですか?
融資とどう結びつけるか

河端 残念ながら、組織的な関係じゃないんですね。俗人的なことが多いんです。金融機関にIT化を理解していただける方がいると、話が早いんですが。なかなかそういう方がいないので、IT化を融資に結びつけるのが難しいんです。そこを商工会議所とか事業者組合がサポートしているといいんですけど。
――意外に機能していない?
河端 これは大阪に限ったことじゃないと思いますが、そういうところにいらっしゃる指導員というのは、ある一定の期間、務めると指導員の資格が取れるようになっている。だからIT化の重要性や必要性を勉強しようということが、あまりないんじゃないでしょうか。もう一つは大阪の特性もあって、大阪商工会議所大阪府と近い関係にありましてね。
――いまお話になっているユーザー企業の規模、っていうのは、どんな感じなんですか。
河端 どういうわけか、売上高300億円というのが上限でして。本当は売上高が30億円ぐらいないと、なかなかきついんですけど、実際には10億円未満ということもありますよ。ただそういう場合は、中長期のマイルストーンを設定して、1年目はここまでやりましょう、2年目はこれを実現しましょう、という具合にね、段階的に進めていけばいい。それもわたしたちの仕事ですから。
――そのとき、近い将来の社会や経済の動きを予測しておかないと、時代遅れになってしまうかもしれませんね。
河端 まったくその通りです。例えばソフトウェア提供サービス、はやり言葉で言えばSaaSとかクラウドとかが話題になっていますね。中小ユーザーにそれを説明して理解してもらうより、実際のシステムとしてね、具体化しちゃった方が早い。
――これは別の取材で知ったことですけれど、携帯電話をうまく利用している事例があるんです。携帯電話がインターネットの端末になってますから、実はそれって、もうSaaSクラウドの下地が整っている、ということですよね。
河端 だと思います。携帯電話でWebアプリケーションを利用する、なんていうことが、ごく当り前になってきた。今は企業内のシステムとしてなんですけど、これがクラウドだ、なんていわずに、いつの間にか使っている。大きなリスクなしで、そういうシステムができる。企業内に限定していたシステムが、インターネットですぐ他の企業にもつながっていく。サーバーはどこにあってもいいし、アプリケーションもネットで利用できる時代ですから。財務会計システムや人事給与システムをSaaS化しても、それはそれなりに価値があるかもしれないけれど、中小ユーザーはもっとアクティブなシステムを求めている。というのはパソコンを使っているかどうかは別として、会社である以上、何らかの形で経理はやっているし、給与計算はしているんですね。これまでのやり方を変える、っていうのは結構たいへんなんですよ。それより取引先が広がるとか、製品の競争力がつくとか、ね。そこをちゃんと理解して、先読みしないと、ITコーディネータがミスリードすることになってしまう。
――いまのお話に関連してですが、これからの時代のITというのは、業務の効率化だけじゃないと思うんです。新しい価値を生み出せるかじゃないか、とかねがね思っていました。
バリューチェーンを作る

河端 そうですね。バリューチェーンなんでしょうね。インターネットで簡単にアプリケーションが連携する。他社の製品やサービスを取り込んで、自社の製品やサービスと組合わせる。サービス業なんていうのは、その典型でしょうし、製造業だってECサイトで新しい顧客やパートナーを開拓することができる。
――わたしは電子自治体も取材しているんですけど、行政サービスが民間のサービスとリンクすると、そこに新しい価値が生まれると思っているんです。中小企業だって同じじゃないでしょうか。
河端 ITというものがね、コンピュータとかネットワークとかいう個々のものを指さなくなっているんです。そのことをITCもベンダーも理解しないと、ユーザー企業に的確なメッセージを発信できない。
――システムの作り方も変わってくる?
河端 それはどういうシステムを作るかによって違うでしょうけれど、中小企業、特に売上高が10億円未満の企業ですと、要求定義があって、仕様書があって、というプロセスが通用しないことがあります。ユーザーの現場に入り込んで、一緒に作っていく。そういうこともわれわれは考慮しなければならない。
――それに近い話を聞いたことがあります。ある地方の小さなソフト会社が、地元の中小企業からシステムを受託した。その会社がどうしたかというと、ユーザーの現場にエンジニアを送り込んで、実際の仕事をさせたんだそうです。
河端 まぁそのようなことですよ。大手企業を相手にしているITベンダーには、そのような発想はないでしょう。しかし中小企業の場合、IT化に投資すると決めたら必死になりますからね。わたしが日ごろから繰り返し強調しているのは、「お客さんを実験フィールドにしてはいけない」ということです。
――先ほどの話に戻るんですが、ITCの方が経営者と一緒に経営ビジョンや組織のあり方とかを議論なるとき、ベンダーはどういう立ち位置なんでしょう。その場に参加すべきなのか、どうなのか。
河端 いまお話になっているのは、「課題の整理と問題の抽出」のフェーズのことだと思います。基本的にそれはベンダーには関係のない、といったら言い過ぎかもしれませんけど、でも、どうしても参加してもらわないと困るわけではない。ただ、案件がベンダーさん経由の場合、オブザーバーというかたちで話を聞いてもらうことがあります。
――それは何ですか。変な言い方ですが、つまり、あなた方も聞いてたよね、っていう、一種のアリバイ作りみたいなことなんですか。 
河端 いやいや、そうじゃなくて。ベンダーの方は普段、そういうチャンスがないものだから、話を聞くだけでも勉強になるみたいです。どんなふうに聞き出すんだろう、という興味もあるんでしょうね。要求定義の前段階から知っていれば、仮にコンペになっても有利ですし。わたしたちも、のちのちプロジェクトを進めていくとき、やりやすくなる。そういう関わり方じゃないでしょうか。
――ITCはあくまでもユーザーサイドでですよね。
河端 仮にその案件がITベンダー経由であったとしても、ユーザーのために仕事をしているんで、そのあたりを暗黙の了解としてご理解いただけるベンダーじゃないと、お付き合いが難しい。ですが、誤解してほしくないのは、ベンダーと協力するのがイヤだといっているわけじゃないんですよ。IT経営という視点をITベンダーにも持っていただければ、結果としてベンダーにもメリットがある。
――話は変わりますが、国の支援策ですが、一気通貫じゃないんで、使いにくいということはないですか。
河端 国に限らず、お役所の支援策というのはどうしても縦割りで、コンサルティングからシステム作り、稼動後の運用まで一貫して支援する施策はないんですね。改善の余地はありますし、できれば一貫性を持ってほしいんですけど、ただ、行き着くところはユーザー企業のIT化への理解と認識、目標がどこにあるか、でしてね。それがはっきりすれば、どこにどういう施策を適用するか、ということになるわけですよ。われわれがちゃんとした結果を示せれば、システム作りに向かって動き始める。
 
PMOを3者共同で

――その場合、ITCの方がプロジェクト管理までなさることがありますよね。
河端 ありますね。RFPのやり取りに始まって、進捗管理だけじゃなく、予算管理もしますし、要員管理もします。
――ひとつうかがっておきたいのは、そのとき、ITCの方のテリトリーというか、責任の範囲っていうのは、どういうものなんですか。
河端 ユーザーに代わってプロジェクトを進める、というのがわたしたちの役割ですから、仕様書を作って、それを実現していくわけです。
――するとITベンダーは、結局のところ、いわれたことをやるだけになってしまう。
河端 いや、そうじゃありません。そこにどういう技法や技術を適用するか、どういうパッケージを組み込むか、などはベンダーの仕事でしょうし、受託した案件をどういうかたちで再委託するか、要員をどういうかたちで整えてくるかは、ベンダーの責任であり、役割分担ですよ。それがプロとしての仕事だし、そういうプロがいなければユーザーもITCも困ってしまう。プロジェクト管理もユーザーがやる部分、わたしたちがやる部分、ベンダーがやる部分がそれぞれある。
――PMOのコアにITCがいて、ユーザーとベンダーの役割と責任を調整する。そういうことなんでしょうか。
河端 そうですね。PMOの運営をITCが担う。そんな感じでしょうか。別の言い方をすれば、プロジェクトの全体最適ですね。
――これまでのガイドラインは、ユーザーとベンダーの関係だけで論じられてきたように思うんですね。中小ユーザーにベンダーを紹介しましょう、っていっても、プロジェクトをどう進めるのか、それがポイントじゃないですか。
河端 例えばIT経営の事例を見ますとね、その7割がITCが関与していないケースなんですね。つまり意識の高いユーザーが、ベンダーをうまく使ったか、たまたまその近くにいいベンダーがいた。ですから、非常に属人性が強いんです。いろんな成功事例が紹介されていますが、どうも他に展開しない。それだと地域の中小企業のIT化は、なかなかうまく行かない。情報サービス産業協会の地域部会が目標にしているITの地産地消も、属人性の壁を突破しないと展望が開けないように思います。
――であればね、例えば大阪でITC−LaboとJISAの大阪支部が協力して、ユーザーを巻き込んで、どうすれば属人性の壁を低くすることができるのか、そういうことを研究することがあってもいいですよね。何を解決すればいいのか、何が障害なのか、阻害要因を調べていく。
河端 あ、それは是非やってみたいですね。ユーザー、ITC、ITベンダーの三者がどういう役割を担っていくか、どういう協力体制を作るかを、一つのモデルにできるといいですね。それが「大阪モデル」というかたちで全国に普及したら、もっといい。全国に通用するでしょうし、別のモデルが出てくるかもしれない。東京にも「地域」はあるわけですから。
――最後はなんだか誘導みたいになってしまって恐縮ですが、地域の中小企業のIT化を支援することは、結果として地域の活性化につながる、ひいては地域のベンダーも潤うと。長時間、ありがとうございました。