IT記者会Report

オリジナルな記事や送られてきたニュースリリース、セミナーのプレゼン資料など

エッセイ

大洪水の中欧、驚きのショート・トリップ 現代史の痕跡を訪ねて(3)

ドレスデンをあとにフランクフルトへ、まことに結構な欧州列車の旅だった。ドイツ新幹線ICEだ。車窓の景色は、まだ実際に行ったことはないが、北海道の美瑛を思わせるような、緑の丘と森や林が連なる景色。一面黄色の花で覆われている丘もあった。ただし、出…

大洪水の中欧、驚きのショート・トリップ 現代史の痕跡を訪ねて(2)

プラハからドレスデンへの国際急行は、氾濫したヴァルタヴァ河、エルベ河を、コンパートメントの窓際席から数メートルの高さで見下ろしながらの行程となった。TVニュースが伝えていた場面が次々と現れる。コースが大きくカーブしたところでは、幅広の濁流が…

プロセス革新をめぐる断想(3)

『老子』の「数車無車」(車を数えて車なし)についての考察の続き. 初めの「数車」(車を数える,すなわちその構成部品に分解する)における「車」は具体的な対象を示す名詞である.老子の時代であれば,そこにある馬車,牛舎,あるいは大八車を指している…

大洪水の中欧、驚きのショート・トリップ 現代史の痕跡を訪ねて(1)

ちょっとした用件というか口実があって、欧州5泊6日の一人旅に出た。気ままな個人旅といっても、往復航空券とホテルは予約購入済みなので、あらかじめ決めたコースを列車で巡る観光旅行にすぎない。ルートはチェコのプラハ、ここからドイツに入ってドレスデ…

ICSSP2013 に参加して

5月18〜19日にICSE inサンフランシスコの併設イベントとして開催されたICSSP2013に参加した.以下はその概略報告. 1. ICSSP とは 正式名称はInternational Conference on Software and System Process.1984年から1996年まで ISPW (International Workshop…

プロセス革新をめぐる断想(2)

岐阜で行われた SS2013 PC Meeting の翌日,信州・駒ヶ根で伊那谷に住む老詩人・加島祥造の講演を聴く機会があった.老荘思想をベースにした癒し系の詩集『求めない』,『受いれる』(いずれも小学館)で近頃は有名だが,もともとは英文学者で荒地グループの…

プロセス革新をめぐる断想(1)

松尾芭蕉の作といわれる次の俳句: 「蝶鳥の知らぬ花あり秋の空」 をどのように理解したらいいのかについては,これまでにさまざまな議論がなされてきた.単純にこの句を叙情的に読めば,美しく晴れた秋空全体を巨大な一輪の青い花として認識した作者の心情…

Short Break for Poems

ソフトウェア・シンポジウム2013 in 岐阜(7/8-10 @ 長良川国際会議場)の参加者募集がいよいよ始まった(http://sea.jp/ss2013/).ちょうどよい機会なので,この場を借りて,岐阜が生んだ江戸末期の女流詩人の作品を紹介しておきたいと思う. 江馬細香(1787…

プロセス・プログラミングの功罪

1986年秋に,ロッキー山中のスキーリゾートで,ICSEのプログラム委員会と併設のかたちで開催された第3回国際プロセス・ワークショップ(ISPW-3)は印象深い会合だった.わたしは,鳥居宏次・斉藤信夫の両先生と一緒に参加したのだが,なにしろ海抜3千数百…

能動的コミュニケーション

ソフトウェア開発のさまざまな局面においてコミュニケーションのトラブルが発生する.たとえば,要求仕様書の趣旨が設計者にうまく伝わらないとか,プログラマが設計書の内容を誤解してとんでもないコードを書いてしまうとか,である.そうした状況について…

活かせ! ソフトウェア・エンジニアリング実証ノウハウ集積体 必ず産業界に役立つIPA/SEC 10年の生産物(下)

2.編み出された全体ソリューション これらの文書は一見ばらばらのように見えるが、その実態は網の目のように関連していて、ソフトウェア・エンジニアリングの広い世界に懸命に見通しの良い解を与えようとしている。 一例として一つの視点ではあるがつぎの…

活かせ! ソフトウェア・エンジニアリング実証ノウハウ集積体 必ず産業界に役立つIPA/SEC 10年の生産物(上)

小泉内閣の総合科学技術会議に端を発する情報処理推進機構、ソフトウェア・エンジニアリング・センター(IPA/SEC)は、この4月から第3期中期計画に突入した。中期計画の期間は5年だから、この組織は準備期間を含めて10年目の区切りを経て、11年目をスタートし…

コミュニティについて

コミュニティという用語は,もともと社会学から来ており,ひとつの地域の住民がその風土的特性を背景とする帰属意識を持ち政治的な自立と独自の文化を追求する共同体のことを意味している.現在では,それから転じて,物理的な地域を越えた国際的連帯組織な…

時の流れとソフトウェア・プロセス

ソフトウェアの実体は,なんらかのデータ処理プロセスの記述である.それは,当然のことながら時間の要素を含んでおり,ある種の構造を用いて時間の流れ(経過)を表現するかたちになっている.しかし,「構造」の概念はあくまで空間的なものであり,もとも…

たかがドメイン,されどドメイン

禅における悟りの表現として,宋代・黄檗宗の禅僧・青原惟信(Qing-yuan Wei-xin)の述懐がしばしば引用される: わたしが参禅する以前,山は山,水は水にしか見えなかった.禅の道に入り修行を積んで行くうちに,もはや山は山でなく,水も水ではなくなってし…

ドメインの誘惑

いま上海に来ている.今宵は元宵節.大気汚染の警告など無視して、あちこちの街角で花火が打ち上げられている. - 革命家としては一流,しかし政治家としては見事に落第生だった毛沢東には,もうひとつ文学者としての顔があった.そして,その分野では,「詞…

ダイアローグ(対話)について

対話において,だれかが何かを発言した場合,相手が話し手の予想通りには反応しないのがふつうである.ふたりが使うコトバの意味は,表面上似ているように見えて,実は同じではない.そのことに両者が気づき,そしてお互いに自分の最初の考えに固執しないと…

シリコンバレー、その驚愕の姿 Silicon Valley Index 2013に見る産業集積地の実相(下)

経済Economy 「雇用」「イノベーション」「起業家精神Entrepreneurship」「商業空間」「収入」という5つの項目に沿って沢山のデータが示されている。□雇用 『シリコンバレーの雇用回復は州や全米の傾向よりも速い』という小見出しが付いている。 ◯2011年から…

シリコンバレー、その驚愕の姿 Silicon Valley Index 2013に見る産業集積地の実相(上)

いったいシリコンバレーとはどんなところなんだろう。行って見て、少々の調査をしたところで、その姿は容易にはつかめない。しかしここにそのマクロな姿を推し量るのにとても良いドキュメントがある。Silicon Valley Indexといい、毎年発行されている*[1]。…

終わらない対話

ひたすら抽象絵画の制作にのめりこんでいた学生時代,専攻の理論物理学の勉強はほとんど放棄したのだが,1冊だけまじめに最後まで読み通した専門書(といっても難しい数式はパスした)があった:デヴィッド・ボームの『量子論』.いまもわたしの本棚の隅に…

ベスト・プラクティス?

6月末にアイルランドのダンダルクで開催される EuroSPI2013 だが,「20周年を記念して例年3日間の会期を1日延ばして何人かに記念のキーノート・スピーチをしてもらう.お前も何か話せ」というリクエスト・メールが飛んできた.ありがたく招待をお受けして “I…

ウォータフォールはアジャイルなのか?

わたしに18世紀江戸哲学の魅力を最初に教えてくれたのは,この連載コラムの冒頭に書いたように,子安宣邦さんの『事件としての徂徠学』だった.この本は現在,ちくま学芸文庫に入っているが,わたしが行きずりの書店の棚で偶然に発見し,「事件としての」と…

世界の階層構造について(2)

(承前) 「苗族古歌」では,次に「和尚さん」たちのうちでだれが最初にやって来たのか,すなわち,この世界の創造者はだれなのかを問題にしている. ♪たくさんやってきたというけれど どうなんだろう? 最初は4人やってきたんだって? それはだれとだれ? …

世界の階層構造について(1)

これまでソフトウェア工学の世界で提案されてきたモデルは,階層構造のパターンを利用したものが多い.その典型的な例は,1988年の ICSE inシンガポールでD.ぺリー& G.カイザーの2人が発表した論文「ソフトウェア開発環境のモデル」だろう.W.ハンフリーさん…

プロセス・モデルと東大話法

1970年夏、初めてのアメリカ訪問のさいに,いきなり飛び込んだ WESCON’70 の会議で,いわゆるウォータフォール型プロセス・モデルを世の中に紹介したウィンストン・ロイスさんの講演 “Managing the Large Software Development Systems “ を聴くことになった…

プロセス論議の原点

50年ほど前に,絵描き修行の世界からコンピュータ・プログラマに転進したとき,わたしにとって一番役に立ったのは「美術の目的は,目に見えるものを再現するのではなく,見えないものを見えるようにすることだ」という画家パウル・クレーのコトバだった. 19…

Where Are We Now?

ご贔屓のロック・シンガーのひとりデヴィッド・ボウイが久しぶりに新曲を出したというので,さっそくインターネットに流れているプロモーション・ヴィデオを眺めてみた.タイトルは “Where are we now?”. 歌詞も映像も,10年前と変らぬスマートな出来栄え…

ソフトウェア・エンジニアリングの世界のマニフェスト(3)

実証的なソフトウェア・エンジニアリングの研究は産業界と学界の協力を必要とする。 我々は ISERN に学界からと同様に産業界のグループからの参加を期待する。 ISERN への参加でつぎのような利益が期待できる。 研究者のメリット 実験的なソフトウェア・エン…

ソフトウェア・エンジニアリングの世界のマニフェスト(2)

つぎに、ISERNの目的と焦点として、次のような記述が続く。 『ソフトウェア・エンジニアリングは比較的新しい、そして未熟な学問である。それを成熟させるために、我々は研究への実験的な観点を、次のようなことができるように適合させてゆく必要がある。つ…

ソフトウェア・エンジニアリングの世界のマニフェスト(1)

選挙の季節、「マニフェスト」が話題だが、マニフェストは必ずしも「選挙公約」だけを意味しない。「声明文」とか「宣言文」と訳した方がふさわしい使い方もされる。ここではソフトウェア・エンジニアリングの世界で長い間立派に機能してきた一つの「マニフ…