IT記者会Report

オリジナルな記事や送られてきたニュースリリース、セミナーのプレゼン資料など

エッセイ

ソフトウェアとコトバ(7)

「人間という生物は,コトバそのほかの記号を用いて,いくつもの世界を何もないところから創り出す」 というのが,エルンスト・カッシーラーの主張であった. 没後出版された『国歌の神話』(創文社)では,ナチスをはじめとする20世紀の全体主義体制を,運…

架橋目撃 都市のダイナミズムと言わずして

東京・芝浦のタワーマンションの中程に住んで6年になる。今回、の目の前でちょっとエキサイティングな建設イベントが展開された。隅田川橋梁(仮称)架設工事。大型フローティング・クレーンによる水上一括架橋方式だ。以下、聞いてほしいその目撃談。 書斎…

ソフトウェアとコトバ(6)

言語はなぜ全面的に変化しないのか? なぜ古い言語を土台として再形成されるのか? 話し手はなぜ自分の考えを表現する言語を新しく発明しないのか? 「こういった問題を理解するには,人間の歴史が言語活動の歴史と合致しているという事実を了解する必要があ…

ソフトウェアとコトバ(5)

『共時態・通時態・歴史』の第3章でエウジェニオ・コセリウは,言語の変化について次のように述べている: 言語はなぜ変化するのか(あるいは,なぜ不変でないのか)と問うのは,言語がなぜそのように変化するものであるのか(変化がなぜ言語の本性に属する…

ソフトウェアとコトバ(4)

言語学者エウジェニオ・コセリウは『共時態・通時態・歴史』の冒頭で,「言語は絶え間なく変化する.変化せずしては機能しえない」というシャルル・バリーの発言を引用しつつ、次のように述べている: 言語変化の問題は明らかに根本的な論理上の困難さを内包…

ソフトウェアとコトバ(3)

18世紀初めに彗星のごとくあらわれた天才・富永仲基の存在が,当時は一種のスキャンダルとしてしか扱われなかったことは,日本における思想史を考える上でいささか不幸なことであった. 江戸時代にこの国の経済を支える中核として機能していた商都・浪速は,…

ソフトウェアとコトバ(2)

1921年ルーマニア生まれのエウジェ二オ・コセリウという言語学者の名前を知ったのは田中克彦さんの本で『うつりゆくこそことばなれ』(原題は『共時態・通時態・歴史 − 言語変化の問題』)というかれの主著を教えられたからだった.富永仲基(とみなが・なか…

ソフトウェアとコトバ(1)

この連載コラムを書きはじめたのは去年の1月だった.1年間が過ぎてみると,ほほ毎月4回ずつ書いたことになる.今年は,Moonlight Painting に力を注ぐつもりなので,コラムの執筆速度は半分くらいに落ちるだろう.長かった正月休みとそのあとの3連休を利用し…

私の「犬島」紀行(2)

遙か昔に風化して屋根の無くなった沢山の煉瓦状のブロックを積み上げたさまざまな壁の建物跡が連なる。壁を構成するブロックが凄い。表面は黒色で何かを溶かし固めたような複雑な文様で、大きさは見慣れた煉瓦よりずいぶん大きい。 それは見たこともない大迫…

私の「犬島」紀行

近年トレンディなアート空間として国際的にも大人気の瀬戸内の島々。その中でも「直島」はこうした活動の中心だ。仕事が一段落の正月明け、「少しは日本を知ろう」などと理由をつけて行ってみた。そこでベネッセのすばらしい施設を堪能しながら隣のアートの…

中央の儀

「中央の儀」と呼ばれる政治的意思決定システムが足利時代に確立されたということを,何年か前に,歴史学者・笠松宏至さんの著書『法と言葉の中世史』(平凡社ライブラリ)で教えられた. ここで「中央」とは「真ん中」を意味するのではなく,「香炉を乗せる台…

3人のヨーゼフ(その2)

1980年代のわたしは,Daylight Business としてのコンピュータ・ソフトウェア関係の仕事に追いまくられていて,Moonlight Painting に時間を割くゆとりはほとんど存在しなかった.学生時代に友人たちと結成した「いすグループ」の芸術活動が復活して,1985年…

3人のヨーゼフ(その1)

海外出張その他の雑用のせいで,このエッセイの執筆間隔が少し空いてしまった.このままだと年内にNo.40 までという自分に課したノルマを達成できそうもないというので,一昨年,友人たちと開いている絵のグループ展に書いた小文の改訂版を3回に分けて載せ…

ソラリスからの眺め

ポーランドのSF作家スタニスワフ・レムが30年以上も前に発表した『ソラリスの陽のもとに』(ハヤカワSF文庫)という作品がある.海におおわれた惑星ソラリス。その有機質の広大な海自体が,高度な思考能力を持つ知的生命体だと判明した.人類は海の謎を解き…

芸術の秋、上野の美術展で体感する驚愕の映像インパクト

芸術の秋、上野の美術展で体感する驚愕の映像インパクト 芸術の季節、沢山の魅力的な美術展が開催される。その中で、上野でたまたま3つの素晴らしい展示会を楽しんだ。行って見て、その強烈な映像展示に驚嘆した。今、上野で何か凄いことが進行中なのではな…

アーカイブ考

先週,上海での2つのフォーラムが終わったあと,事前の計画通り,普陀山と寧波への小旅行に出かけてきた. それまで地名しか知らなかったに等しい寧波という街に興味を惹かれたのは,略称「にんぷろ」と呼ばれる文科省特定領域研究プロジェクトの成果をまと…

展示会シーズン幕開け、駆け足見学記

産業の底力が見える「国際航空宇宙産業展」 2日から有明で開催されたのが、「東京国際航空宇宙産業展」。これはIT領域でしか活動していない筆者にとっては「知らない世界」だ。航空宇宙産業といっても印象としては非常に多岐にわたる。産業分野の項目だけ見…

展示会シーズン幕開け、駆け足見学記(1)

あの暑かった夏が去って、秋、一気に展示会シーズンとなった。激動の現代社会になんとかついていきたい気持ちで、幕開けの3つの展示会を駆け足で見学した。 まずは幕張の「CEATEC」、次いで有明の「国際航空宇宙産業展」、そして「ITproEXPO」。セレクトした…

カーニヴァルとフリー・ソフトウェア

ドストエフスキー文学の本質が永遠の真理をめぐる未完結の対話を描いたものだと見抜いたのは,たしかにミハイル・バフチン(1895〜1975)の慧眼であった.かれが,レーニンやトロツキーあるいはスターリンをさしおいて20世紀ロシアが生んだ最高の思想家だと…

日常としての異文化

われわれは初めから人間として生まれてくるわけではない.人間の家庭で生まれ,育てられ,人間の社会で成長することによって人間に「なる」のだと,オルテガ・イ・ガセットは述べている.その証拠に,赤ん坊のときジャングルに置き去りにされ,狼の家族に育…

「伽藍とバザール」再考

「伽藍とバザール」として広く知られているエリック・レイモンドのエッセイ “Cathedral and Bazaar” だが(初出は1997年), 日本語訳で Cathedral に「伽藍」という訳語をあてたのには,いささか違和感を覚える.正確には「大聖堂」とすべきではなかったろう…

異文化交流

混一疆理歴代国都之図(こんいつきょうりれきだいこくとのず)と呼ばれる地図がある.「混一」は統一と同じ意味(混然一体の混),「疆」は国境あるいは国土を意味する.すなわちこの地図は,「歴史上の各国首都を一覧にした図」である. オリジナルは「大元…

「伽藍とバザール」再考

「伽藍とバザール」として広く知られているエリック・レイモンドのエッセイ “Cathedral and Bazaar” だが(初出は1997年), 日本語訳で Cathedral に「伽藍」という訳語をあてたのには,いささか違和感を覚える.正確には「大聖堂」とすべきではなかったろう…

インターネットの海

これまで20年ほど,いつも9月に開いてきた絵のグループ展が前回で打ち止めになり,今年の夏は少し時間の余裕ができたので,創作エネルギーの蓄積を目的としてあちこちの展覧会を観たり,読書に精を出すことにつとめた. この夏に読んだ本のなかで一番刺激を…

終わらない物語

7月初めに岐阜で開催されたSS2013のワーキング・グループ趣旨説明で,「ときには何かをすることが何ももたらさない結果になる」というサブタイトルのついたフランシス・アリスのヴィデオ作品を紹介した. これは,スーツケース大の氷の塊をアーティスト自身…

表現の背後にあるもの

ふと立ち寄った書店の棚に「言語学の教室」(中公新書)という小冊子を見つけた.この本は,西村義樹(言語学),野矢茂樹(哲学)のおふたりの対談形式で認知言語学とは何かをわかりやすく解き明かした好著だと思う. 冒頭に掲げられているのは間接受身表現の例…

Yet Another Short Break for Art

佃さんに誘われて,東北大地震被災地3年目の視察ツアーに参加した.TVの画面で見た光景と現地での360度の景観との大きな落差に一種の衝撃を受けた.ツアーの詳細報告はいずれ佃さんが書かれると思うので,ここでは別の話を. 被災地への往復に際して,往路は…

猫は元気か

量子力学の分野における「観測者問題」に関して,「シュレーディンガーの猫」と呼ばれる有名なメタファがある. 箱の中に猫を入れて蓋を閉める.箱には特別な仕掛けがしてある.ラジウムを入れた容器がひとつ.いつ崩壊してアルファ線を放出するかはわからな…

プロセス革新をめぐる断想(4)

6月の末にアイルランドでの EuroSPI 2013 Conference に参加したが.開催地ダンドークへ移動する前,時差調整を兼ねて滞在した首都ダブリンの市立美術館(Hugh Lane Gallery)でFrancis Bacon Studio の展示を観る機会があった. アイルランドが生んだ20世紀…

大洪水の中欧、驚きのショート・トリップ 現代史の痕跡を訪ねて(4)

[日本に戻って] トランジットに寄ったアムステルダムの空からの眺めにはじまって、季節外れの寒波と大洪水のさなかのプラハ、そこから溢れるヴルタヴァ河、エルベ河沿いに列車の旅でドレスデンへ、そしてフランクフルト、さらにカイザースラウテルンと歴史…