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【ビジネスジャーナル】マイナンバー、事故続出で制度失敗か…番号誤表記、システム事故多発でも「原因不明」

 スタートした直後からトラブルが続くマイナンバー制度。番号通知カード送付の遅滞や未着は郵便事情や居住の流動化が要因として、同じ番号が複数の人に割り振られたり、システムが円滑に動かないとなると、制度の運営そのものに疑問符が付く。年明けから断続的に発生しているシステムダウンの原因は、いまも「鋭意調査中」だ。

番号通知が未達でも制度は不変

 マイナンバー制度は通称で、正式名称は「社会保障・税番号制度」。その名の通り、社会保障(年金・労働・医療・福祉)と所得税の行政手続きで個人を特定するために使われる。当初のプランでは税金や年金・健康保険料を確実に徴収するのが目的だったが、東日本大震災をきっかけに災害時の被災者台帳や生活再建支援金給付の用途が追加された。
 番号通知カードの配布が始まったのは昨年10月。昨年末に558万通あった未達数は240万件ほどに減ったとはいえ、「完璧は無理」と関係者はいう。住民票をそのままにして生活の場を海外に移していたり、河川敷で暮らすホームレスになっていることもあるだろう。ただ、通知カードが未達でも番号はすでに割り振られているので、制度そのものに影響はない。
 システム開発に2000億円、全国1718の市町村が運用するITシステムの改修補助に689億円、番号通知カードの発送に270億円、マイナンバーカードの発行に112.5億円……と大盤振る舞いだが、にもかかわらず滑り出しは順調とはいえない。
 5000世帯分の番号通知カードが作成されていなかった(東京都葛飾区)、住民票に誤ってマイナンバーが記載された(取手市、札幌市)、異なる男性2人に同じ番号が割り振られていた(長野市坂出市)といったトラブルが発生した。恣意的な運用次第で「国による国民の管理・監視」が可能となるだけに、厳しく批判されるのはやむを得ない。
 行政の無謬原則に立てば「あってはならない過誤」なのだが、批判する人もある程度までは「何事にも完璧はない」と許容しているところがある。しかし、ここにきて表面化しているマイナンバーカード(個人番号カード)の交付遅滞はどうだろう。アクセス集中によるサーバーの処理能力不足とされるが、真の原因は不明という。問題の根は深そうだ。


複雑なパスワードと暗証番号

 カードを交付するには、申請者が受け取りに来たとき、当該市町村の職員が専用端末を操作してカードを利用できるようにする。具体的には、内蔵ICチップの情報を読み取って地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が運営するセンターサーバーに接続し、申請者が申請したパスワードと暗証番号を設定する。
 暗証番号は(1)署名用電子証明書、(2)利用者証明用電子証明書、(3)住民基本台帳、(4)券面事項入力補助の4種あり、(1)は英数字6文字以上16文字以下、(2)~(4)は数字4けたとなっている。(2)~(4)は同じでも構わないのだが、その意味や用途をひとりずつ説明したうえで個々に設定するので、それだけで一仕事だ。
 用語がチンプンカンプンなうえ、いきなりパスワードと暗証番号を求められれば、戸惑うのは高齢者ばかりではない。類推しやすい所番地や生年月日、固定電話の下4けたなどは使わないほうがいい、と注意されればなおさらだ。
 制度がスタートする前、市町村職員の間から「カードの交付は混乱必至」の声が上がっていた。公的介護制度や生活保護制度なども同様だが、国が制度を定め、市町村に実務を担わせる「二階建て行政」では、中央官僚の理屈が優先され、現場が無視されることが珍しくない。


滞留数は想定の半分でも、なぜトラブル?

 そのシステムがトラブルを起こしている。総務省によると、マイナンバーカードの申請は890万件、うち581万枚が市町村に発送され、すでに91万枚が申請者に手渡されている。差し引き490万枚が市町村の窓口に滞留していることになる(数値は3月2日現在)。
 滞留の原因は、センターサーバーのシステムトラブル。交付作業が本格化したことに伴ってセンターサーバーにアクセスが集中した。その結果、サーバーの処理速度が遅くなるばかりか、処理能力を超えてダウンしてしまう。システムダウンは1、2月で計7回、システム・フリーズはほぼ毎日という。
 政府は、初年度(2016年3月末まで)のマイナンバーカード交付枚数を1000万枚と想定している。890万枚という数字はその範囲内、滞留分490万枚は想定の半分にすぎない。にもかかわらずサーバーがトラブルを起こすのはなぜなのか。J-LISはサーバーを1台追加して3台体制としたが、トラブルが収まらないため現在は4台。それでも処理速度が改善しないとあって、J-LISは「鋭意調査中」と言うほかない。

 システムを所管するJ-LISがそれでいいのか、と批判する向きもあるが、内実を知る人にとっては想定された事態といえる。J-LISは総務省の外郭団体、つまり官僚機構の延長で、システムの構築・運用は大手ITベンダーに任されているのが実情だからだ。
 かつて市町村のITシステム市場は国産コンピュータ・メーカーを育成する役目を負っていた。パソコンとオープンシステムの普及でその役割は低下したが、NEC東芝日立製作所富士通、NTT系SIerが国や自治体のシステムを主導する構図は変わっていない。

 
共同無責任の末の泣き寝入り

 マイナンバー関連システムの入札では、「中間サーバー・プラットフォームの構築・運用業務」をNECが14年12月に約200億円で、「情報提供ネットワークシステム」と「番号生成システム」はNTTコミュニケーションズNTTデータ富士通NEC日立製作所の5社コンソーシアムが14年3月に計192億円で落札している。
 実は「情報提供ネットワークシステム」と「番号生成システム」はいちど入札が不調(不成立)となり、再度の入札で5社連合が単独応札したという経緯がある。住基ネットに関わったITベンダーが協力するほうがいいという説明は一理あるようだが、不調後に大手5社のコンソーシアムが実質的な随意契約で落札した背後を疑問視する向きもある。
 今回のシステムトラブルはそれとは無縁であるかもしれないが、5社コンソーシアムがアーキテクチャーや開発手法を共有せず、バラバラに処理プロセスの開発を分担してつなぎ合わせただけだとすると、十分に推測できるのは共同無責任ないし責任を押しつけ合った末に国民が泣き寝入りする構図だ。それは聖火台の設置を忘れた新国立競技場のドタバタとよく似ている。
「国民の利便」「行政の効率化」を謳う国の制度とシステムに振り回される市町村、改善の指摘を無視したまま新しいシステムで糊塗する。住民基本台帳ネットワークシステムと同じ轍を踏まないためには、本格運用が始まる前にいちど立ち止まったほうがいい。国が主体となってシステム要件を再確認し、不具合の原因を徹底的に究明すべきだろう。それは今をおいてほかにない。