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PEZY詐欺疑惑は”藪の中” 「ベンチャーは民間が育てよ」の教訓(2)

 Gyoukou(暁光)の論理処理能力14.13ペタFLOPS(Floating-point Operations Per Second)は、小数点以下が限りなく続く演算(浮動小数点演算)を1秒間に1京4130兆回実行する能力をいう。パソコンに搭載されているインテル社のCore i7の理論値が最高560ギガFLOPSだから、単純計算で2万6000倍も速い(といってもピンとこないが)。今回の件は別として、助成金の成果として実機を開発してきたのは事実である。 

「京」は1120億円で世界4位

 それがなぜ? が正直なところだ。

 「超広帯域Ultra Wide-IO 3次元積層メモリデバイス」がどういうものかについては専門家に任せるとして、国産のスパコンではNEC富士通、日立といった顔ぶれが思い浮かぶ。このうち富士通理化学研究所は、文部科学省の「次世代スーパーコンピュータプロジェクト」で2012年6月、理論性能10ペタFLOPSの「京」を開発している。その総予算は1120億円とされる。

 「京」はGreen500で世界4位にランクされたが、折しも民主党政権下の政策事業仕分けで、「世界1位を目指す」とした継続事業について「2位じゃダメなんですか」の名言(?)を引き出した。開発費が巨額な割に成果に結びつかないというのが理由だった。

 このときPEZY社が登壇していたら話は違っていただろう。2010年からNEDOが拠出したのは34億円余、仮にその倍の70億円で世界トップクラスのスパコンができるなら大したものだ。 

「用途外」もアリがベンチャーというもの

 もう一つ言えるのは、もしPEZY社が国の助成金を受けていなかったら、今回の詐欺疑惑は生まれなかったということだ。国の予算は税金なので、”遊び“が一切許されない。

 案件の「メモリデバイス」に関連して、それを実装するマシンの設計・開発に流用しても、監査担当者の判断一つで「用途外」になってしまう。だがその程度の「用途外」もアリなのがベンチャーというものだ。

 同じ経産省が所管する情報処理推進機構IPA)が2000年度にスタートした「未踏」プロジェクトは、スーパークリエータ、つまりユニークで世界に通用するIT人材の発掘と育成が目的だ。こちらは成果物に大きなウエイトがないのだが、それでも予算執行は堅苦しい。

 反面、書類さえ整っていればOKという甘さもある。「PEZYの用途外が詐欺なら、NEDOの監査は節穴ではないか」という声もある。要するに、ベンチャーは国に頼るな、ベンチャーは民間が育てよ、ということだ。大企業には兆単位の内部留保が溜まっている。いずれにせよ、PEZY社の事業継続に黄色信号が点滅し、国産スパコンは世界の最前線から一歩後退するかもしれない。誰が得をするのだろう。