IT記者会Report

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3月期2015年度業績 就業者1人当たりの実質は減収減益

「利益なき繁忙」の現実を直視せよ

 3月期決算ICT関連上場企業332社の業績推移を改めて整理する。332社全体の対前年度実績増減率は売上高△0.6%、営業利益▲7.3%、経常利益▲11.5%、純利益▲8.5%の増収減益だが、1社当たりだと売上高は△4.3%に、営業利益も▲3.9%に圧縮される。「いずれにしても増収減益」という結論になりがちだが、両方とも見かけに過ぎない。就業者1人当たりの実質は、売上高▲0.7%、営業利益▲8.5%、経常利益▲12.7%、純利益▲9.7%の減収減益だ。「利益なき繁忙」の現実を直視しなければならない。 

⬆️ IT記者会Report 2016年5月26日号(PDF)はここからダウンロードできます

単純集計では何も分からない

 経済産業省の特定サービス産業実態調査をはじめとする業績調査の多くは売上高を中心に集計する。売上高が増え・減った、大きい・小さいが当該産業(業種)の状況を示すと考える向きが少なくないのだが、そのような単純集計はあまり意味がない。というのは、集計対象企業が入れ替わるばかりでなく、就業者数が増減するためだ。
 例えば3月期決算ICT関連上場企業の業態・業種別で「最も大きい」のは、第1義的には「電子機器・情報処理装置」の52兆7,741億96百万円だが、「モバイル通信サービス」という答えもある。1社当たり売上高は「モバイル通信サービス」が3兆6,427億07百万円で、「電子機器・情報処理装置」2兆1,989億25百万円の1.65倍もある。
 また売上高だけでは当該の企業や業態、業種の特性、時系列の変化を読み解くのはほとんど不可能といっていい。「最も大きい」を営業利益で見れば、絶対額と1社当たりの最大は「モバイル通信サービス」、就業者1人当たりは「オンラインゲーム」であって、「電子機器・情報処理装置」はICT関連産業の主役ではないことが見えてくる。 

2期連続321社を単純比較する

 2014年度通期業績を集計した3月期決算ICT関連上場企業334社のうち、2015年度の通期業績の集計対象となったのは321社だった。この321社の集計諸元について、2014年度実績と単純比較する。

 ◆就業者数(暫定値)
 有価証券報告書が未発表なので、Yahoo!ファイナンスhttp://profile.yahoo.co.jp/)の企業概要に表示されている2016年5月20日現在の数値を主に採用し、一部は当該企業ホームページを参照している。非正規雇用数は2015年3月期の数値もしくは2015年11月20日現在の企業概要を用いた暫定値だが、極端な変動はないと推定できる。
 連結ベースの就業者数は△1.6%の339万1,801人だった。内訳は正規雇用が△2.1%の302万9,853人、非正規雇用が▲2.0%の36万1,948人、単独・個別が△3.2%の60万3,798人で、非正規雇用率は▲0.4ポイントの10.7%、全体に占める連結単独・個別の割合は△0.3ポイントの17.8%となっている。連結、単独・個別とも正規雇用を増やし、非正規雇用を減らす傾向がはっきりした。
 連結ベースの正規雇用数を増やしたのは「電子部品」の3万9,644人が最も多く、「総合サービス」7212人、「モバイル通信サービス」4659人と続いている。逆に正規雇用数を減らしたのは「電子機器・情報処理装置」の3,070人が最も多く、「ゲームソフトウェア」152人、「システム販売」14人となっている。
 「電子機器・情報処理装置」は連結ベースの正規雇用数が3,070人減ったが、単独・個別の正規雇用数が4,552人増えており、連結子会社の事業再編が進んでいることをうかがわせる。また「登録型要員派遣」では非正規雇用数が2,374人減り正規雇用数が2,006人増えており、派遣事業法改正の動きに対応して非正規雇用者の正規雇用化が実施されていることが分かる。

 ◆平均年齢と平均年収
 就業者(単独・個別ベース)の平均年齢は41.1歳で2014年度から0.04歳(約0.5月)若返った。若返り率が高かったのは「ASP/SaaS」の▲0.63(230.7日)、「システム販売」の▲0.12(45.6日)、「電子部品」の▲0.10(34.7日)、高齢化率が高かったのは「ゲームソフト」の△0.65(237日)、「業務代行/BPO」の△0.23(84.7日)、「機器流通・卸売」の△0.18(65.6日)の順だった。
 平均年収は738.84万円で2014年度実績比▲0.38%(2万8,207円)だった。上昇額が大きかったのは「ゲームソフトウェア」の51万3,799円、「ASP/SaaS」の7万3,000円、「オンラインゲーム」の6万4,854円、減少額が大きかったのは「機器流通・卸売」の5万2,798円、「FMS/システム運用管理」の3万2,165円、「業務代行/BPO」の2万1,830円だった。

就業者1人当たりの実質で見ると……

 ◆売上高
 2期連続比較が可能な321社の売上高は101兆0161億64百万円で対2014年度比は△0.9%だった。対2014年度比が高かったのは「オンラインゲーム」の△37.2%、「ASP/SaaS」の△36.9%、 「登録型要員派遣」の△24.6%、「デジタル・コンテンツ」の△17.5%。逆にマイナスだったのは「アミューズメント機器」の▲2.6%、「電子機器・情報処理装置」の▲2.1%、「機器流通・卸売」の▲1.5%で、ハードウェア系カテゴリーの売上減が目立っている。
 業績の実質を示す就業者1人当たりで見ると、321社全体の売上高は対2014年度比▲0.7%の2,978.2万円だった。最も大きかったのは「モバイル通信サービス」の1億0,315.1万円、次いで「オンラインゲーム」8,522.4万円、「ISP/MVNO」6,870.2万円の順。ネットサービス系業種が上位を占めた。
 全体の平均2,978.2万円を下回ったのは「FMS/システム運用管理」1,235.0万円、「業務代行/BPO」1,293.8万円、「ソフトウェア開発」1,530.5万円、「電子部品」1,736.6万円、「登録型要員派遣」1,868.3万円、「ソフトウェア・ライセンス」1,875.7万円、「総合サービス」2,256.8万円の7業務だった。受託系の全5業務が平均値を下回った。
 売上高の対2014年度比が▲0.7%の減収となったのは、最大の売上高構成比(52.2%)を持つ「電子機器・情報処理装置」の売上高が▲2.1%(1人当たりは▲1.9%)となったのが要因。さらに全体に占めるウエイトは1.9%と小さいが、「機器流通・卸売」も▲1.5%(1人当たりは▲8.4%)となるなどハードウェア系の落ち込みが目につく。 

 ◆営業利益
 321社の営業利益総額は6兆7718億02百万円で、対2014年度比は▲7.1%だった。売上高に占める営業利益の率(営業利益率)は6.7%で、2014年度実績から▲0.6ポイントだった。リーマンショック直後(2008年度下期~2009年度上期)に3.1%に急落、2013年度7.4%、2014年度7.3%と2年連続で7%台を維持したが、2015年度は下向きに転じたことになる。
 営業利益率が2桁だったのは「オンラインゲーム」30.6%、「ASPSaaS」29.3%、「アミューズメント機器」16.6%、「モバイル通信サービス」14.4%、「ソフトウェア・ライセンス」10.9%、平均値6.7%を下回ったのは「電子機器・情報処理装置」2.4%、、「システム販売」3.3%、「ISPMVNO」3.9%、「機器流通・卸売」4.0%、「登録型要因派遣」5.4%、「業務代行/BPO」6.2%だった。
 1人当たり営業利益は▲8.6%の199.7万円だった。対2014年度比▲8.8%を下回ったのは「電子機器・情報処理装置」▲42.4%、「ISPMVNO」▲42.1%だった。対2014年度比が高かったのは「オンラインゲーム」△55.5%、「デジタル・コンテンツ」△32.4%、「ソフトウェア開発」△18.1%などとなっている。
 平均営業利益199.7万円を下回ったのは「電子機器・情報処理装置」73.2万円を最低に、「業務代行/BPO」80.2万円、「登録型要員派遣」101.1万円、「ソフトウェア開発」103.1万円、「FMS/システム運用管理」109.1万円、「システム販売」139.9万円、「電子部品」167.9万円、「総合サービス」178.1万円の7業種だった。「オンラインゲーム」2604.1万円、「モバイル通信サービス」1486.9万円、「ASPSaaS」1208.7万円のネット系3業種が全体を引き上げている。 

◆純利益
 321社の純利益総額は▲8.4%の3兆8184億68百万円だった。純利益率は3.8%で2014年度実績値から0.4ポイント低下した。リーマンショックからの推移を見ると、2008年度▲1.7%→2009年度1.6%→2010年度3.0%→2011年度1.0%→2012年度1.4%→2013年度3.9%→2014年度4.2%と推移しているので、2013年度水準に戻ったといっていい。
 純利益率が高い(儲かる)業種は「ASPSaaS」21.2%、「オンライン・ゲーム」19.2%、「アミューズメント機器」10.3%の3業種、平均値より高かったのは「モバイル通信サービス」8.4%、「電子部品」7.0%、「ソフトウェア・ライセンス」6.9%、「FMS/システム運用管理」6.1%、「ゲームソフトウェア」5.3%、「総合サービス」5.2%の順。
 就業者1人当たりの純利益は112.6万円で対2014年度比は▲ 9.9%だった。絶対額が低かったのは「電子機器・情報処理装置」18.7万円、「業務代行/BPO」49.7万円、「ソフトウェア開発」55.1万円、「登録型要員派遣」61.1万円、「FMS/システム運用管理」75.3万円などで、受託系に「儲からない」業種が集中している。
 2014年度比が落ち込んだのは「電子機器・情報処理装置」▲57.6%、「ASPMVNO」▲41.7%、「電子部品」▲10.0%、伸びたのは「FMS/システム運用管理」△84.9%、「オンラインゲーム」△58.4%、「デジタル・コンテンツ」△56.0%、「総合サービス」33.0%などだった。