絶対額▲8.9%減の「利益なき繁忙」
今回は産業の付加価値=営業利益率についてである。受託系ソフト/サービス業の営業利益率は2005年が5.5%、2015年が7.2%だった。11年間の平均営業利益率が17.0%のネット系ICTサービス業には遠く及ばず、業としての付加価値は相変わらず低空飛行と言えないこともない。どのように評価するかは別稿に回すとして、ICT産業全体の中で受託系ソフト/サービス業がどのような位置にあるのか、営業利益率を軸に見ていこう。(文中△はプラス、▲はマイナス)
■ 営業利益=付加価値 ■
一般に、企業の利益は「純利益」を指す。だが本稿では営業利益を重視する。というのは、純利益は経常利益から特別損益や事業税を足し引きしたもの、経常利益は営業利益から営業外損益を加減したもの。営業利益は 〈売上高-売上原価-販売費・販売管理費〉、つまり本業の利益=付加価値ということになる。
ICT関連株式公開企業全体(2005年:443社、2015年:509社)における1社当り営業利益率を見ると、2005~2015年の平均営業利益率は6.4%だった。2015年3月期決算でトヨタ自動車10.0%、新日鉄住金6.2%、日本電信電話(NTT)9.8%、日本航空13.4%、三菱商事7.5%、電通18.4%、リクルートホールディングス9.4%、JTB8.4%、ローソン14.2%などと比べると、決して高いとは言えない。
しかしICT関連業のなかには、他産業のトップクラスに匹敵する業種もある。ICT関連5業態の2005~2015年平均営業利益率を計算すると次のようになった。
1.受託系 6.1%
2.機器製造系 4.1%
3.ネット系 17.0%
4.製品販売系 8.0%
5.モバイル通信 15.3%
■ ネット系の中にも格差 ■
多くの方が予想するように、ネット系とモバイル通信の2業態が格段に高く、機器製造が最も低かった。
さらに細かく主業務別に整理した平均営業利益率は次のようだった。
1.受託系
1-1 ネット型
1 ASP 9.6%
2 サイト運営サービス 3.5%
3 ホスティングサービス 9.0%
4 マーケティング支援 9.5%
1-2 マンパワー型
1 フィールドサービス 5.7%
2 特定業務BPO 6.2%
3 FMS 6.8%
4 複合サービス 7.2%
5 ソフト開発 4.5%
6 人材派遣 3.9%
2.機器製造系
1 情報処理機器 3.1%
2 業務用電子機器 7.1%
3 周辺機器 9.1%
4 娯楽用電子機器 16.4%
5 情報家電 2.7%
3 ネット系
1 ISP 9.1%
2 オンラインゲーム 26.3%
3 ネット広告 4.4%
4 コンテンツ 5.4%
5 ネット通販 11.0%
6 ポータル 28.3%
4 製品販売系
1 機器卸・販売 3.2%
2 ゲームソフト 12.6%
3 ターンキー 3.5%
4 ライセンス 17.0%
5 モバイル通信サービス 15.3%
平均営業利益率が最も高いのはネット系のポータルサービス、最も低いのは情報処理機器だった。また平均営業利益率が低い機器製造系のなかで娯楽用機器、製品販売系のソフトウェア・ライセンスとゲームソフトは比較的高く、ネット広告やコンテンツは予想に反して利益率が低い。
ネット系ICTサービス業の17.0%、モバイル通信サービス業の15.3%と、他産業のトップクラスに匹敵する業種もある。全体の平均営業利益率が6.4%に減少してしまう原因は、業種の売上高構成比にある。
■ 2009年から連続して上昇 ■
受託系ソフト/サービス業の営業利益率の経年変化を見ると、3月期決算の企業に限った暫定値だが、
2001年(143社)5.5%
2002年(159社)5.8%
2003年(164社)6.1%
2004年(172社)6.1%
だった。
また本調査では
2005年(207社)5.5%
2006年(227社)5.6% 05年比△0.1
2007年(230社)6.2% 05年比△0.7
2008年(232社)6.6% 05年比△1.1
2009年(223社)4.8% 05年比▲0.7
2010年(212社)5.4% 05年比▲0.1
2011年(208社)6.0% 05年比△0.5
2012年(199社)6.4% 05年比△0.9
2013年(214社)7.0% 05年比△1.5
2014年(225社)6.8% 05年比△1.3
2015年(220社)7.2% 05年比△1.7
と推移しており、2015年は2005年以来の最高値を記録したことになる。業態別の平均営業利益率2005年/2015年は、ネット型が9.6%/10.4%(△0.8ポイント)、マンパワー型が5.4/7.2(△1.8ポイント)だった。
営業利益率の上昇は、受託系ソフト/サービス業にとって喜ばしいことのようだが、絶対額を見ると必ずしもそうは思えない。実際、2005年の営業利益率は5.5%だったが、就業者1人当りの絶対額は128.1万円だった。2008年の140.8万円(ネット型199.9万円、マンパワー型126.8万円)をピークに2009年に94.9万円(ネット型186.3万円、マンパワー型92.9万円)に落ち込んだ。以後、営業利益率、絶対額とも連続して上昇してきたものの、2015年の絶対額は117.0万円(ネット型202.4万円、マンパワー型114.5万円)で対05年比は▲8.7%だ。忙しいだけで「儲かる体質」にはなっていない。
ついでながら、2005年の1人当り売上高はネット型が2,091.2万円、マンパワー型が2,328.6万円とネット型が237万円低かった。ところが2015年はネット型が1,944.5万円、マンパワー型が1,610.5万円と逆転している(受託系ネット型4業種(ASP、サイト運営受託、ホスティングサービス)を「ネット系受託型」とすることも可能だが、本稿では特段の変更は行わない)。