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大洪水の中欧、驚きのショート・トリップ 現代史の痕跡を訪ねて(2)

 プラハからドレスデンへの国際急行は、氾濫したヴァルタヴァ河、エルベ河を、コンパートメントの窓際席から数メートルの高さで見下ろしながらの行程となった。TVニュースが伝えていた場面が次々と現れる。コースが大きくカーブしたところでは、幅広の濁流が正面から迫ってくるようで大迫力だった。線路の両側冠水という街もあったが、幸い鉄路は確保されていて、徐行運行でダイヤが大幅に遅れつつも無事ドレスデンへ着くことができた。



[洪水地帯列車の旅]

 この行程は、大部分が幅広の川沿いの緑に包まれた渓谷で、まことに風光明媚なコースである。河岸に点在する建物も多くが景色に溶け込む美しい意匠のものだった。
 その中で、今回、多量の乗用車を積載した超長大な貨車をいくつも見かけた。停車中の駅で追い越されることもあった。
 その長いこと、日本では見かけない長さである。
 中欧の輸送環境は大陸国家そのもの。大河や運河の水運以外は陸路、鉄道主体になる。
 今回のような洪水では水運は止まる。東京のベイエリアの住人として、つくづく水運に恵まれた日本の持って生まれた優位を感じたが、同時に欧州のこうした不利を克服しようとする並々ならぬ努力を知らされた。内陸国チェコはしっかりと輸出用乗用車を生産しているのだ。

[驚愕の復元都市ドレスデン

 ドレスデン
 まさに驚愕の都市だった。着いてビックリ、見てびっくり、歩いて仰天である。ここは空前絶後の大空襲からの復興・復元都市。いにしえの宮廷都市、日本で言えば京都のようなところと聞かされてきた。第二次大戦末期、意図不明の猛烈な大空襲で灰燼、がれきの山に。東独としても復興したが、統一ドイツになって歴史建造物を本格復元し歴史都市になった。
 新幹線の停まる中央駅は、巨大ガラスドームに包まれた旧来の意匠や煉瓦の壁面を残しながら、あのロンドンに超現代建築をちりばめたイギリスの建築家ノーマンフォスターの手になるとても雰囲気のよい巨大構築になっていた。その周辺からエルベ河沿いの歴史地区までの間、大きな4ブロック程度がマスタープランのもとびっくりするような近代都市構造になっている。
 ホテルはモダンなものが駅前にあった。そこから街へ繰り出そうとすると、すぐにここが旧東ドイツであることを教えられる。歩行者信号に、マグデブルグやベルリンで見たあのかわいい男の子のマークが浮き出ている。アンペルマンという。女の子バージョンもあった。そこから正面の通りが凄い。社会主義の名残か、幅広の歩行者専用道がまっすぐに伸び、その両側に住宅、ホテル、オフィスビル、そして巨大な商業モールがずっと連なる。通りは噴水やモダンアート、体裁の良い並木などで飾られている。ところどころ左右に枝が伸びる。路面電車や搬入路はその外側に分けられている。
 行き着いたところに巨大広場が有り、そこから先が中世の歴史地区だ。 まだ建設は続いているが中核部分は相当に完成していて、その凄さに圧倒される。あのH&Mがモール中央にあった。スタバはもちろん、アップルもあった。以前訪れた旧西ドイツ側の中核工業都市シュツットガルトの駅前、ケーニッヒ通りが、東京の銀座並みとか言っていたが、ここドレスデンのプラガ−通りにはかなわないだろう。これだけの商業環境が活きているには周辺にかなりの産業基盤があるに違いない。
 歴史地区は事前調査どおりだ。とても復元建築とは思えない巨大構築物がぎっしり、あるいは広場を囲んで中世都市を構成し、エルベ河岸に見事な景観を創り出している。石造建築は対岸にも並び、見事な橋と合わせて、宮廷都市を再現している。復元建築は2色の石材でモザイク状に組み上げられ、その色の違いに意味がある。黒いのは元の石材が元の位置にはめ込まれている。アイボリーのは復元材という念の入れ方だ。
 歴史建築物の巨大さには驚くが、その中でもひときわ大きいのが聖母教会だ。ロンドンのウェストミンスター、あるいはベルリン大聖堂並みの印象だった。その前の大広場になんとルターの巨像が建っていた。ドイツは宗教改革の地、カトリックではないのだ。聖堂内部はこれまたビックリ、さすがに新規復元したものだが、金色輝く豪華絢爛である。新品ぴかかぴかに輝いている分だけ豪華さが増して見えた。観光客は路面電車に無料で乗り放題、観光都市の一面である。
 洪水の影響は甚大。河岸の低地の施設は全部水没。普段は歴史地区の護岸下に並んでいるはずの遊覧船群が、水位が上がって河岸の建造物の前面を隠し、対岸からの眺めを損なっていた。
 ドレスデン
 文字通り不屈のドイツ魂の具現、その尋常でない民族のパワーと、観光や現代産業へのしたたかな情熱を感じる街だった。州都であると同時に、おそらくは旧東独再興の威信をかけたモデルなのであろう。

続きは http://d.hatena.ne.jp/itkisyakai/20130623